今も失っていないもの(21日目:飾り)
花で飾られた皿の上にコンラートを置かせ、部下を下がらせるとレクトールはあからさまに不快そうな顔をした。
「……やはり理解に苦しむ。このような生き物でも、元が人間ならランフォードは肩入れするのか」
「ランフォードなら、俺が何者であってもきっと助けただろう。そういう性格だと思う。――あんたとは違って」
「無礼な口をきくな、生首。必要が無ければ、私はお前のような生き物の側になどいたくない」
それは俺の台詞だ――コンラートは口には出さなかったがそう思った。ランフォードやジェフと同じ魔族でも、ここまで性格が違うものか。まあ、人間もそれぞれ性格が異なるのと同じだろう。人間と同じだと言ったら、きっとレクトールは激昂するだろうが。
皿に飾られた花の香りが、むせ返るほどに強い。薔薇の花のように見えだが、きっとこれは薔薇ではないのだろう。薔薇の香りは、こんな香りでは断じて無い。
「生首。お前などその皿に飾られた花と同じく、ただの飾りのようなもの。一人では何も成せず、無為に生にしがみつくだけ。そんなお前に存在意義は皆無。ならばせめて、私にせいぜい利用されるがいい」
ぐっとコンラートはレクトールの言葉に詰まった。――前のコンラートなら、この言葉に気圧され、場合によると頷いていたかも知れない。だが――。
「悪いがあんたに利用される気は無い。俺は俺だ。このような姿になろうとも、俺に成せることはあるし、俺が今も失っていないものはある。俺は俺に出来ることをする。――俺の、誇りにかけてな」
「誇り! 人間ごときが誇りと! それも、飾り同然の生首が! ――奇怪で不快な生き物だ。見苦しい。ランフォードを始末した後は、お前だ。誇りとやらでどうにもならないくらい、絶望的な最期をお前には与えてやろう」
それまで、せいぜい私に使われるがいい――レクトールの煙水晶の瞳が光ったかと思うと、コンラートは身動き出来なくなった。
「声を出されると私が不快。そこでそうしているがいい」
全身に痺れが走るようだ――コンラートはそれでもレクトールをじっと睨み続けた。出来る抵抗はし続ける。俺は、ただの飾りじゃない――!
(よく言った、首だけ騎士。俺様の美学には立派にかなっている)
ジェフの声がする――どこからだろうか。
(探すな、俺様の存在を奴に気取られる。――俺様、ランが来たら動く。……もう少しの辛抱だ、首だけ騎士)
――どうやら近くにジェフが来ているようだ。なら、安心だ。ジェフはいい加減そうに見えても、約束したことは必ず守る男だと思うから。
そのときだった。階下がにわかに騒がしくなったのは。
「通すな!」「奴を阻め!」の怒号、そしてしばらくの後に訪れる、静寂――。
「……来たか、ランフォード」
レクトールは椅子に座ると、足を組む。煙水晶の冷たい瞳が、更に冷酷に歪んだ。
「勿論だよ、レクトール。――コンラート君を返してもらおうか」
部屋の大きな扉が、いやに静かに押し開かれる。
そこには、コンラートが見たことのないほどに、怒りの色にその瞳を染めたランフォードが、立っていたのだった。
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