黒い袋、透明な袋
「少々昔の話になる、あなたは知らない時代かもしれないが、それでいいなら話すよ」
そう言って佐々木さんは昔の思い出を語ってくれた。
「まず今の日本ではほとんどのゴミは地域指定のゴミ袋にいて捨てていますよね?」
そうですね、どんどん分別の種類が増えて言っている最中です。
私が言うと彼女はソも前時代について話し始めた。
「昔は真っ黒なゴミ袋をゴミ捨て場に置いておけば中身も確認されず持って行かれるのが普通だったんです。結構な期間それが続いて、環境云々でゴミ袋は専用の透明な値段の高いものになったんですよ。それでそれはまだゴミに寛容だった頃のことです」
それから彼女は思い出を語ってくれた。
ゴミ袋が真っ黒ということは中に何が入っているか分かりませんよね? その日、私は適当に燃えそうなゴミを放り込んで捨てたんです。そして家に帰ってから、穴の開いた靴下が玄関に転がっていたので、忘れたかなと思って、収集される前に急いでゴミ袋にねじ込みにいったんですよ。当時はそんな適当なやり方でも許されたんです。
真っ黒なゴミ袋って言ったじゃないですか? ほとんどのゴミが真っ黒な袋に入っているので誰のものかなんて分かるはずがないじゃないですか。そのはずなのに何故かゴミ捨て場には私の捨てた袋だけが開封されていたんです。悪質なイタズラだと思い靴下をねじ込んで袋を閉め直したんです。なんとか収集には間に合いましたよ。
それから数回、何故か私のゴミ袋だけが開かれていたんです。問題はどうやって私のものだと気付いたのかということです。全員が中身の見えない袋を使っているのですから、どこの誰が出したかなんて分からないと思うんですがね、必ず私のゴミ袋だけが開けられており、その他の袋にはまったく結び直したあとがなかったんです。
それに気付いてゾッとしましたよ。相手は私を意図的に狙っているんですから。その頃はストーカーなんて言葉はほぼ無かったですし、そもそも他の家と同じゴミ袋なんですから私のものを判別していることになるじゃないですか、いっそ片っ端からゴミ袋を開けた様子があればまだ安心出来たんですがね……
「何かそれで怖いことがあったんですか?」
私がとう訊ねると佐々木さんは非常に申し訳なさそうな顔をして言った。
「不気味なことこの上ないですがね、ゴミはしっかり回収されましたし、捨てたのは問題無く焼かれていきましたよ。だから結局気分の問題なんですね。どうやって私のゴミを狙ったのかは分かりませんが、そこはまあ、捨てたものですからね」
そう言って軽く笑った佐々木さんは『よく分からないのがゴミ袋が透明になったら開封されることが無くなったんですよね。普通逆だと思うんですがね、結局その変質者か何かは自然消滅しましたよ』そう言った。
「ただね」と言って佐々木さんは一言言った。
「多分ですがゴミの中から何かを抜き取っていたのだと踏んでいますよ。透明の袋になったら何を取ったのがよく分かりますからね。そこだけは少し怖いですね」と言って私は話を聞き終わった。
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