影山高校オカルト部活動日誌~寺生まれのギャルさんってすごい!~
羽柴
CASE1 BOY MEET WONDER
俺の名は 藤堂 春人。
友人にはハルなんて呼ばれてる。どこにでもいる高校一年生だ。
気怠い午後の授業に午睡を決め込むとすぐに教師に起こされ、教室中に一時の笑いを提供するようなお調子者だと自覚している。
授業が終わり帰り支度をする。
面倒で部活には入っていない。帰って何かするでもない。勉学に力を入れる殊勝な心掛けも特にないのだ。
特に遊び歩く友人もいない。いつも一人の登下校だ。
(はぁ、学校ってなんで行くんだろ?)
そんな毎日に嫌気がさしていた。
思春期特有のメランコリーとでも言おうか、とにかく俺は退屈で鬱屈な日々を過ごしていた。
帰り道の河川敷で意味もなく土手に座る。土手に生えた雑草を無意味に引きちぎりながら無為な時間を浪費していた。
どうせ家に帰っても専業主婦の母親が勉強しろとうるさいだけだ。
薄暗い黄昏時までぼんやりと川の流れを見ていた。
時間がうつろい、うつらうつらと、と船を漕ぎながらそろそろ帰ろうかと立ち上がろうとした時、俺は視界に不思議な光景を捉えた。
川から這い出す人影。
それは身体は楕円形のシルエットでずんぐりとしていた。
「なんだぁ? おっさんでも川に落ちたか?」
俺はその不可思議な光景によく目を凝らした。
周囲は薄暗く、ぼんやりとしか見えない。
ただ、その人影の両目は赤くぼんやりと揺らめいてこちらを見据えている。
瞬時に俺はやばいと悟った。
(なんだあれ?! 絶対人じゃない! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ!)
俺は立ち上がろうとするが膝に力が入らない。
恐怖で身がすくむとはよく言ったものだ。
気が動転し、足は意思に反して地面を探し空転するのみだった。
その動かない足に眼をやると、視界の端に先ほどの化け物がのたのたと近寄ってくるのが見えた。
「気づかれてる! やばい! やばい! やばい!」
動機が激しくなり焦りで、呼吸もうまくできない。
心音は高鳴り、口から出てきそうなほどだ。
酸欠で意識が朦朧としてきたころ、その化け物が土手を登ろうとしていた。
俺は恐怖から意識を手放そうとしていた。
だが急に頭上から聞こえた声で現実へと引き戻されるのだった。
「やだ! マジ! こんなとこで河童とかうけるんですけど~!」
カシャ! カシャ! とカメラのシャッター音とともに妙にテンションの高いギャル言葉が耳に入ってきた。
「う~わマジレアモンじゃん! うける~!」
笑顔でスマホを片手に写真を撮りまくる金髪ギャルが土手の上に現れた。
その危機感のない言葉に俺は怒鳴るように危ないと伝える。
「いやあんた何してんだ! 危ないからさっさと逃げろよ!」
「ん? なぁにきみ? オタクも河童見に来たの? あちゃ~先こされたか~!」
いい笑顔のまま金髪ギャルは意に介した様子はなかった。
人がせっかく危険だって言ってるのに、腹が立ってきた。
その怒りのおかげか、膝に力が入ってきた。
とりあえず彼女連れて逃げようと俺は土手を駆け上がる。
彼女の手を掴んだ瞬間だった。
どぽん! と川の方で音が鳴るのが聞こえた。
「あちゃ~逃げちった。 まぁ写真取れたしよしとすんべ! てかきみ何してんの?」
俺はその音の方に目線を向けると先ほどの化け物の姿がないことにほっと胸を撫でおろしその場にへたり込んだ。
手を持ったままだったので、金髪ギャルも一緒に屈みこむ形になった。
「あ! ちょっと! てかあれ? もしかして? 助けてくれようとした感じ?」
金髪ギャルはやっとこちらの意図に気付いてくれたようだ。
「いや、でも勝手にどっかいてくれて助かりました。ほら、膝がまだ笑ってる」
危機が去ったことで、恐怖がぶり返したようだ。
まだ立てそうにない。
「君、すごいね! 怖いのに助けてくれようとしたんだ! ありがとね!」
金髪ギャルは屈託のない笑顔で感謝してくれる。
その笑顔に俺は顔が紅潮するのを感じた。
「まぁでも、河童ぐらいなら大丈夫だよ! そんなこわがんなし! 仲良くなれば気のいい奴だしね!」
「へ?」
このギャルが何を言ってるかわからない。
河童?仲良く? あの化け物が気のいい? 先ほどの金髪ギャルの行動を思い出してみる。
あの化け物をみて、楽しそうに写真を撮っていたのだ。
しかも、見慣れた物のような喋り口で……。
俺は冷静になってもしかして危ないやつなのでは? と、この女を評価した。
俺が落ち着くのを待つと金髪ギャルは去っていった帰り際にまたね! 後輩君と気になる言葉を残して。
俺もそのまま家に帰ることにした。
辺りはすでに真っ暗だ。
家に帰ると母に遅い帰りをなじられた。
その後宿題を片づけ風呂に入りご飯を食べる。
いつもの日常はそうして更けていった。
やはりこの日常は変わらない。
だが、今日のあの出来事はベッドに入り瞼を閉じるとあの時に戻ったように思いださせられる。
今にも足元にあの化け物が迫ってくる幻視が見えるのだ。
そんな妄想を振り払うように寝よう寝ようとすると余計に化け物の輪郭ははっきりとしてきた。
俺はそのまま気をうしなうように眠りに落ちた。
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