第19話 巨大なステーキ豆なる食材

 その後、私たち三人は日用品などの生活に必要なものをそれぞれ買いこみ、食品売り場へと向かった。

 食品売り場には、見慣れた食材のほか、ロタスのような見慣れない食材も並んでいる。ざっくり、三割くらいは知らない食材だろうか?

 料理好きとしてはたまらない光景だ。


「魔神様、お荷物をお持ちいたします」

「こいつに運ばせるからいいよ。キール、そこのカート持ってきて」

「おう」


 まあ、いくら上級魔塔族専用の店とはいえ、魔神が食品売り場で普通に買い物してたら多分びっくりするよね……。

 ライトはあまり気にしてないみたいだけど。


「今日、何食べようか? 食材は食材で買うとして、夜は食べて帰ってもいいけど」

「いいの? 行ってみたい! 魔塔界にも飲食店があるのね」

「そりゃあるよ。その辺は、多分ヒマリが住んでた世界とあまり変わらないよ」


 ちなみに飲食店も、上級と中級以下で入れる店が分かれているらしい。

 本当に、実力主義の極みみたいな世界よね。

 弱い魔塔族は生きづらそう。サヴァントの扱いもひどいし。

 ライトが「怖い思いをしたくないなら家から出るなよ」って言ってた意味、今なら分かる気がするわ。


 そんなことを考えながら食品売り場を見ていると、ひと際目を引く豆があった。

 ――え、これ、豆よね!?


「ねえ待って、これ何? すごい大きい!」

「うん? ああ、ステーキ豆だよ。豆を取り出してステーキみたいに焼くのが一般的だけど、さやのまま蒸し焼きにしてもおいしい」


 枝豆のように少しふわふわしたさやに二~三粒ずつ包まれているその豆は、さやの直径が三十センチくらいあって、豆本体も一粒一粒がかなり大きい。

 厚みもあるし、うまく焼けたらホクホクしてておいしそう……!


「食べたいなら買うけど」

「でも、こんなの買ったら荷物にならない? これから食事に行くのよね?」

「いやいや、荷物は家に転移させて置いていくよ」


 あ、そっか。

 私とキールを連れて転移できるくらいなんだから、荷物くらい余裕だよね。

 私にもアイテムボックスがあるみたいだけど、この世界じゃ特別ってこともないんだろうなあ。魔法強い。


「じゃあほしい! 使ってみたいわ」

「潰して、ほかの食材と一緒にマヨソースで和えてもおいしいよ」

「え、マヨソースって、マヨネーズのこと?」

「え? いや分かんないけど、卵と酢と油を混ぜたクリーム状のソースだよ」

「やっぱりマヨネーズだ! ここにもあるのね!」

「――ああ、そういえば人間界で見たサンドイッチにも使われてた気がする」


 マヨネーズって、異世界には存在しないイメージだったわ。

 ここって案外グルメな世界よね。

 おいしいものがたくさんある世界で本当によかった!


 ほかにもいろいろと珍しい食材を買いこんで、私たちは店を出た。

 ちなみにロタスも買ってもらった。

 あれ、サラダやマリネに加えたら絶対いいアクセントになると思う!

 買ったものを転移魔法で家へ送り、「どこに行こうか?」とライトがあれこれおすすめの案を出してくれる。


「……できるだけ変な目で見られないところがいいな」

「さすがに外食するなら個室か貸し切りにするよ。オレがいたら周囲も落ち着かないだろうし、こっちも食事中くらいはゆっくりしたいしね。キールも来るよね?」

「えっ!? え、なんで? オレ今日死ぬの?」

「いや、ヒマリの世話係任せるわけだし、事前にある程度一緒に行動しておいた方がいいだろ。行くならキルスにはオレから連絡しとく」

「あ、ああ、そっか。じゃあ行こうかな……」


 ライトは身構えるキールを呆れた目で一瞥し、ため息をついた。

 いやまあ、普段のことを思うと何か裏があるかもって思う気持ちも分かる。

 でもきっと、これはそうじゃない気がする。多分だけど。

 ライト本当は、キールにも何かしてあげたいんじゃないかな……。

 態度は冷たいし怖いけど、どう考えても嫌いじゃないよね、キールのこと。

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