第14話『侍と天使』
──後日、これまで風馬の過去動画を見ながらフジキは怪異に侵食された人間が受ける精密検査の待ち時間を過ごしていた。
「フジキちゃん。竹光って、なんですの?」
隣で一緒に動画を眺めていた沙織里に質問されたが、フジキは真剣な表情で黙々と風馬の動きを真剣に観察している。
そんなフジキにため息を吐いて沙織里が天井を見上げた時にようやく、フジキが答える。
「竹光って言うのは江戸時代の時からあった金銭のない侍くずれが見栄を張る為に差していた刀の事っす。刀身が玉鋼の代わりに竹を使っている事から竹光って呼ばれているっす。
先生は理由は違うっすけれど動画を見る限り、確かに竹光を使ってはいるっす・・・いるんですが、その竹光で異形の腕を切り落としているんすよ。
おそらく、竹光は竹光でも、ただの竹光ではない筈っす。
そもそも、先生が刀を抜くのって怪異が実体化した時だけで対人戦はほとんど無手なんすよ。まさに対怪異に特化した侍として訓練された人っす」
フジキはそう言うと更に風馬の過去動画を閲覧しながら感心する。
「先生の凄さは身体能力もですが、観察眼も凄いっす。閲覧履歴は役場通いの時のものしかないですが、1日最大5件連続で退魔とか並みの体力じゃあ、普通は出来ない事っす。
風馬さんのこだわりさえなければ、もっと上だって目指せるのに・・・」
フジキがそう口にして動画を見終えると一息吐く。
そんなフジキを沙織里が面白そうに茶化す。
「フジキちゃん。風馬様に惚れてしまいましたの?」
「え?あ、いや、違いますっす!──先生の動きは確かに参考になるっすけれど、恋愛とかの感情じゃないっすから!」
フジキは沙織里の質問に否定すると沙織里はクスクスと笑いながら「本当にフジキちゃんは可愛いですわ」とフジキとじゃれ合う。
「そ、そんな事よりも本当に良かったんすか?・・・またお嬢の侍をしちゃって」
「勿論ですわよ!この千天善沙織里のモットーは有言実行する事ですわ!
わたくしはフジキちゃんだから、自分のお侍さんに選んだのですわ!」
「・・・やっぱり、沙織里姉さんには敵いそうもないっすわ」
そう言ってフジキは沙織里の肩に頭をすり寄せる。
───
──
─
「いらっしゃいませえ!何名様でしょうか?」
軽快に動きながら風馬は混雑して来た中華の満腹亭の来店客を捌く。
「3名様ですね!お座敷へどうぞ!──3名様入ります!」
「は~い!いま、お冷やを持ってきます!」
今日も今日とて賑やかな中華の満腹亭で風馬と光癒は接客に勤しむ。
「風馬の兄ちゃん!少し手伝ってくれ!」
「わかりました!大将!──あ、光癒ちゃん!お冷や持ってったら、先にお会計待ちのお客様をお願いね!」
「はわわっ!わかりました!」
今日も今日とて慌ただしい中華の満腹亭──この店には凄腕の侍と天使のような陰陽師がいるという。
その二人が今後、如何なる活躍をするのかは、またの機会に話すとしよう。
【第1章】『侍と天使・完』
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