episode0.4
毎日スタリングの地下研究所にて開発を進めていたスタリングとキーファは、いつものように研究所にいた。
スタリングが試行錯誤を繰り返してMETSISを開発している間に、キーファもアイデアを出したり研究開発の補助をしたりしている。
「博士。少し休憩しましょう。僕この前妹と一緒にケーキ作ったんです!博士の分も作ったので、良かったらどうぞ!」
「本当かい?それはありがとう。どれ、紅茶でも入れて食べるとするか。キーファ君、そこのポットを取ってくれ」
「…はい!…よいしょ、博士そこに——」
ガッ
「う、うわあぁぁ!!」
ドッ、ガッシャァン!
「す、すみません!ああ……機材に……」
「…いや、仕方ない。どれ、怪我はないかい?」
「博士……本当にすみません…すぐ拭くもの持ってきますっ!」
スタリングは少し苛立ちを覚えながらも、若輩のミスに怒鳴るほど体力も無く、また金銭的余裕があり機材自体は買い換えれば問題もないため、怒ることはしなかった。
また、紅茶がかかってしまった機材はそれ程大事なものでもなかった。不幸中の幸いである。
キーファが戻ってくる間、スタリングは彼がつまづいた少しの隙間と、溢れた紅茶を眺めていた。
「……!そうか、分かったぞ!!どうりで人工脳の具合が優れないわけだ。どうして今まで気づかなかったんだ!!ハッハッハ!!!」
スタリングの天才たる所以である。彼は全く別の事象から様々な知見やアイデアを得ることが出来る。そしてこれまで開発を悩ませ続けた人工脳の不具合、異常性による感情や思想構造の不確定さを無くす、これまでとは全く違う新たな構造を思いついたのだ。
「博士、拭くもの持って——って、そんな笑ってどうしたんですか?」
「キーファ君、お手柄だよ!こうしちゃいれない!すぐ開発にかかるぞ!!」
「え?え?すみません、何が何だかサッパリなんですが……」
「ええい!そんなものはどこかに投げ捨てておけ!早く来るんだ!!」
◎◎◎
そこから毎日、朝から夜まで開発を進め続けて半年以上が経過した。
「……ついに、完成か」
「ですね、博士」
「……君には礼をしないとな」
「そんなとんでもない!僕の方こそ、こんな大事なものに関わることが出来て……ありがとうございます」
「私はおそらく、これが最後の研究開発となる。これからは君が、この国の科学を引っ張っていくんだぞ」
「……はい!」
「私もついに金がなくなったか……これからは何処かの山にでも隠居かな」
「お金、無くなっちゃったんですか?」
「いつの間にか消えていたんだよ。全て開発に積んだのだから、悔いはないさ」
「そう、ですか……そしたら暇な時にでも僕をそこに呼んでください。美味しいケーキ、持っていきますよ!」
「きっと呼ぶさ。……さて!その前にもうひと仕事しようか」
「後はMETSISの感情構築機能をアップデートして、人工脳に学習処理をすれば本当の完成、ですね」
「その通りだ。早速取り掛かろう——っと、言いたいところだが、今日はひとまず休もう。まだ今日は半日残っている。妹さんとゆっくりしてくれ」
「……はい!博士も、ゆっくりしてくださいね」
「ああ、それじゃあまた明日の10時頃に」
「はい!それじゃ、失礼します」
そう言うとキーファは、地下にある研究開発室から出ていき、やがて玄関から扉の開く音、閉まる音が聞こえた。
「……さて、私も休むとするか」
研究開発室を後にしようとすると、一人の人間が部屋の奥から現れた。
「はか、せ?」
「おや、起きてしまったか」
「どこに、行くんですか?」
「部屋に戻るのさ。その内また戻ってくる。それまで君は寝ていなさい」
「……もう、眠たくないです」
「……そうかい。ではこちらへおいで。君にはまだやらなければならないことがあるからな」
こくり。と頷いた彼女こそ、人工生命体アンドロイド"METSIS"である。
碧色の髪が肩ほどの長さに切り揃えられ、そこに添えられるように灰色、または銀色の眼が見られる。
これは、スタリングの娘であるイルミナをモデルにして作られているためこの見た目である。
彼女は博士の後ろに着いて歩いていく。それを時折振り向いて、スタリングは昔を懐かしんでいた。
◎◎◎
「……ここは?」
「……昔、私の娘が使っていた服などを保管してある所だ。君にはまだ実験用着衣しか着せていなかったからな。君がこの中から気に入った服を、自由に着てくれ」
「……自由に、ですか?」
「ああ。幸い君には感性があるはずだ。それに従うんだ」
「よく、分かりませんが…とりあえず、やってみます」
そう言うと彼女は、イルミナが過去に着ていたであろう服を選び始めた。彼女の体格等はイルミナを参考に作られているため、彼女が17歳時に着ていた服ならジャストサイズである。
今の彼女には感情や思想という情報が無く、ただ彼女の人工脳にある感性に従って服を選ばざるを得ない状態である。
「選びました」
「……それでいいのか?」
「?はい。これが一番……なにかしっくりきたので」
「そうか……」
彼女が選んだのは、純白のワンピースであった。
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