俺の大事な地下闘技場が同じクラスの前の席の女子に荒らされているんだが
おしやべり
第1話 ヤツの名は『猿』!
そう、猿だ。
正しくは『アニメっぽくデフォルメされた猿のお面を着けた人間』だ。
そんなヤツが、突然俺達の前に姿を現した。
この俺の大事な大事な『地下闘技場』に、なんの前触れもなく現れたのだ。
全くの正体不明だ。
だから今のところ、あいつは『猿』としか呼べない。
俺はあんなヤツ知らないし、他の誰もが知らないだろう。
その猿は小柄で、身につけている
性別はそのすらりとした身体的特徴から多分男性だと思われるが、それにしては小柄だと思う。
本当に中学生なのか? まさか、小学生という事はないだろうが……。
高校3年生の俺が言うのもなんだが、ここはあんな
だが、あんな子供がとんでもないことをやってのけたのだ。
ヤツはこの地下闘技場で今夜開催される
絵に書いたような緊急事態発生だ。
速攻で捕獲からの事情聴取といきたいところだが、まぁ落ち着け。
こんなときこそ冷静になるのだ。
とりあえず状況をまとめるが、その前に自己紹介をしておこう。
俺の名前は
世界有数の財力を有し、戦国時代から日本の経財界において常に中枢に位置していると謳われるかの金沼家の嫡男といえば泣く子も黙るお
だが実際、今のところ俺には大した
しかし親の後ろ盾と、俺の大好きな格闘技を存分に楽しめる地下闘技場を運営するセンスはあったようだ。
つまり、ここは俺が運営する秘密の地下闘技場なのだ。
そして猿が現れたのはその闘技場のリングの上。
その猿が前述の通り乱入し、今日のメインイベントをめちゃくちゃにしやがった。
その結果、メインイベントの賭け金が全額返金になりそうで機会損失半端ねぇ。
……簡単に状況説明をするとこんな感じだが、いきなりそんな事言われても意味が分からないよな。
観客たちも同感のようで、会場は未だに騒然としていた。
自分で言うのもなんだが、この闘技場は表の格闘技興行よりも数段レベルが高いと自負している。
それは俺が闘技場運営で稼いだ金と、多岐に渡る(親の)コネクションを駆使し、普段は表に出てこない様な武道の達人や、表に出たくても出てこれないいわく付きの
そんなハイリスク
普通なら運営責任者として試合を中止するべきかも知れないが、俺はその選択をしなかった。
「……猿は捨て置け。リングを片付けろ」
俺は観客席の頭上にある、会場を一望できる司令室から会場の
つまり、
それは単なる好奇心からの判断だったが、猿の戦いをもう少し見てみたいという気持ちもあった。
俺はこのまま猿をリングに残し、チャンピオンにぶつけてみようと考えていたのだ。
「チャンピオンにはファイトマネーを3倍出すから猿との試合を受けるように要請しろ。もし拒否するなら他の選手を当たれ。とにかく、その猿を逃がすなよ」
俺が指示を出し終えると、司令室にひとりの青年が現れた。
「
カッチリとした黒いスーツに身を包んだ長身の美青年は鈴のような声で俺にそう問うた。
「いいんだ
すると犬飼は『あなたの物好きにも困ったものですね』とでも言いたげな笑顔を見せ、俺の隣に並んで眼下のリングをじっと眺めた。
彼の名は犬飼。俺の有能な
執事のイメージよろしく黒いスーツでキメた彼はその
猿の出現にもいち早く対応し、常に一歩先を読んでいる。
「……総国様。予想通りチャンピオンが猿との試合を受けるそうです」
「ハハ、そうこなくては」
「試合の準備は整っています。すぐにでも始められますが?」
「うむ、善は急げだ」
俺が手元のボタンを押すと会場の照明が一旦落とされ、派手なアナウンスと共に試合は再開された。
『謎の乱入者VS地下の王者!』
そんな口上で
とはいえ、未だに困惑のどよめきもある。
そんな混沌とした歓声の入り交じる中、花道にチャンピオンが現れた。
すると会場は一発で大喝采に包まれ、これから行われる世紀の一戦に満場一致の期待を寄せたのだ。
それ程までに、このチャンピオンを観客達は信頼しているということだ。
地下の王者は突然の乱入者にも一切の動揺を見せること無く、堂々とした足取りで花道を往く。
チャンピオンの
連戦連勝を裏付ける、はち切れんばかりの鋼の肉体。
そして異様に太い首と、生粋の
彼こそ、この地下闘技場の
その名を聞いた者の多くは『あれ、昔それっぽい名前の歌手がいたような……』と思ってしまう絶妙な響きと、そんな名前をよく役所が通したなと感心するという。
しかし、我らが浜崎はその名にそぐわぬまさしく阿修羅の如き強さでこの地下闘技場に王者として長らく君臨しているのだ。
彼に阿修羅という雄々しい名を贈った御両親の慧眼には感服する他ない。
その阿修羅の前に立ったのが『猿』だというのも実に面白い。
身長、体重は見るからに比べるべくもないが、猿の
浜崎は確かにこの闘技場の王者だが、猿はその対戦相手に相応しい実力者を一撃で倒した。つまり、相応の実力はあると断言できよう。
「……面白いじゃないか」
僅かに残っていた観客の
つまり、
俺はそれを確認し、手元のマイクを引き寄せて会場に指示を出した。
「さぁ、試合開始だ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます