電車から見えた赤
佐藤さんは最近、通勤手段を電車から自家用車に変更したそうだ。その理由を語ってくれた。
「実は電車の中でどうにも奇妙なものを見ましてね、アレがなんだったのかは分かりませんがもう出会いたくはないんですよ」
アレは半年前から出始めたんですよ。未だになんなのかは分からないんですが、分からない方が良いんだと思っています。
そう言う佐藤さんは怯えているようなので、良ければ話してもらえないかとお願いした。
「ええ、始めに見たのは駅に座る人なんですがね、なんだかその人『真っ赤』だったんですよ。服が真っ赤とかではなく顔や腕、足まで真っ赤な人間だったんですよ。それでも他の人は誰もそれに注目していないので『そういうもの』だと思い無視しようとしたんです」
そうしてその日は電車の中に乗っているときに真っ赤な人が駅に立っているのを電車の中から眺めているだけだった。不気味には思ったが、男女の区別もつかないアレを無視すればいいだけのことだろうと思い、気にせず会社まで行ったんです。
それからなんですがね……始めは通勤に使っている区間の一駅にしか出なかったその赤い人なんですが、次第に二駅、三駅と増えていきましてね。いや、ただ駅に立っているだけなのですが、電車に乗ってくるわけでもないのに次の駅に立っているんです。一体ではないのか、もしくは特殊な移動をしているのか、それは分かりませんがだんだん怖くなりましてね。
しかし、しばらくの間はただ駅に立っているだけなので無視すればいい話だった。不気味なのは佐藤さんが見ているホームにいるということだった。左を見ていようが右を見ていようがその赤い人は必ずその方向の駅にいた。
「不気味なのは間違いないんですが、まだそこは我慢しましたよ。ただですね、無視していたらついに各駅にいるようになって気にしないにしてもキツくはなってきました」
そしていよいよその赤い人は電車の中に乗り込んできたそうだ。
「満員の電車にソレがいるんです。我慢出来ないんですよ、その人型は近くで見てようやく血まみれの人間だというのが理解出来たんです」
結局危害を加えられたわけではないんですがね、不気味なことこの上なかったんです。怖いですよ、でも仕事に行かないわけにもいかないので仕方なく見ないようにしていましたよ。見えていない周りの人間も大概恐ろしく思えてきましたよ。
「それで車通勤に切り替えたんですよ、自動車は安い買い物ではないですしね、税金だってかかりますよ、もちろん駐車場の代金もね。それでもアレから解放されるなら安いものだと思いましたよ」
そうして必死に逃げ続けていた佐藤さん、アレがなんだったのかは未だに分かっていないのだが、一つだけ分かったことがあるそうだ。
「始めはアレは電車に飛び込んだ人間の霊じゃないかと思ってたんですよ、でも違うんです。飛び込みの幽霊なら電車にしか出てこないはずですよね? でも自動車通勤にしてもミラーに後部座席に座るあの赤いものが映るんですよ。電車にこだわりがあるのではなく僕に拘っているんでしょうね」
ちなみにもちろん買った車は事故車ではない、ローンを組んだとは言え新車だった。それなら自動車絡みの幽霊というわけでもない。ただ佐藤さんはそれを認めたくはなかった。それを認めるということは自分に取り憑かれていると認めるようなものだからだ。
「悩み抜いた末にお祓いに行ったんですよ、神社から寺、教会までいろいろな宗教を頼りましたよ、それでもあの赤い人は出てくるんです。ただ、実害がなかったので仕方なく放置して置いたんです。もう少し努力するべきでしたね」
赤い人が見えだしてから一年になろうとしていた、そんな時に働いているとき電話が入った、それは兄が脳出血で倒れたというものだった。自動車を走らせて駆けつけた頃には兄はもう事切れていました。赤い人との関係を認めたくなかったので考えないようにしたんですがね、兄の葬式でそれを見たんです。
それは葬儀中、遺影が異様なことになっていることに気がついた。遺影の中にあの赤い人が映っているのだ。それを気にする人がいないことから遺影の中の兄の後ろに立っている赤い人は見えていないのだと分かった。
それ以来、赤い人を見たことはないという。赤い人が兄に取り憑いたのか、兄が赤い人を連れて行ってくれたのかは分からない、ただそれ以来平和な生活を送れているそうだ。
ただし、それでも電車に乗るのは怖いので、目的地が日本の中なら新幹線ですら使わず自家用車で移動しているそうだ。
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