LOST WEEK ファンタジー化した世界で元自堕落サラリーマン、自営業を営む
@Asitagamienai
プロローグ
何事にも始まりと終わりがある
プロローグ
2030年12月4日
2028年の9月7日。あの日、世界は一変した。
失われた一週間と呼ばれる超現象によって、世界は一瞬で姿を変えた。
フィクションの中のものされていた鬼みたいな化け物や、ドラゴンのような怪物。遂には魔法が現実に溢れ出る始末。
国家、政治、人民、宗教。それら全ては大混乱に陥り、それに付随する形で様々な問題が出てきた。
これはそんな世界を救済する一人の男の物語……
って、な訳がない。
俺はただの元サラリーマンだ。
趣味はゲームと、あとはなんだろ。博打?
見た目も身長が高くてイケメンなんてわけでもない。かといって恋愛経験がないわけでもなく。
俺を表す上で何か特徴は?と言われたら迷ってしまう。サラリーマンとして仕事がバリバリできるわけでもないし。どちらかといえば若干社会不適合者な方だったか?
まあ本当にごく普通の。いや、下手したら落ちこぼれサラリーマンだった。
帰宅したら一人身寂しく晩酌をし、ゲームして寝て。毎日が同じことの繰り返し。
そんな俺は世界が変わった後に何をしているかといえば。まあ、とある自営業をやっている。
社会の混乱に巻き込まれて潰れる寸前の会社から、退職金を僅かばかり受け取って始めたんだが。
会社勤めしかしてこなかったからめちゃくちゃ自己管理に苦労したし。頑張ってそれなりに稼げた時もあったけど、あの日以降はカネの価値なんて毎日バカみたいに変動するわけで。
だからまあ、とてもじゃないがトントン拍子でうまくいくはずもなく。一月ぶんだと思って稼いだ金が約半月分になった時もあったり、依頼主が金払わずバックれたり。散々なこともあった。
……まあ、そんなことがあっても働かないと飯が食えないからな。辛いこと、楽しいこと。俺なりに頑張って食いしばって生きてきて。なるほど仕事って楽しいかもな?なんて柄にもなく思ってきたんだが。
どうやら限界らしい。
まあ、なんだ。現実はゲームみたいにできてるわけがない。
魔法が使えるようにはなったけど、所詮村人に世界を救えるわけがないし。レベルアップするわけもない。
こんなの書いてたって、セーブされるわけもないし、なんのなぐさめにもならないのはわかってる。
でもせめて。このてちょうをひろったたやつがいたら、俺みたいなやつも生きてたってことをしってほしい。
俺の、名前は____
「って、遺書くらい最後まで書かせろよ……」
これじゃあホラーゲームの生存者の最後の記録じゃないか、と。
馬鹿みたいなことを思いながら、血を流しすぎて震える手からついにボールペンを落とし。
手帳をできるだけ遠くに放った。
せっかく書いたんだ。途中までとはいえ、コイツに俺ごと丸呑みされたくはない。
俺の目の前に迫る巨体と、紅蓮に揺れる双眸。
裂けた口からは涎がぼたぼた垂れている。今にも噛みついてきそうだ。
そんな受け入れ難い現実から目を背けるように、ぼんやりと霞む視界。やっとけばよかったこと、やりたかったこと。結構あったんだな、と思う。
もっと自由に楽しもうとすればよかったな、とか。
あのゲームの新作は今後2度と出ないんだろうなぁとか。
なんとなく、この現実がゲームだったらなあ、と思った所で。
「難易度バグってたわ。このゲーム」
そういって、俺は自嘲気味に笑った。
数時間前
異界侵食度 F 値
関東地方 エリア20 にて
「……ここにきて5時間。こんだけ探してもない、か」
「……」
うっすらと冷や汗をかくお客様の顔を見て、俺は声をかけた。
「……ヒカリさん、時間的にもう限界です。引き上げましょう」
「っ!で、でも!」
残りたい彼女の気持ちもよくわかる。だが、俺は勤めて冷静に言い放つ。
「これ以上は正規の依頼料をいただかないといけなくなります」
「!!」
ショックを受けたような彼女に、続けて。
「もう茂爺との約束の時間から3時間はオーバーしてます。これ以上、仕事でないのなら、うちから損失は出せません」
「……お、お金がそんなに大事ですか!?」
思い詰めたような表情で叫ぶ彼女に。俺は冷徹にこう告げた。
「……なにいってんだ。当たり前だろ。こっちは文字通り命がけでこんなとこまで来てる上、日々生活かけてんだよ。言いたくないが、慈善事業がご希望ならあらためて他所を当たれ」
厳しく告げられたその言葉を受け、黙りこくってしまった。こんなことを言わなければいけなくなってしまった現状に俺はうんざりしながら、空を見上げる。
空には三日月のように大きな亀裂。そこから滴り落ちる液体が常に大地に流れ、溶けていく。よく見ると亀裂の中には晴天にはおよそにつかわしくない、仄暗い闇がかいま見え、その先には巨大な都市が映っている。
更には、所々から聞こえる咆哮や、獣の唸り声。
……そう。俺がやっている仕事はいま、文字通り命がけなのだ。
《なにせ、空想だと思ってた化け物がその辺を我が物顔で歩き回ってんだからな》
忘れ物ひとつ探すことが命がけになる世界が来るなんて。
あの頃の俺には、いや、きっと誰にも。
ちっとも想像できなかった。
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