終怪・業務終了報告
あー、見つかったか。
先輩何で
行かないんですか置いてかれますよって、いいんだよ二次会の場所は聞いてるから。後々合流しても問題ないだろ。まだそこまで酔っちゃいねえよ、あんな飲み放題のサワーぐらいで。首真っ赤じゃないですかってのはあれだ、俺そんなに酔ってなくてもすぐ赤くなるんだよ。体質でさ。井坂さんとは逆、あの人べろんべろんになっても顔真っ白だからな。お前が下戸だかどうかは知らないけど、今日一緒に飲むとしても絶対あの人と同じペースで飲むなよ。あの人が酔うの、机の上お銚子がごろごろし始めてからだからな。バケモンだよあの人。そんなんに付き合って潰れるほど馬鹿なこともない。
忘年会、本番は三次会からだし。そこまで行けばOBさんの奢りでオールだよ。適当に話して雑にへらへらしてれば酒が飲めて飯が食える──内緒な、今の。聞かれたら俺刺されちゃうから。いやまあ七割地みたいなもんだからどうってこたないけど、言い方ってもんがあるだろ。何だってさ。
しかし、俺なんか迎えに来てよかったの? 波川もう先に行ったんじゃないの、あいつこういう場好きだろうし。飲み会好きなの、何だかんだで便利ではあるよ。知り合いが多いっての、基本的にはプラスになるからね。知り合いだと思ってたら知らない人だったってのもたまにあるけど、まあそれだってな。殺しにかかってこないならどうでもいいだろ。人の一人や二人増えたところで──なんだその顔。口内炎でもできてんの? お前秋口ぐらいからずっと具合悪そうだったしな。年末年始で養生しとけよ。
ん、知り合いが多いと便利ってのはあれだ、ベタかつ極端なシチュエーションで考えてみろ。何かしら……崖とか熊とか火事とかで、どっちか一人しか助けらんないみたいな状況になったらさ、見知らぬ他人とそれなりに付き合いのある知人だったらどっちを助けるかって話。
まあね、知り合いだからこそ積極的に見捨てたいってパターンも成立しちゃうけどな。その辺はあれだな、相手の趣味と関わり方次第ってとこか。ままならないもんだな人生。ただ俺は前飲んだくれてまっすぐ歩けなくなってたらたまたま飲み屋の端っこに知り合いがいて、始発まで泊めてもらったってことがあるから。あそこで会えなかったらヤバかったからな。誰にですってのは……あー、ちょっと思い出せない。いやいや本当。何だっけな、俺のこと納井くんだろって呼んでくれたときにぱっと気づいたくらいには、分かりやすい声の人だったんだけどね。だからさあ何だよその顔。聞いといて不機嫌っていうか怖い顔すんの止めろよ。悪いことした気分になるだろ。したんなら謝るけど。
そうそう、データな。昨日送ってくれたの、今朝確認した。飲む前に礼、言っとけば良かったな。ありがとうな。感謝してる。……本当だよ。語彙がな、少ないからどうにもぶつ切りになるんだ。忙しい中よく仕上げてくれたと思ってるよ。無茶振りして悪かった。
部誌出んの、たぶん二月ぐらいだな。追いコンで卒業生に渡すのが慣例だし。OBさんはあれよ、三月のOB懇親会。研究発表のとこでばーっと配っちゃう。どうせ発表パート終わったら飲み会だしな。酒入る前に色んなこと済ませとかないと、大体ろくなことにならない。
で、書き終わったってことは俺の話、聞いたんだよな。
まあ、うん。そんな深刻な顔するもんじゃないだろ。適当言わないでくださいよぐらいの扱いでいいからさ、本当に。そんな真面目に取られると、俺もどうしていいのか分かんなくなる。あれだよ深夜テンションだったんだな、あることと──ないこと喋ったってだけだ。それならまあ、いいだろ。嘘を言っても書いても、それでどうなるもんでもない。事実を嘘にすんのも、嘘を事実にするのも、どっちもやろうと思ってほいほいできるようなもんでもないしな。
大丈夫ですかってのはあれな、倫理的なやつな。その辺はまあ、適当にやるよ。前置きでもやっておけば大丈夫だろ、信じるか信じないかは、的なさ。フィクションが含まれますでもいい。読んだやつが範囲を決める方があれだ、健全だろ。俺がどこまで何をやったかも、お前の想像に任せるよ。好きにしな。
ん、仕事分のお礼は後日支払うよ。だとしても……そうだな、煙草、吸う?
いや、今手元にあるのが
あ、お前吸ったことないの。じゃあちょうどいいか、記念みたいな。もっかい聞くけど、嫌なら──あそう。ま、一本だけな。これきりでもいいし、ここからでもいいし。ともかく最初の一本ってことで。成人してんなら、そこから先どうするかぐらいは自分で決められるだろ。
ほら、じゃあ手出しな。吸い方教えてやるから、ちゃんと覚えといてくれよ。
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