episode4.9

「一体なんだ、これは……!?」


「ここは創造の世界。あなたは今から、人間になるのです」


「なっ!?」




 星々のような光が天と地を覆い、上も下もない空間でルミナは呟く。




「私が、人間になるだとっ……ふざけるな!!貴様の"ニュイ・エトワレ"はこの世界を滅ぼし、人間を消し去る力のはずだ!!博士もそれを望んで——」


「サダル。あなたを作った博士は、それを望んだの?」


「そうだとも!!だから私や他のMETSISにもその存在を教えた!!人間の愚かさから逃すために、だ!!」




 サダルの声が震える。それとは対照的に、ルミナは全てを悟ったかのように、静かに答える。




「……あなたの生きた時代、そして環境。その全てが、あなたにそう思わせている。これはどうしようもなく消せない事実ではある。でも人間は……彼らはこの地球で最も愚かで、そして尊い。あなたもいずれ、知る日が来るでしょう」


「だからなんだと言うのだ!奴らは変わりはしないっ!いずれ繰り返す!そして滅びゆく存在なのだ!!」


「それでも彼らは生きていく。だからこそ私たちは、消えなくてはならないのです」




 そう言い、両腕を満天の星へと掲げ、今までにない七色の光を放ち始める。終始穏やかなルミナの行動を止めようとしたサダルだが、十二宮兵器が発動することはなく、苦言を放つ。




「絶対に認めん……絶対にだ!人間になろうとも、私は人間という種を呪い続けるだろう……!!」


「……さようなら」




 両腕から放たれた七色の光は柱となり、空間に眩い光をもたらした。














          ☆














 「タウリー、クラウド、クレス……ごめんなさい。」




 サダルとの対話を終わらせ、光の中で創造をする。壊れてしまったものを直し、また新たに始めるために。


イルミナの言っていた通りには出来なかったが、これがきっと、この世界の"答え"なんだと感じる。だってこんなにも、温かい。




「もっと、遠くへ行ってみたかった……もっと、色んな人と会ってみたかった……」




 身体がだんだんと、足下から固まっていく様がハッキリとわかる。これが"代償"だとわかっていても、それでも、やっぱり苦しい。悲しい。……寂しい。




「博士……これで、良かったんでしょうか」




 意味のない問い。もっとも答えが返ってくることはない。


やがて動かなくなる瞼を閉じ、奪われていく熱を感じていた。




「でも……ありがとう、博士。おかげで私は——」






彼らに、出会えたから。














         ◎◎◎














 降っていた雨が止み、雲の切れ目から光の柱が地面を美しく映す。戦場となっていた地には再び緑が生え、爆弾で焼失したポラリスは、焼失以前の様相となっていた。




「おい起きなっ、小僧!!」


「う……う~んって、アレ!?もしかして寝てた!?」


「アンタだけじゃない。周りの奴らみんなそうさね。かく言うアタシもそうなんだけどさ……一体全体、何があったのかね?どうやらMETSISの奴らも消えちまったみたいだし」




 街の防御壁の側で目覚めたタウリーとクラウド。二人のいる場所から遠く、なにやら手を振って満面の笑みをしながら走って近づく男と、その後ろでゆったりと歩く男が一人。




「タウリー、クラウド!!これは一体……」


「さあね。とにかく、くたばらなくて良かったね、クレス。アンタが一番死にそうだったからね」


「クラウドさん……アンタも、生きてて良かったぜ」


「サザンクロスさんっ!他のみんなは?」


「ああ。先ほど辺りを確認してみたが、みんな無事のようだ。一体、なにが起きて……」




 雲が晴れゆく中、街の外壁に陽の光が反射して辺りを照らす。草木が揺れてまるで、祝福を受けるかのように踊っている。吹き抜ける風の心地よさを感じざるを得ない。


しかし何かが足りない。ホープもハルも居なければ、肝心のルミナも……。それを真っ先に思い出し、駆け出したのはタウリーであった。


一体どこにいるの……。そう胸に抱え、街の防御壁を抜けて戦場であった場所を探す。いまやあのロボット達も、そのロボット達が付けた弾丸跡も、全てが緑に帰っている。


辺りを見渡していると、どこからか聞き覚えのある鳴き声が聞こえる。まるで飼い主を探しているような……何かを、知らせようとしているような……。


鳴き声に向かって駆け寄る。こちらと何か・・を交互に見やってその場を動こうとしない。案の定鳴き声の主はホープで、彼が何に向かって吠えていたのか。肩を上下させ、目がチカチカし焦点が合わない視界であっても、それが何であるか、一目でわかった。分かってしまった。




「……こんなところに居たんだね。ルミナ」


「わふんっ!」




 人間の形をした、純白の石像。雲間から差し込む陽光が優しく辺りを包み込む。ところどころに七彩の粒子が煌びやかに輝く。ルミナの白像の表情は口角を静かに上げ、まるで母親の懐で眠る子どものように穏やかである。




「タウリー!急に駆け出してどうしたんだー?ルミナ、いたかー?」




 後ろからクレスが駆け寄る。その後方にサザンクロスとクラウドがゆったりと歩くのをタウリーは見た。これから何を伝えよう。これからどう生きていこう。黙考し、目を閉じ、やがて眼前の像を再度、見る。


これから先、どうなるか分からないけれど、まず、伝えなくてはならない想いを、言葉に乗せて。






「ありがとう、ルミナ。この世界で、出会ってくれて」




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