最下層 #01 - "海"
少女は海にたたずんでいた。その子は綺麗な碧い長髪の、不思議な雰囲気の子だった。彼女は体から生えた"触手"で貝を割ってその中身を口に運びながら、ぼんやりと上の方を眺めていた。
「この上の世界は... 」
少女はアズールと呼ばれていた。彼女は過酷な深海に適応した、碧き海の魔人だった。彼女の眼や口は海の底から見上げた空の様に青く、肌の上からはうっすらとヒトの物ではない青の血の色が透けていた。
彼女がたたずむ浜辺からは海の色に塗られた巨大な壁、そして空色に塗られた大きな天井が見えた。彼女の世界は丸い星ではなく、1km平方ほどの四角く切り取られた世界だった。
「どうして私は... 魔人たちはここにいなくちゃいけないんだろう」
切り取られた世界 - 彼女は心の内でその世界を「空のない檻」と呼んでいた。ここは忌まわしき魔人を隔離するための煉獄、その最下層の「海」を再現した区画だった。
一日の最低限の食事が終わり、アズールが今日するべきことはもう何もなくなってしまった。彼女が浜辺で寝そべること数時間... そこへ空のない檻の管理者、白い防護服に身を包んだ人間がやってきて「調査」を始めた。アズールは自分を育てた魔人の義理の親から人間の言葉を習ったことがあった。
「モウココデハ... ハオコッテイナイナ」
「ツマラナイワネ。ドウセナラ... デハタラケナイカナ」
人間たちがアズールに近づいてきた。彼女はいつもの様に、左手を横に90度上げた。今日の人間は男と女のペアだった。女が採血器を取り出すと、男の方はアズールの髪をつかんで押さえ左腕を羽交い絞めにした。
「うっ」
アズールの青い血を女の人間が採取した。なんの感慨もなく実験動物に針を打つ様な所作で...
「ふーん、コイツの血って青なんだ。ヘモグロビンとかどうなってるんだろ?」
「さあな、だが俺たち"純粋なる人間"とかけ離れたものであることは確かだ。さぁさっさと帰るぞ」
人間とかけ離れたもの... でもどこが違うんだろう?アズールは人間の血の色を知らなかった。彼女は人間を手にかけたことがなかったからだ。まだ海にいた頃、彼女は人間と魔人の戦争について浜辺の魔人たちから聞いたことがあった。しかし遠い国の別の世界の話... まさか自分が空のない檻に入ることになるなんて、思ってもみなかった。
「...何が違うんだろう?」
少女が口にした。
「あ?なんか言ったかぁ?」
人間の男と女が振り向いた。
「シッ!!今のはほら... アイツだよ」
アズールは勇気を振り絞って人間たちと話してみることにした。魔人と人間、何が違うんだろう?純粋に疑問に思っていたことを口にして見た。
「ねえ、人間さん... 私、人間さんや他の魔人の事あまり知らないんだ。だからこんー」
彼女が言うや否や、男の拳がアズールの頬に飛んできた。彼女は後ろに一回転しながら吹っ飛ばされた。
「話しかけるんじゃねえよ、腐れ魔人が」
男は吐き捨てるように言った。アズールの口から青い血がつぅっと流れ出た。
「ププッ... あんま派手にやっちゃうと博士に怒られるよ」
「知ったこっちゃねえよ、あのマッドサイエンティストめが」
「なんかコイツのせいでシラケちゃったね... さっさと帰ってゲームで遊ばない?」
男と女が去っていった。浜辺には魔人の少女だけが残された...
「人間さん... やっぱり私のことが怖かったのかな?ごめんね... 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます