首だけ騎士、道に迷う(7日目:まわる)
どうしてこうなってしまったのか……
「おい、首だけ騎士。俺様さっきもこの木を見たぜ? この幹の傷は、確かにさっきつけたものだよなあ?」
「…………」
「まあ、もう一度やり直してみようじゃないか、コンラート君。私たちには時間があるのだからね」
「……す、済まない……じゃあこっちの道を」
額に汗した首だけ騎士、コンラートは目線で片方の道を示す。
「頼んだぞ、首だけ騎士」
ジェフはコンラートの頭をぽんと叩くと、先に立って歩き始めた。その後を慌てて、コンラートの首を抱えたランフォードが続く。
一行は今、森の中で迷っていた。誰も認めたくはなかったが、明らかに迷っていた。
どこから間違えていたのだろうか。道が途切れた時に、森を突っ切っていけばいいと単純に考えてしまったことだろうか。最初から目印をつけて歩かなかったことだろうか。
――多分、いろいろと全部なのだろうね。ランフォードは口には出さずに考える。鬱蒼とした深い森を、侮ってはいけなかったのだ。現地の人間であるコンラートも、完全に方向を見失っているようだったから。
「――おい、首だけ騎士。また二手に道がわかれてるぞ。今度はどっちだ?」
「……多分、こっちだ」
「よし、左の道だな。――この樹に目印をつけたぜ。また戻ってくるかも知れないからな」
ランフォードよりも背の高いジェフが、大樹の幹に傷をつけ、枝に目印をつける。枝に結んだ黄色い布は、森の中でもよく目立った。
コンラートが示した道をどんどん歩いて行く。すると、また見たような樹が目の前に現れた。――いや、あの樹は既に見た樹に相違ない。樹の幹にはジェフがつけた傷――正確には魔界の文字を刻んだもの――があり、枝には黄色い布が結び付けられていたのだから。
「……そんな……」
「――これは、さっきの樹に相違ないな、首だけ騎士?」
「……間違い無い、と思う……」
コンラートは大きなため息をついた。ジェフは額に手を当てて天を仰いでいる。
まわっている。彼らの眼前にある森の道は、まわっている――。
「――飛んで、脱出するか?」
「――夜になっても、道がはっきりしなければね。まだ明るい刻限だよ、ジェフ」
「そうだな。――おい、首だけ騎士。何をしょげている。森なんてこんなものだ。気を抜けば道を失う。――お前が森への認識を改めれば、俺様はそれでいい」
「……そうだな」
珍しい。ジェフなりにコンラートを気遣ってやっているようだ。まあ――ジェフは、コンラート君が嫌いではなさそうだからね。
コンラートも深い森について学べたようだ。それを考えれば、森を何度もまわったのも、悪くないかも知れない。
「さあ、行こうか。毎日野宿も、なかなか辛いからね」
次はさっき行かなかった方の道だ。早く森を抜けられれば良いのだが――
そろそろ同じところをまわるのも疲れてきた。
一行は、出口を求めて歩みを再開するのであった。
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