第2章【年末武芸大会】

第17話『いざ、武芸大会へ』

 年末の慌ただしい日々を一区切り付けて朝焼けで世界が彩る中、フジキと風馬は一緒に伍光地区にある総合体育館へと向かう為にバスに揺られて移動する。


「フジキちゃんは初めての大会だったよね?・・・やっぱり、緊張する?」

「大丈夫──って言いたいっすが、やっぱり、ドキドキするっす」


 フジキは「それに」と付け加え、バス内の猛者達に視線を巡らせる。


「バスに入った瞬間から肌がピリピリするっす。一目でみんな、一筋縄ではいかないのが解るっすよ」

「まあ、この武芸大会に出れる事自体がある意味で戦ヶ崎市の侍にとっては栄誉な事だからね。

 毎年あるから、この日の為だけに侍している人間も少なくはないんだよ。

 まあ、会場についたら、もっと緊張する事になるだろうから、それを解すって意味でも軽く稽古をしよう」


 風馬はフジキにそう言って彼女をリラックスさせるように他愛ない話を続けた。

 会場となる総合体育館前で降りると二人は互いにわかれ、専用に用意された更衣室で剣胴着に着替えてから再び合流する。

 それから肩慣らしに準備体操をして今大会用に用意された木刀を手に軽く地稽古と呼ばれる稽古をして緊張と寒さで強張る互いの身体を温め合う。

 通常の剣道と違い、防具を使用せず、木刀を用いた自由に技を掛け合う稽古である。

 フジキは風馬の胸を借り、一心不乱に木刀を振るっていた。

 そんなフジキを見据えながら風馬は彼女の動きを捌きつつ、その動作を観察する。


 ──年の締めとして行われる年末の武芸大会。


 参加者は侍見習いの部門と侍部門にわかれており、優勝者には都内のMVPとして名前が新聞に顔写真付きで載るのだ。

 故に先の風馬が言ったようにこの大会に参加する事を一つの到達点と捉える侍達も多い。

 侍を志す者であるのならこの大会で優勝する事は資格がある事と認定され、将来的に侍として職に就きやすい。

 尚、この武芸大会はいまや日本の相撲並みに世界に知れ渡っている状態であり、戦ヶ崎市を知らぬ他の国からは日本の文化の一つとして考える程であった。

 無論、日本でも中継されているのだが、戦ヶ崎市を知らぬ日本ではマイナーなスポーツの一部として捉えられている為、興味がある者はのめり込むが、興味がない者はとことん興味がない。それがこの武芸大会である。


 中継はUチューブを経由して世界に発信される。

 開会式は戦ヶ崎市でも古い歴史を持つ巫女による演舞で幕を開ける。

 演舞の内容は八百万の神に公平な審判である誓いを立てて侍達の健闘を祈ると言うものである。

 ルールは剣道と変わらないが防具がなく、守るものがない為、攻める事もだが、守りや寸止めの技量なども審査のポイントとして計算される。

 この得点を競い合うのが、この武芸大会のルール内容である。


 互いに達人故に全力を出しつつも相手を傷付けぬ技量加減も必要になる。

 それ故に実践的かつ模擬のような大会だからこそ、その優勝者は高い技量を讃えられる。

 それが武芸大会の醍醐味の一つであると言えた。


 かくして年越しに行われる互いの実力を競い合う侍達の大会試合が開催されるのであった。

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