猫の姿で勇者召喚⁉︎ なぜか魔王に溺愛されています。

猫野美羽

第1話 ハロウィンの夜に、

 

 それ《・・》は、見知った猫だった。


 広大なキャンパスにいつの間にか棲みついていた、小さな子猫。

 灰色の毛皮を持ち、キトンブルーの目をしたその子は長毛種の血が混じっていたのか、ふわふわの毛並みを誇っていた。


 猫好きの学生たちがこっそり餌をやっていたのは知っている。

 かく言う、この自分――羽柴美夜はしばみやもふわふわの小さき生き物は嫌いではなく、近くに人がいない場合に限ってだが、こっそりと猫用のオヤツを与えていた。


 名前は何だったか。皆が皆、それぞれ好きな名前で呼んでいたように思う。

 チビ、シロ、グレイ、ミーちゃん。

 学生だけでなく、大学職員や教員、はては巡回の警備員にも可愛がられていた、小さくて愛らしい子猫。


 その子猫がアスファルトの上で丸まって動かない姿を目にして、美夜はらしくもなく慌ててしまった。


 深夜までシフトを詰め込んでいたバイト帰り。

 すっかり遅い時刻になっていた。


 大学前の公園を突っ切るのが自宅アパートへの近道なため、ぽつりぽつりと灯りのついた公園へ足を踏み入れて、そこで倒れていた子猫を見付けたのだ。


「チビちゃん、大丈夫っ?」


 慌てて脇にしゃがんで、そっと子猫の首元に触れてみる。鼓動があるのかどうか、分からない。

 ぐんにゃりと力を失った柔らかな体に恐怖を覚えながら、鼻先に指を近付けてみると、温かな気配を感じた。


「息がある。良かった、すぐに動物病院に……」


 タオルハンカチで包み込み、そっと抱き上げた、その瞬間。地面が眩いばかりの光を放った。


「なに、これ」


 アスファルトの道路に浮かび上がるそれは、フィクションの世界で見かける魔法陣によく似ていた。

 そう言えば、今日はハロウィンの夜。

 きっと誰かが悪戯を仕込んでいたのだろう。


「こんな時にもう……!」


 美夜は苛立ちまぎれに、その光の魔法陣から離れようとして。


「え……?」


 強い力で引き寄せられるのが分かった。

 逃れたいのに、身体が動かない。

 そして、ひときわ強く光が弾けたと同時に、美夜は子猫を抱きしめたまま意識を失った。



◆◇◆



『ようこそ、勇者よ。そなたの魂が唯一、魔王を討伐せしめる――…む? どういうことだ。今代の勇者は人ではなく、獣なのか。いや、確かに人の魂の気配もある……』


 遠い場所で誰かが話しかけてくるが、指一本動かせる気がしない。

 とんでもなく身体が怠くて、ひたすら眠かった。


『多大な魔力を込めて召喚したのだ、勇者のはずだが。ふむ、鑑定。……なるほど、此奴は二つの魂が融合してしまったのか。これでは勇者として戦えまい。元の世界に戻すべきか。……む?』


 威厳のある声の主が何かに驚いたようだ、とぼんやりと考える。

 どんな姿かは分からないが、何となく喋り口調から白髪の老人の姿が思い浮かんだ。


 と、再び何かに引っ張られる感覚があった。

 強い力で、何かに包み込まれる。

 ひんやりとしたそれは、意外と心地良い。


『貴様は、魔王! おのれ、勇者を浚うつもりか!』

『これは私が貰っていこう』

『待て……!』

『遅い』


 低く艶やかな声音が吐き捨てるように告げて。

 美夜は自分の身体がふわりと抱き上げられたのが、何となく分かった。

 だが、それが限界だった。

 意識がぷつりと途切れて、美夜はそのまま心地良い眠りの世界にダイブした。






◆◆◆


しばらく多忙につき、更新が遅れます。

ので、お詫びに以前書いていたお話をリメイクしてUPします。

ラブ分は多いのか少ないのか…(ねこ愛ならあります)

コメディです!

肩の力を抜いて、ゆるりと読んで頂けると幸いです。


◆◆◆

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