55話 対策会議 上

 オノフリオ侯爵家当主からの返信が来た。

 エドワードはシルヴィアに読み聞かせ、わかりやすく説明する。

 その後で、ジーナとカロージェロを呼んだ。

「教育係を送ってくれるそうだ。……侯爵令嬢らしいけど」

 ジーナとカロージェロが顔を見合わせる。

 ジーナは困惑し、カロージェロは微かに眉根を寄せている。

 エドワードが頭をかいた。

「うーん……。たぶんシルヴィア様の教育係、って方に重きを置いたせいかな? 侍女がついてくるそうだから、そちらがジーナの教育係なんだろう。……ちょっと、予想と違って困ってる」


 隣国の侯爵令嬢ともなると、そうそう追い返せない。

 紹介してくれたオノフリオ侯爵の顔を潰すことになるからだ。

 ただ、相手もこちらの公爵令嬢に失礼なことは出来ないだろう。

 それは、依頼したオノフリオ侯爵の顔を潰すことになるし、さらにはこちらの公爵家にも泥を塗る行為だからだ。


「……えーと、静養も兼ねているらしい。のんびりと教えてくれるそうだから、ま、隣国からご令嬢が避暑にやってきてついでにマナーも見てくれる、って感じだろう」

 カロージェロは眉根を寄せたままエドワードに言った。

「……確かに以前よりは落ち着きましたが、隣国の令嬢に避暑目的で長期滞在していただける余裕はないのですけどね」

 エドワードは仏頂面で答える。

「なら、正直にそう書いて別の教育係を送ってくれるよう頼んじゃくれないか? 俺だってそんなことわかってるよ。……隣国の貴族の質は知らないが、紹介者とこちらの公爵家の顔を潰しわざわざ隣国に教育係を求めたって事情を察することが出来ないオツムの教育係が送られてくることがない、って信じてるよ」

 エドワードに嫌みで返され、カロージェロはため息をついた。


 言い争いをしても仕方がない。カロージェロも、到着もしていない貴族令嬢に難癖をつけられないので諦めた。

「……現れてから対処しましょう」

「だな。で、次だ。合わせて、上級使用人が送られてくる」

 エドワードの発言に、カロージェロとジーナが驚いた。

「そんなことまで頼んだのですか?」

 カロージェロが非難めいた口調で言うと、エドワードがそっけなくうなずく。

「しかたないだろ。いくら城塞とはいえ、このままじゃまずい」

 カロージェロが黙った。


 確かに、城塞ゆえにシルヴィアが貴族令嬢としてマナーを習得していなくても、侍女としての教育を受けていないジーナが筆頭侍女であっても、護衛騎士が城主代理を行っても、神官長が家令を行っても、全部「城塞だから」でねじ伏せている。

 だが、この国も隣国も、現在戦争は行っていないどころか、現在は友好国だ。つまり、城塞としての役割は必要ないのだ。ゆえに、城塞は長らく放置されてきた。


 今回、幼い令嬢が城主になっても領民が受け入れてくれているのは、ひとえにシルヴィアの特殊な魔術のおかげだ。

 城主に指名されたんだ、と皆を納得させている。


 だが、隣国はその事情を知らない。

 密偵を使ってある程度は事情をつかんでいるはずなのと、現在はカロージェロの存在で見逃されているが、本格的に交流が始まれば自分たちのマナーのなさに眉根を寄せ、ゆくゆくは見下される事態になるだろう。

 見逃されているうちにある程度体裁を整えておきたい、というのがエドワードの見解だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る