第30話 全員まとめて


 突然の乱入に、男たちが戸惑っている今がチャンスだ。


 「作戦通りにいきます!」

 「おう!」


 ベアトリーチェが敵を相手する間に、背が低く、動きを捕らえづらい俺が悪魔の力で猛スピードでリリーを奪取する。

 俺はベアトリーチェに目配せを送る。

 戦う力など持っていないと思い込んでいる奴らに、まずは一発デカいのをお見舞いしてやるぜ!


 (儂が合わせよう。好きに動け)

 「頼むぜ相棒!」


 ガァン、とほとばしる稲妻が唸りを上げて、目の前の敵に襲い掛かる。

 男の一人は咄嗟に剣を構えるも、稲妻は剣をすり抜け、成す術もなく稲妻に全身を焼かれる。


 「なんだこのガキ、このナリで魔術師か!?」

 「盾を構えろ! 気を抜くとお陀仏だぞ!」


 大男が吠える。すぐさま警戒態勢をとり、こちらへ一斉に武器を抜く男たち。

 やるってんなら、上等だ。

 敵に時間など与えない。このまま一気に叩く!


 「ゾルバ!」

 「ああ!」


 ベアトリーチェが回り込むように突貫し、男たちを引き付ける。

 さすが、一人でリリーの護衛を任されるだけはある。たった一人でも数人の男たちを相手に一歩も引けを取らない。

 奴らのことはベアトリーチェに任せ、俺は他の一切を無視して、リリーのもとへ。


 (そぉい!)


 再び雷が放たれ、近くにいた男を吹き飛ばす。

 床を焼き焦がすほどに素早く走る。

 あっという間に敵を置き去りにして、リリーの入れられた布袋を担ぎ上げると、そのまま大回りで距離を取る。


 「よし!」

 「よくやりました! そのまま逃げなさい!」

 「あぁん!? 行かせると思ってんのかこのダボがぁ!」


 何人かがベアトリーチェの壁を抜けてこちらに追いすがってくる。

 しかし、俺は奴らの行き先を塞ぐように電流を地面へと這わせ足止めする。


 「くそ、こいつ、雷の魔術を!」

 「取り囲め!」


 一対一では悪魔の力に勝てないと見たか、展開して俺に迫ってくる。

 しまったな……せっかくリリーを取り返したっていうのに、逆に近すぎて勝負をかけるには危険だ。

 強すぎる雷を手元で生み出すと、リリーにも感電してしまうかもしれない。


 「おい悪魔、わかってるよな」

 (舐めるなよ、わが友。どうとでもしてくれるわ。魔力さえあれば、な?)

 「そりゃ頼もしいね!」

 「なにをぶつぶつ言ってんだ! てめぇらかかれ!」


 悪魔の挑発に乗り、魔力を上乗せして譲渡する。

 雄たけびを上げて襲い掛かってくる男たちに向けて、腕を振るう。

 纏わりついた稲妻が鞭のように奔り、敵を打ち払う。

 が、強固な盾に阻まれ、ダメージが通らない。


 「いいぞ! このまま押しつぶしてやれ!」

 「なんだよ、駄目じゃねーか! 何やってんだよ悪魔!」

 (魔力が足らんのじゃ! もっと寄越さんか!)


 この欲張りめ!

 更に魔力を練り上げ、悪魔に渡す。

 すると、次第に鞭の勢いが強まり、男たちが押されていく。


 「な、こいつ、さっきより威力が……!」

 (よい、よいぞ。もっと寄越せ、友よ)


 練ったそばから魔力を奪い取っていく悪魔。

 俺の周囲を奔る稲妻が一本、また一本と増え、盾の上から男たちを搦め取っていく。


 「うわああああ、やめろおおおお」

 「びが、びががが」

 「しししししびびびっびれれれ」


 悲痛な断末魔が礼拝堂を埋め尽くす。

 だが、容赦はしない。

 俺の家族に手を出したんだ。報いは受けてもらうぜ。


 ◆◆◆


 「あれが悪魔の力……」


 悪魔と契約したと聞いたときは、なんということをしたのだと身も凍る思いだったが、こうして共に肩を並べると、なんと頼もしく心強いことか。

 わずか五歳の少年が、大人をものともせず圧倒しているなんて。


 「よそ見してんなごらぁ!」


 ぶん、と振られる剣を避け、男たちに向き直る。

 いけない、あの悪魔のことはひとまず後回しだ。今はリリア様をお救いすることに注力しなくては。


 「よーよー姉ちゃん、別嬪さんがこんな夜中に何の用だよ」

 「夜遊びとは感心しねぇなぁ! 何されても文句は言えねぇよ?」


 私の体を舐め回すように見て、下卑た笑みを浮かべる男どもを睥睨する。

 こんな連中にかかずらっている時間は無い。


 「さっさと終わらせます。覚悟の無い者からかかってきなさい。この剣の錆にしてくれましょう」

 「あぁ!? そんな短けぇナイフ一本で何ができるってんだよぉ!」

 

 私はダガーを構え魔力を籠める。

 するとどうしたことか、ダガーの刃に思わず見惚れるほど美しい紋様が浮かび、籠めたはずの魔力が私の体へと逆に流れ込んでくる。

 私の内に走る魔力回路の一本一本まで余すことなく開かれ、体の芯から熱く湧き上がるような力を感じられる。


 これが、精霊武装……! ただ強化効率の高いだけの武器とは格が違う!


 飛び込んでくる男の足を払い、続けて横合いからの刺突を避け、背後から真横に振られる剣の軌道に潜り込んで、そのまま無防備な腹を蹴り上げる。

 たまらず怯んだその隙を見逃さず、側頭部へとダガーを突き立てる。


 「な、なぁっ……」


 絶命し崩れ落ちる仲間を見て、慄く男たち。


 「……こんなものですか?」

 「て、テメェよくもぉ!」


 一人。二人。三人。

 ダガーを振るうたびに、わかってくる。この武器の使い方、力とは。

 おそらくこの武器に悪魔が施した起動式、三つの異なる色相は、使用者の内包する魔力、気力、霊力に作用し、より洗練された状態で解放させられる。


 「な、なんだこの女、とんでもなく強ぇ……」

 「く、くそ、囲め! 囲め!」


 もはや腰が引け、膝が震えている彼らの相手など造作もない。

 大地を踏みしめ、ダガーを払うだけで、暴風のような魔力刃が敵を一閃する。

 気力により超強化された肉体は羽のように軽く、単調なステップが高速移動へと転じる。そして、研ぎ澄まされた霊力が、まだ見ぬ私の潜在能力を開花させようとしている。


 私は騎士としては未熟だった。

 女性だから、年齢が若いから、傍仕えを許されていた面は大きかった。

 私は情けない女だ。

 リリア様をみすみす奪われ、騎士団も除名され、途方に暮れたところをたった五歳の少年に叱咤され。

 でも、この剣があれば、私でも十分戦える。

 いや、もっともっと強くなれる――!


 「覚悟しなさい。リリア様に仇なす敵は、私が切り伏せる!」


 

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