episode4.4
ビーヌが提案したことは、あまりにも難しいものであった。その言葉に、ルミナは戸惑い、クレスは声をあげる。
「おいおい……そりゃあ出来ない相談だぞ。だって俺たちはあのMETSISと——」
「それはわかっています。……でも、彼女たちが今やっているのは、単なる復讐に過ぎないのです」
「復讐、ですか……」
「はい。彼女たち——というよりも、私たちMETSISは、人間に恨みを持っているのです。ここにいるMETSISたちは、サダルの提案したことに賛同しなかった者たちですが」
「一体、彼女たち……METSISは何故、人間に恨みがあるのですか?」
その言葉にビーヌは口を閉ざし、レイは先ほどまでの元気さを隠すように俯いた。
しかし、ビーヌはすぐに口を開いた。
「あれはこの世界が……この荒廃した世界が出来上がってしまう前に起きた、ある大戦中にまで遡ります——」
◎◎◎
ある年の、まだ桜が咲き大気にはある種の青さが残るような、そんな春先の日に、事件は起こりました。
我々が元々警戒国とみなし、外交的緊張感を孕んでいた"カムイ"という国に住んでいた青年が突然、トワレ国内最重要人物である"星聲家"の当主を暗殺したのです。
私たちは大戦中に作られた身なので、あまり詳しくは知りませんが……そのことがキッカケになって、トワレの方から宣戦布告したそうです。
戦況は常にトワレ国が優勢でした。なんといってもその類稀なる国家の科学力が功を奏していたようです。しかし、相手のカムイ国もそれに黙っているわけではありませんでした。
圧倒的科学力を持ってしても完全には防げないもの……それは、圧倒的火力を持った兵器。彼らは核兵器を使ったのです。
国際的にも使用を禁じられていたため、すぐにトワレ国につきカムイ国に対して宣戦布告をする国が現れましたが、それは向こうも同じく。元からトワレ国が邪魔な存在であった国は多く、カムイ国側についてトワレに宣戦布告をする国が出ました。
こうして、トワレ側陣営を連合国とし、カムイ側を同盟国側とする、"ニュークリアー大戦"が広がっていったのです。
そんな大戦中に、私たちは作られました。ある科学者によってその大戦を勝ち抜くための、十二宮兵器を持たされて。
力を使いこなすために、生まれ落ちてからは訓練の日々でした。そのたびに研究室の人間からはアメとムチと称した調教を受けました。
その訓練が終わってからは、トワレ国のためという免罪符を使い、次々に任務と称した殺戮を繰り返す日々……。多くのMETSISは疲弊し、こんなことは辞めたいと研究員に申し出ました。
そんなことが通じるわけもなく、ただ私たちは恐怖を植え付けられ、戦場へと駆り出されました。
そうしているうちに世界はボロボロになり、いつしかトワレも、カムイも、そしてMETSISや他の兵器も。全てが草木に埋もれて消えていきました。しかし、METSISの内に残る怨嗟だけは消えなかったのです。
◎◎◎
「そんなことが……」
「そりゃあそんな仕打ちされたら、そうなるだろうけどよ……でも、今から戦う相手を守るってのも——」
「いえ、方法ならあります。ですよね?先生」
そういって、今まで側で静かに話を聞いていたイルミナを、ビーヌは見る。
その言葉を待っていたかのようにこれまた静かに立ち上がり、マウスの実験資料とは別の資料を引き出しから持ってきてルミナたちに見せた。
「これは……」
「これはビーヌやレイ、他のMETSISの身体を研究して得たものだ。あくまでも実行はしたことがないから、確実とは言えないけれどね」
「でも、これって……!」
「クレス君。君の言いたいことは分かる。それにあくまでもこの頼みは我々の望みだ。却下してくれてもいい」
そう言うイルミナを見つつ改めて資料に目を通すルミナ。その瞳には困惑と、しかし確実な危険性が浮かぶ。
しばらく刻み、やがてルミナが応える。
「……やってみます」
「ル、ルミナ!でも……!」
「……頼む方からしてこの物言いは不誠実だが……覚悟は出来ているのかね?」
そう問うイルミナに、ルミナがまたも応える。
「でなければ、彼女たちが浮かばれません……。
「……そうか。ならば改めて、他のMETSISのこと、頼むよ……」
「はい」
そうしてメルトウェル村での小さな邂逅と、大きな決断が幕を下ろした。
その後イルミナがMETSISたちの技術に自身の研究を重ねて出来た
そして遂に、METSIS集団と反METSIS人類団体アルコルの決戦まで、残るところ僅かとなった。
終末か、伝説か。審判の時は近い——。
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