第10話 美味しいごはん!
「蜂蜜入りのホットミルクだ。極上の山羊ミルクに最高峰のクイーンビーの蜂蜜だぞ? 猫舌のお前に合わせた、ぬるめの温度だから、安心して舐めるがいい、勇者よ」
魔王の膝を独占してのランチタイムは、もう慣れたもの。
手ずから食べさせてくれるので、とても楽だ。
スプーンにすくって口元まで運んでくれたホットミルクをピチャピチャ舐めると、すかさず美人なメイドさんが口を拭いてくれる。
うむ、よきにはからえ。
「これは魚か? 勇者が食べても大丈夫なのか」
「はい。マグロですから大丈夫ですよ。食べやすいように細かく刻んでおります。ミヤさま、お味はいかがですか?」
「ンミャイ!(うまい!)」
マグロのたたきが魔国で食べられるとは。しかも、極上のマグロ。
トロも欲しい。中トロぷりーず!
魔王が差し出すスプーンに乗ったマグロがポロリと落ちる。慌てて落ちたマグロを追いかけて、魔王のてのひらをペロペロ舐めた。
貧乏学生には、こんなマグロは高嶺の花なのだ。そりゃあ必死になるというもの。
「ぐっふううう……!」
「アーダルベルトさま、しっかり! 傷は浅いですよ!」
何やら頭上から妙な呻き声が聞こえるが、知ったことか。綺麗にてのひらを舐め終えると、満足して元の場所に戻った。
さぁさぁ、次のご飯はなぁに?
こてんと小首を傾げながら配膳係のメイドさんを見上げると、黄色い歓声と共にご馳走がたくさんテーブルに並べられた。
ステーキだ! 尻尾がピンと立ち上がる。
「なうなう!」
「分かっている。そう急かすな、勇者よ」
こほん、と咳払いした魔王がステーキを小さく切り分けて、てのひらを差し出してきた。
皿やスプーンではなく、手にのせて。
「にゃ?」
なんで??
不思議に思ったが、食欲には勝てない。
大喜びで謎肉のステーキに飛びついてはぐはぐ咀嚼する。
魔王が何やら恍惚としているが、
「ふふ。美味しいですか、ミヤさま? それはブラックブルという魔獣の肉で、魔王さまに献上された極上の逸品なんですのよ。ここ、魔国でも滅多に手に入りません」
マジか。魔王サマすごいな。
尊敬の眼差しで見上げると、魔王は誇らしげに胸を張っている。うん、嬉しそう。
感謝の気持ちを込めて、てのひらをぺろりと舐めてやると「ぐふ…っ! 何という攻撃!」と身悶えしている。
攻撃じゃないよ、お礼だよ?
高級食材を腹いっぱいに満喫した。
ぽっこり膨れたお腹を、魔王がまじまじと眺めている。
お腹を突こうとした悪戯な指先にはこうだ!
はしっと捕まえて、がじがじ甘噛みする。
「ふ、まだまだだな、勇者。その程度の攻撃では私は倒せんぞ」
子猫VS魔王の指先の戦いは、魔王の圧勝で終わった。
耳の後ろやふくふくの頬、額や喉元を優しくくすぐられたら、美夜はすぐに夢の世界に飛び立ってしまうので。
「もう寝たのか、勇者……ミヤ?」
「お可愛いらしいですわね。そういえば、アーダルベルトさま。本日の生誕の宴にはミヤさまもご招待されますの?」
眠りに落ちる寸前、そんな会話が耳に入ってきた。
「まさか。勇者を憎む魔族も多い。そんな中、コレを連れて行けるはずもない」
「では、ミヤさまは私どもでお相手を」
「……あまり構いすぎるなよ」
「ふふふ。もちろん、我が王の仰せのままに」
そっと柔らかな寝台に寝かされたのと同時に、美夜の意識は完全に闇に沈んでいた。
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