第11話 あいにく今は子猫なので、
わっ、と賑やかな歓声が遠く離れた魔王の寝室にまで響いてきた。
ぐっすりと眠りに落ちていた
薄暗い室内だが、幸い猫の目は夜でも良く見える。
睡魔に負けそうになるトロンとした目元を、マシュマロのようなふわふわの前脚でこすった。
ふわぁ、と可愛らしい欠伸が小さな口元からこぼれ落ちる。
このまま、ふかふかの高級ベッドで再び眠りにつきたかったが、何処かでパーティでも開いているのだろう。
その喧騒が気になって、眠れそうにない。
人から子猫の姿に変わってから、聴覚が優れた為か、うるさくて仕方なかった。
可愛らしい三角な耳が、ピクリと音に反応する。
(騒がしいな。……そういえば、生誕の宴がどうこう言っていたっけ? あの魔王サマの誕生日なのね、今日は)
黄金の髪と紫の瞳を持つ美貌の魔王、アーダルベルト。
煌めかしい容貌は、魔王と言うよりも天使と言われた方が納得できそうなほどに神々しいのに、真逆の存在だと言うのだから驚きだ。
歴代最高の力を誇る、最凶の魔王だとエルフのメイド長は惚れ惚れしながら褒め称えていたが、美夜には良く分からない。
たしかに、とても迫力のある容姿だ。金の髪を分けて生える立派な巻き角も魔王っぽい。
溢れ出る強者のオーラも何となく感じ取れるが、美夜が知っている彼──魔王アーダルベルトは小さくて頼りない子猫に優しくしてくれたイイ奴、なのだ。
たまに厨二病めいた発言はするが、魔王のお約束なのだろうから、まあ気にしないことにしている。
その他で美夜が知っている彼は、異世界からやってきた天敵のはずの自分に暖かくて快適な寝床と美味しいご飯を手ずから用意してくれ、全力で遊んでくれる猫好きの男。それだけだ。
(魔王とか関係ない。最初はぎこちなかったけれど、段々と撫でるのが上手になってきた、不器用で優しい男の人よね)
その男が、本日は誕生日だと言う。
(魔族の王さまの、魔王。魔族って、悪魔とは違うのかな? 悪魔だと、二股の木から生まれるって何かの本で読んだ気がするけど)
生誕の宴が開かれているということは、普通に親から生まれたのだろう。
(魔王の誕生日、か……)
勇者召喚とやらに無理やり巻き込まれて、猫の姿でこちらの世界に来てから、ずっと世話になっているのだ。
せめてお礼代わりに何かプレゼントしたいが、あいにく今は子猫の身。
(何も持っていないんだよなぁ……。でも、魔王は猫が好きだから、肉球マッサージとかしてあげたら、喜んでくれそうよね? うん、そうしよう)
随分と手軽なプレゼントだが、実際に魔王アーダルベルトは子猫の美夜に可愛らしい仕草でふみふみされたら、昇天しそうになるほど喜んだことだろう。
美夜は広い寝台の上で伸びをして、ふとカーテンの隙間から夜空を見上げた。
大きくて、丸い──赤みを帯びた月が目に入る。
(ピンクの色のお月さまだ……)
不思議な色彩に見惚れていると、ドクンと心臓が大きく震えた。
「ミャ…ッ」
ドクドクと激しく脈打つ苦しさに、寝台に倒れ込む。身体が熱い。息ができない。
(苦しい苦しい──誰か、たすけて)
金色の影が脳裏に散らつく。
呼んだら、すぐに駆け付けてくれる、唯一の存在を。
(魔王───…!)
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