からす

僕の目の前には一つの扉がある。


鉄製で、どこにでもある、僕を守る扉。


ドンドン。


扉が叩かれた。一体なんだろう?

酔っぱらったおじさんが部屋を間違えたとかだろうか?

とはいえ、まだ13:00。

普通なら働いてる時間。

夢と現実の境を歩くにはまだ早い。


ドンドン。


まただ。今度はさっきより少し強めに。

もしかして、さっき買い物に行ったときに彼女と間違えて声を掛けた女性が文句でも言いに来たのだろうか?

転びそうになったのは助けたし、そもそもただの人違いなのだから許して欲しいのだけれど。

流石にそんな狭量な人はいないと良いな。


ドンドン。


あるいは闇金?いや、僕には心当たりがないけれど。

もしかしたら、知らず知らずのうちに友人の借金の肩に売られてしまったとか。

いや、そんな友人にも宛てはないけれど。


ドンドン。


あるいは、怪物でも外に居るのだろうか?

B級ホラーばりのゾンビパニックでも起きてるとか?

…スマホを確認してもそんなニュースは流れてこない。


ドンドン。


そういえば、彼女がそろそろ帰ってくる時間だ。

扉の前の人(?)が不審者か、あるいは化物か分からないが、彼女が巻き込まれたら危ないな。

一応、ドアの窓から確認しておこう。


ドンドン。


…あれ?何も見えない…外の確認ができないな…

うーん…あ、これは、彼女の合鍵?

そういえばさっき出ていくときに扉が開いてたような…

…なるほど、鍵を忘れたから扉を叩いてるのか。


がちゃ


やっぱり。彼女だ。鍵を忘れて行ったんだな。

「おかえり」そう声を掛けると、体に衝撃が走る。

彼女が抱き着いてきたみたいだ。少し痛い。


どんっ


まただ。今度はさっきより少し強めに。

…あれ?彼女が泣いてる。

そのせいで赤い口紅が取れちゃってるよ。

中々入れなかったから寂しかったのかな?


彼女が僕にキスをした。

僕も彼女を受け入れる。

僕たちの間に真っ赤な花が咲いた。


ような気がした。

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