ナマクビ・ショートショート
バルバルさん
ナマクビのむかしばなし
――――私を目覚めさせたのは誰だ。
おや、なんだいなんだい。私を目覚めさせておいて、蜘蛛の子を散らすように。
全く。せっかく目覚めたというのに、話し相手もいやしないなんてなぁ……寂しいものだよ。
って、お前は逃げないのかい?
ほら、そこでぼかーんとしている坊主。そう、お前だよ。
お前さんは他の子供たちと一緒に逃げないのかって聞いているんだ。
なんでって、見てわからないかい?
今、お前と喋っている私の事。首から下の無い、所謂生首さ。普通怖いだろう。
……人を見た目で判断しちゃダメって……そもそも私は人ではないし、何より、お前さんにそう言ったおじいさんとやらも、こんな事を想定はしていなかったと思うが?
まあいい。坊主。逃げないのなら、少しばかり私の話に付き合え。良いだろう?
こんなところに封印されていると、口を動かして話すくらいしかやることが無いのさ。
さて、あれはもう何百年経ったのか……
◇
むかしむかし、まだ、人と妖の時代が交わっていた頃の話だ。
私も今は首しかないが、これでも何十人と喰ってきた狐妖怪でな。色々やんちゃな事をした物よ。
ん?
確かにきれいな顔か。ふふん。首だけになってもそう言われるとはな。お前さんも、後十年もすれば私が食っても良いと思える男になりそうだな?
はっはは。まあ、今はとってくったりしないから安心しろ。
とにかく、私の噂が京の都に届くくらいにはやんちゃな事をしていた。いやぁ、若かったねぇ。
そんな中、私の住まう山に、一人の男がやって来た。名は……秋風。
あの男、剣を極めたいが人を切りたくないと言って都から出て行ったという変わり者でな、腹を減らして倒れていたところを見つけて、その時は満腹だったし、気まぐれに飯を食わせてやったのよ。
そしたら飯をやった私の方が小恥ずかしくなるくらい感謝して来てな。本当にバカな奴よ。
しかもあ奴、私の事を妖狐と見抜けていなかった。そのくせ、剣の腕だけは一流を超えるという変な奴だったよ。
その後も、たまにやってきては、山の獣を狩ってきたり、都の流行の服を持ってきたりと……
まあ、悪くなかった。あの男との時間は。
だが、私は人食いの妖狐。あの男は人間。それはどうしようもできなかったのよな。
あの男に、人を襲う所を見られて、戦いとなった。
本当に強かった。なにせ、私が何もできずに首と同を別れさせられたのだから。
痛みも無く、首が飛んで……だが、私は死ななかった。それほどに私の生命力は強かった。
しかし、あの男。私に止めを刺さなかったのだ。
そこにどんな想いがあったのかは、私にはわからないし、理解できないのだろう。
ただ、何故だろうなぁ。この小さなお堂に私を封印するあの男の最後の顔を見たら、もう無い胸が痛んだのは確かさ。
◇
で、こうしてお堂の中で、妖の時代が終わるのを眠りながら感じておったよ。
さて、これで私の話は終わりだ、坊主。そろそろ友の元に帰るがよい。
あぁ、私なら心配するな。どうせ、もう長くは持たん。首だけだしな。
封印を解かれた時点で、死に向かっているのさ。
……最後に、名を教えてくれるか?
……そうか、秋水。良い名だ。
ではな。坊主。お前に思い人ができたら、その時は裏切るのではないぞ?
生首だけになっても、後悔しか残らぬからな。
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