第30話 雲壌/天地

 人と吸血鬼とには、天地ほどの差があるらしい。もちろん生態であるとか、持つ歴史であるとか、社会からの扱いであるとか。それでも手を取り合うことはできる、そうメルティアードは言った。

 人間だって各々の異なる文化を抱えつつ、友好的に持ちつ持たれつしているのだ。長いこと調べていた、極東の国を想う。そして、長年の友、ギオルゲのことも。いつの日か、吸血鬼が大手を振って歩ける日が来るのだろうか……たった四年では難しかろう。でも永遠の命ならば、いつか。そう夢を見るのも悪くない。


 あと4年、どう過ごそうか。とはいえ、なんだかんだいつも通りの日常を過ごしていく気もする。それも一つの幸せだろうと笑って、グラスに残った酒を呷った。

 もう夜明けが近い。メルティアードは先ほど帰って行った。アルネも先に寝床へ向かい、彼と二人きり。

 泣き腫らした顔のアレクセイが寄ってくる。だいぶ疲れているようだ、今日は食事の時間を早くしてやろう。

「本当に、後悔しないかい?四年の間に気が変わったり、他のヤツを愛したり……したら、ちゃんと言っておくれよ……」

 心配そうだ。この泣き虫な愛する吸血鬼は、わたしの心変わりを何より恐れているらしい。

「後悔させないでおくれよ。一生涯わたしを惚れさせていておくれ」

 そう言えば、「やられた」という顔で笑った。

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