第11話『冬休み中の部活』
陰陽師を育成する星女晴明学園ではその知識だけでなく、運動能力や霊力にも影響される学園である為、縦社会の構図になりそうな図を思い描くだろうが、霊力の質の劣化などが発覚する為、政治や業務に関連する事業は特に慎重に扱われた。
故に真に高潔な血筋や能力が求められる。即ち外界からの隔絶である。
稀に男性の陰陽師もいるが、その多くは能力を得る為に去勢処理がされている。
その為か、男性から進んで陰陽師になる例は珍しいのである。
「・・・はふぅ」
ランニング練習で頬を赤らめながら光癒は一生懸命に走る。
ここでも沙織里は優秀であるが更に実力のある人間と言うのがいる。
──それが岸辺勇也である。
「今回も勝負だぜ、千天善さん!」
「ええ!受けて立ちますわよ、岸辺さん!
今月はピンチですの!またもやし生活はゴメンでしてよ!」
「オレだってもう、もやし生活はゴメンだ!この勝負!──絶対勝つ!」
「わたくしだって!」
そんなヒートアップする二人の更に遥か先で独走する赤い髪の少女の姿があった。
背丈は身長の低い光癒と変わらない筈なのにどこで差がついたのか・・・しかし、そんな少女の存在があるからこそ、光癒も頑張ろうと走るのであった。
赤い髪の少女──ソラフィール・リッツェルフォン・クロシェールは後ろを振り返る事なく、独走状態のまま、ファイナルラップに突入して更に加速する。
───
──
─
「・・・はあ・・・はあ。相変わらず、ソラちゃんは速いなあ」
冬だというのに汗だくになりながら光癒は大の字になって倒れ込んだまま呟く。
そんな光癒に沙織里がタオルで汗を拭きながら近付く。
「彼女は大したものですわ。留学生ってだけでもプレッシャーがあるのにそれに見合った能力も持ち合わせているんですもの・・・わたくしも負けてられませんわ~!」
「うん。私ももっと頑張ろう」
「さて、それではわたくしはっと・・・」
そこまで言い掛け、ニヤニヤと笑う岸辺勇也の男勝りな顔を見やる。
「今回はオレの勝ちだぜ、千天善さん!」
「はいはい。わかってますわよ。いつも通り、焼きそばパンといちご牛乳で良いのですのよね?」
「おう!頼んだぜ!」
「全く。わたくしだって、そこそこには貧乏なんですのよ?」
「オレだって弟達を養っていかなきゃならない身なんだ。
だからこそ、昼飯代を浮かせなきゃならねえし、そんな賭だからこそ、勝負が負けらんねえんだろ?」
「その執念とパワーを頭に回した方が良いのではなくて?
また赤点ギリギリだと聞いてますわよ?」
「し、仕方ないだろ!?
元々は中卒で仕事するつもりだったんだから!
それが霊力と身体能力を買われて陰陽師にスカウトされるとは思わねえだろ!?」
「まあ、学園への学費は国が負担してくれますし、陰陽師の仕事は儲かりますものね?」
「加えて公務員扱いだ。やらねえ理由はねえだろう?」
「そこは同意ですわ」
なんのかんの、そんな風に笑い合いながら話をして沙織里は勇也と親しそうに語り合い出す。
主に近場のタイムセールやスーパーマーケットの半額になる時間を語り合うのが、沙織里と勇也らしいと言えばらしいなと思いつつ、光癒はそれを眺める。
「光癒さん、大丈夫?」
そんな光癒にソラが声を掛け、タオルを差し出す。
「あ、ありがとう、ソラちゃん」
「えへへ。どう致しまして」
光癒と笑い合うとソラは「隣空いている?」と質問して来る。
「ソラちゃんは本当に凄いなあ。身長だって私とほとんど変わらないのに・・・」
「えへへ。でも、ボクなんて、まだまだだよ。早く【風魔】さんに追い付きたいから頑張っているだけさ」
「フーマさんって、よくソラちゃんのLINEでやり取りとかしているフーマさん?」
「そうそう。あ、この人ね?」
そう言ってソラは胸元のペンダントを開け、光癒に写真を見せる。
黒いロングコートに厳ついサングラスを身に付けた男性とVサインするソラ自身の写真を。
「いつか、ボクも【風魔】さんみたいな立派なエージェントになるんだ!
【風魔】さんは凄いんだよ!この間だって日本のダンジョンの迷惑系Uチューバーの配信者をやっつけたんだから!」
「へえ。そうなんだ。それは凄い人なんだね?」
「ボクも卒業したら【風魔】さんの助手になるからね。いまのうちにもっと頑張っておかないと──」
そんな話をしていると女教師が笛を吹く。
「は~い!一般生徒の活動時間は終わりよ~!
次は特待生が使うから一般生徒は気を付けて帰りなさい!」
「「「は~い!」」」
「──おっと、もうそんな時間なのか。ボク達も戻ろうか、光癒ちゃん?」
「うん!」
二人は手を取り合って立ち上がると急いで更衣室へと戻って行く。
──ここからは特待生である1年生の侍見習いと陰陽師見習いによる連携訓練の実技時間である。
光癒も入学当初にやったが、光癒の頭では詠唱を覚えるのも一苦労であった。
そんな3年と言う短くも濃密な時間をいまをときめく女子高生であ彼女達は過ごす。
3年と言う短くも長い時間を来年の4月に卒業しようとすると思うと光癒は色々、感慨深いものがあった。
──そんな事を思いながら光癒は3年間を共にした他の仲間達とその場から去る。
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