五月人形と悪夢
佐藤さんは子供の頃、不思議な経験があるそうだ。話をしてくれないか交渉したところ、快く話してくれた。
「人形ってあるじゃないですか、子供時代に五月人形を買ってもらったらしいんですよね」
らしいというのは佐藤さんが生まれたときに祖父が買ったものなので、自分の記憶に買ってもらったという記憶が無いらしい。
それでですね、それを気にせず、季節が来たら親が出してるなくらいに思って過ごしていたんですよ。取り立ててどうこうと思ったことはなかったですね。
「それで、不思議な経験というのはなんでしょうか?」
ああ、そうそう、その話でしたね。その人形は記憶をどんなに辿っても生まれたときからある気がするんですがね、その人形が壊れたときの話なんですよ。
「壊れたんですか?」
ええ、その原因がなんとも不思議でして……
そう言って佐藤さんはその不思議な経験を話してくれた。
実はですね、小学生の低学年だった時代、私はいじめられていましてね、ああいや、心配していただくようなことではないですよ、もう終わった話ですしね。ただ、そのいじめが終わった原因が未だに分からないんですよ、いえ分かりたくないと言うべきでしょうか。
一体何があったんですか?
いじめられていたわけですがね、半分不登校みたいになっていたんですよ。当時は週の半分は休んでいましたかね。親も学習は家庭でやってもいいという方針だったので許されてはいたんですよ。
しかしね、あるとき登校したところ私をいじめていた主犯たちが全員謝ってきたんですよ。何かの冗談かと思ったんですが、そのいじめっ子たちが口々に私に言ってきたんです。
『悪かった、もう何もしないから俺たちの夢に出てくるのはやめてくれ』
何のことだか分かりませんよ。唐突に夢とか言われるんですからね。どういうことかと話を聞くと、彼らが全員同じような夢を見ているそうなんです。その夢の内容が、武者姿の男が出てきて自分たちを刀で切りつけていくというものらしいんです。毎日のように見るので寝不足が続いていて限界だと言うんです。
それで夢を見た連中が話し合って、それが全員私をいじめていた連中だと分かったそうで、総出で私に謝罪をしてなんとかしてもらおうとしたそうです。
私だってそんな夢に心当たりはないですからね。言われても正直困るのですが、それでいじめがなくなるならと承諾したんですね。実際それで何が出来るかは分からなかったんですが、その日からいじめられることも無くなりまして、学校に通いだしたんです。
「それで、その夢というのはどうにかなったのですか?」
そう訊ねると佐藤さんは少し躊躇ってから答えた。
まず帰宅して何か原因があるんじゃないかと考えました。とはいえ、呪いの儀式なんてしていませんしね、さっぱり心当たりがないんですよ。それで家の中を探してみたら……人形が壊れてたんですよね。人形を買ってくれた祖父ももうその時期にはいなくなっていましたし、人形が壊れる原因は思い当たらないんですがね、とにかくその武者の格好をした人形は四肢をバラバラにしてガラスケースの中で崩れていました。それで、ああ、おじいちゃんがなんとかしてくれたんだなあと直感的に思ったんですよ。
その夜、家族に人形が壊れたことを伝えると、次の休みに家族でお焚き上げをしてもらいました。それ以降夢で何かを見たという話も聞きませんし、多分あの人形が原因だったのだと思っています。祖父は亡くなってからも気にかけていてくれたんですね。
「だから、私も子供ができたら五月人形を買ってあげようと思っていますよ」
そう言って佐藤さんは話を締めくくった。
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