episode1.8
湖に着いた後、テントを設置し終えたタウリー一行は、今まで付いていた汚れをとるために湖の水で体を洗った。
その後タウリーが持ってきた大きなタオルをそれぞれ巻き、焚き火の横で洗った衣服を乾かしていた。
「もうこんなにボロボロ……集落に着いたら服を買おうか」
「いえ、私はまだ着られるので大丈夫ですよ」
「ダメダメ!もうあっちこっち穴が空いてるのに、もっとちゃんとした服を買わなくちゃ」
「でも……」
「とにかく買うよ。ルミナにはもっとちゃんとした服、着て欲しいし」
湖周辺に特に食べられそうなものが無かった二人と一匹は、持っていた干物や大昔の非常食をバックパックの中から漁って適当に食べた。
明日も早いから、という理由で早々にテントに入り眠りにつく。
「タウリー」
「ん、どうしたの?」
「湖の底、見ましたか?」
「いや、見てないけど……」
「明らかに自然の物ではありません。恐らくあれは人工物です」
「え!?……昔の人は、湖も作れるなんて凄いなぁ」
「さらに湖の中心部に何やら機械のような物がありました。まだ動いてる様子でしたし」
「もう何百年も前のはずなのに……」
「もしかしたら、私もその類なのかも知れません。そして、東の集落のロボットも……」
「それらしい物を見つけても、あんまり触らない方が良さそうだね」
「はい。万が一暴れられたら勝ち目がありません。私にはそんな機能確認出来ませんし」
「今まで見てる感じそうだね。でも武器持ってるアンドロイドよりも、持ってない方が接しやすくて良いよ」
「そうですね」
おやすみ、とタウリーが言ってルミナも返す。今度こそ眠りについた。
◎◎◎
朝になり、また日が昇る。
寝起きの良いホープとルミナが、寝起きの悪いタウリーを起こすいつもの朝である。
バックパックに入れていた乾燥パンを食べ、乾いた服に着替え、テントや焚き火を片付けて、タウリー一行はまた歩き出した。
昨日同様、野生動物に気をつけつつ、タウリーとルミナは、寝る前に話したように機械がないか、動いていないかということも気をつけながら歩く。
ホープだけが伸び伸びと気持ちよさそうに歩き、その姿が二人を和ませる。
湖の先へと続く道から少し逸れていくと、小さな道がある。その横に古びた木造の看板が立っていた。
——この先、シリウス——
「ルミナ、この道を進めば目的地だ」
「シリウス……」
「集落にも名称があるからね。僕らがいた集落はウェヌスって言うんだ」
「色々名前があるのですね」
「そうそう」
看板の立っていた道を先に進むと、大きな洞窟のような遺跡が姿を現した。
「なんだろう、ここ」
「トンネル」
「トンネルって何?」
「…いえ、私にも分かりません……急に思い浮かんだんです」
「ルミナの記憶なのかな……ハッキリしないけど、とにかくこの真っ暗な洞窟を通らないと向こうには行けなさそうだし」
「懐中電灯ありますか?」
「うん、一個だけだけど」
「十分です。行きましょう」
真っ暗な闇へ吸い込まれるようにタウリー一行はトンネルへと入っていく。
懐中電灯の明かりを頼りに、壁をつたいながら進んでいく。
水の垂れる音、二人と一匹の足音、出口からの風の音、それぞれの音が一定のリズムで沈黙の中響いていた。
タウリー一行は暗闇の中ただ一点の光として押しつぶされそうになっていたが、出口の光が微かに見えたことで足取りを軽くし、出口へと立った。
距離にして三百メートルにも満たない小さな廃トンネルだが、タウリー一行からすれば恐怖と興奮で長い時間のように感じられるのであった。
「やっとでたぁ~」
「熊に襲われた時をちょっと思い出しました……」
「クゥン……」
疲れていた一行は少し休憩してから出ることにした。
◎◎◎
休憩した後道なりで歩いていくと、木造の建物や崩れた建物を利用した建物が多く現れた。
タウリーは目を輝かせ、ルミナに説明した。
「着いたよ!あれが東の交流集落、シリウスだよ」
「人が沢山、居ますね」
「うん、他の集落とも繋がりを多くもってるし、ここから北の方の集落から人の往来が多いから栄えてるんだ。だけど、僕らみたいに南西から来る人があんまり居ないみたい」
「ワンワン!」
「ははっ!そうだなホープ。はやく行こうか。ルミナも行くよ」
「はい」
集落に近づくにつれて、人や建物が多くなっていく。その光景にタウリーもルミナも目を輝かせていた。
海が近いからか、微かに磯の匂いがしている。中心部にある通りでは出店のような場所に買い物に来た人々が多くいた。
タウリー一行もそこへと駆け寄っていき、服屋を探した。探している最中、様々な人が声を掛けている。
「へいへい少年、この剣なんかどうだい?」
「嬢ちゃん、アクセサリー欲しいだろう?これなんか似合うんじゃないかな」
「占い……やってけ……」
その状態に、二人は辟易していた。
「なんか……人が多すぎて苦しいね」
「他の人に話しかけられたら、どんな風に返せば良いのでしょう?」
「出店の人のやつは聞かなくて良いよ、多分」
ようやく見つけた服屋に入り、それぞれ服を選ぶ。
タウリーはほぼ布切れだった服を一新し、庶民的な麻布の服を選んだ。
ルミナはタウリーの物ほどではないがボロボロの服であったので、タウリーと同じように浅布の服と、フード付きの上着を選んだ。
タウリーは、庶民的な服を着ていても目立つルミナの整った顔、鮮やかな碧色の髪と銀の眼に改めて感心していた。
「まいどあり。さて、何が対価だい?」
「この栗でお願いします。ウェヌス産です」
「ほほう、あんたウェヌスから来たのか。珍しいね。……よし、これで良いだろう。ありがとうな」
買い物と言っても、貨幣制度の無くなったこの世界は、物々交換が基本的な商売方法となっていた。
服屋を出て、中心部の通りから抜け出す。人混みから解放された一行は少しぐったりしていた。
「はあぁ……疲れた」
「私も疲れました」
「……」
ホープに至ってはただタウリーの足元で顔をゆっくり擦り付けるだけである。
しかし、まだやる事があると思い出したタウリーは、あの老人から教えてもらった家に行くことをルミナに告げる。
「そういえばあのお爺さんから手紙を預かっているのでした」
「うん、それじゃ行こうか。地図だとあっちの方かな」
外れの家に向かって歩き出す。既にフラフラであったがロボットのこと、アンドロイドのこと、そして古代のこと。これが少しでも知れると思うと、タウリーもルミナも足取りが軽くなっていた。
老人の紹介で行くことになったこの家。ここから、タウリー、ルミナ、ホープの一行を巻き込む事件が起きることを、まだ知らない。
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