トリック・オア・トリート
志央生
トリック・オア・トリート
「トリックオアトリート」
インターフォンに反応して玄関を開けると小さな子供が衣装を纏って立っていた。それがハロウィンの仮装であることに気づいたのは彼らがお菓子の入った袋を持っていたからだった。
「あぁ、お菓子ね」
そう呟くと子供の顔がにこやかになって「トリックオアトリート」と催促するように繰り返し言ってくる。こうなるとお菓子を持ってくるまで黙ることはないだろうと思い、キッチンにあるお菓子を数個手づかみで取った。
「はい、これ」
適当に持ってきたお菓子を子供に差し出すと思っていたものと違ったのか笑顔が薄れてしまった。それでも文句は言わずに「ありがとう」と小さな声で言って来たのは偉いと感じた。
子供が去ってから玄関のドアを閉めて鍵をかける。減ってしまったお菓子の残りを確認しながら部屋に入ってタバコに火をつけた。
今日は同じような目的の来客が多い。イベントごとに世間が盛りがっているのだろうがいい迷惑だ。子供のイベントと言って人の家にお菓子をたかりに行くことを認める親もそうだが、それを否定する側には大人気ないとか海外文化に疎いなどレッテルを貼って非難してくるのだからタチが悪い。
「トリックオアトリートね」
お菓子を渡さなければイタズラする、なんて見方を変えれば脅迫みたいなものだ。そう言って人の家に来ておいて無事で済むなんてありえないだろう。やるならばやられる覚悟を持っておくべきだ。少なくとも訪れる家は選ぶべきだっただろう。もし選んでいたならば、こうなってはいない。
「さて、イタズラの時間だ」
もう一つ奥の部屋への扉を手を掛ける。おもてなしの途中だった最初の訪問者に次は何を振る舞おうか。そう考えながら私はドアノブを回していった。
トリック・オア・トリート 志央生 @n-shion
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