本編

リビング

テーブルには様々な料理が置かれている。

父と弟が座っている。

母、張り切って料理を出す。


「鯛めしです!」

「力付くぞ!」

「……つらい。」

「天使は強くなくっちゃな。」

「父さん……。」

「戦いに備えて食え!」

「近くの道場、予約しましたよ!」


二階から身体のバランスが奇天烈な兄が出てくる。

父、妙に鍛え上げられた兄の腕を誇らしく触る。

父と兄、弟の方を見る。


「遂に僕の番が来てしまったのか……。」


兄、弟の隣に座る。


「天使の宿命だ。」

「父さんの趣味でしょ?」

「……。」


豪勢な食事が並ぶが、置かれた食器は一人分。

母、父の隣に座って夫婦で弟を見つめる。


「たんとお食べ。」

「小さいと勝てないぞ。」


兄、小声で弟に囁く。


「疲れより我に返った時が勝負だぞ。」


兄、弟の肩を叩く。

妙に筋肉質な腕が弟にめり込む。


「天の神に言ってくれた?」

「取り敢えず頑張れ! だと。」

「タチ悪いな……。」

「血筋だろうね。」

「……つ、辛い。辛すぎるぅうぅうぅうぅ!」


弟、勢い良く逃げ出す。

追い掛けない一同。











公園

ベンチに友と座る弟。


「天使って皆こうなの? 違うよね、虐待だよね?」

友達

「虎に勝つなんて無茶だよなぁ。」

「たかが天使なんだよぉ、僕は。」

友達

「力無しのな。」


友達、笑う。


「翼、捥ごうかな。」

友達

「手っ取り早いかもだけど、また生えるよ。逃げられないって。」


良く見ると翼がボロボロになっている友達。


「友よ、私に考えがあるのだ。」

友達

「大層だな。」

「……父を倒す!」

友達

「強いぜ? お前の父。」

「天使の輪を捥ぐ!」

友達

「とんだ堕天使だ!」

「……戦うぞ、僕は!」


友達、真剣な弟の為に頭を捻る。


友達

「力試しってテイにすればイケるかも。」

「……強いかなぁ。」

友達

「敵は最強と謳われても引退した身内だ。きっと隙はある。」

「取り敢えず、挑むっ!」


勇んで公園を出る弟。

友達、祈りながらもクスクス笑う。











日の暮れた公園

ボロボロになった弟が戻ってくる。


「タチが悪いよ……。」

友達

「父討伐は無理だったか。」

「つらい……。」


俯く弟。

涙がポロポロ溢れる。


友達

「天使には、乗り越えなきゃならん壁がある!」


熱血ノリを繰り出して励ます友達。

悲劇のヒロインで応える弟。


「飛びたい、大空高く……!」

友達

「……。」

「逞しくなんてなりたくない。私は天使なのだから。」


弟、涙を流したまま宙に舞う。

涙と月明かりで翼がキラキラと光る。

遠い目で見上げる友達。


友達

「父も天使だよ? 何処までも飛んでくるよ?」

「強えぇ。」


力無く降りてくる弟。


友達

「天使の宿命だ、諦めろ。」

「……虎の方がマシかぁ。」

友達

「だな。」


弟、祈りのポーズをしながらブツブツ言う。


「痔、爆発しろ。

 ヅラもバレろ。

 電子マネー使えなくなれ!」

友達

「どんな呪いだよ。」


小さな二人の背中を月明かりが照らす。 



(終わり)

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天使は憂鬱 @yuzu_dora

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