ネームor魔王
「ねぇ、知ってるかい?“ネーム”が現れたらしいよ」
城下町の大通り。
舗装ほそうが剥がれ、ガタガタにひび割れた一本道を中央に挟むように建物が並んでいる。
異形の者達は、オープン・バーとして利用されていた場所でウッドデッキに腰掛け酒を煽あおっていた。
「ワハハハ!そいつはよっぽどの死にたがりだな」
巨大な体躯に特徴的なひとつ目と一角のサイクロプスがジョッキを片手に笑う。
「“魔王戦”も近いからのう、特に驚く事でもないじゃろ」
おちょこいっぱいに注がれた酒をしっぽりと口に運ぶ、長く白い髭を垂らした老人のリザードマン。
「魔王戦、魔王たる器を持つと
サイクロプス、リザードマンに色気のある声で語りかける、炎を纏まとった羽で口元を隠すハーピィ。
「先々代の魔王様が取り決めた魔王戦。元はといえば、魔王への
「そこで勝ち残れば、魔王城にて魔王の配下として戦い、ゆくゆくは魔王への道が開かれるという、ね」
「俺に言わせれば生涯永久のタダ働きをさせられるとしか思わないがな」
エールを飲み干したサイクロプスが木製のジョッキを後ろに放り投げる。
投げられた先には、山のように積み上がったジョッキの数々。
その横に手足を投げ出し、壁に力なくもたれかかる生死不明のホブゴブリン。
「我々、魔族は種族によって差があるものの、数百年は寿命が尽きない連中ばかり」
「しかも、現魔王や歴代の魔王達は全員悪魔族。寿命などあってないようかのもの。魔族の中でも別格な寿命を持つ種族だ」
リザードマン、サイクロプスが交互に言葉を交わす。
「世代が変わるも変わらないのも魔王の気分次第。数百年後に変われるかあるいは永久に変わらぬか分からんからな」
「そんなの周知の事実だというのによくもまあ、魔王魔王と……」
「それほど、魔王という存在は価値があり魅力的なのよ」
「俺はごめんだね」
サイクロプスはわざとらしく舌を出し、両手を上げ首を横に振ると、続けざまに
「名乗ろうとするやつは世界を知らないバカだけさ。誰が魔王になろうとこの世界は変わりはしない」
鼻息をフンッと漏らし、
「俺たち魔族は、はっ。生まれた瞬間から、はっ。強い奴は強く、はっ。て弱い奴は弱いって、はっ。決まっている」
口を広げ、ジョッキを次々と持ち上げては、残ったエールのひと雫を必死になって振るい落とす。
「強いやつはこの世界で地位も名誉も確約されるが、弱い奴はどう足掻あがいても無駄だ」
全てのジョッキを振り終わったサイクロプスは残念そうに大きな目玉を
「大体、魔王がどうのこうのという前に世界のつくり方が種族の
サイクロプスは、ハーピィが飲んでいるワインボトルに手を伸ばすが、しれっと手の届かない位置まで移動される。
「強いものは強く、弱いものは弱くと作られているのだから強いものが私達を支配するのは当たり前」
今度はリザードマンのとっくりに手を伸ばすも持っていた杖で手を叩かれた。
「“強さとは相手を
これは魔族の共通認識であろう。だから誰が魔王になろうと結局同じ世界になる」
サイクロプスは立ち上がり、肩を落としながらカウンター奥へと酒を取りに向かうのだった。
それから少しして、ハーピィは赤らめた顔でグラスの中の赤ワインをひと回しすると
「フフ、酔っているからかしら。どうしようもない話がしたくなってきた」
「どうしようもない話?」
「仮に弱者がこの世界の頂点に立ったらどうなると思う?」
「それはお前、根本が間違ってる!
弱者は頂点に立てないから弱者なんだ。頂点に立てるやつは常に強者だよ」
カウンターから戻ってきたサイクロプスが声をあげ、
「腕っぷしで強いを
興奮気味に熱く語り出すリザードマンの長老の話に二体の魔物は「またか」と
「先々代の魔王様は偉大じゃ。器の大きさが他の魔王とは大違いであった。ワシの命が今も繋がっておるのはその
リザードマンの長老は、昔を懐かしむかのように穏やかな表情で語る。
そんな時、木製のドアが
「たのもー」
少年の甲高かんだかい声が店内で反響した。
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