第24話 無双せし"熾天使"
《24話》
【魔界─邪竜ファヴニアルの棲家】
──フィリスの一撃によって片翼を消し飛ばされ落下していった邪竜
その邪竜にとどめを刺しに二人が降りていった後、フィリスに謝罪を強制させられた討伐隊の悪魔の一人が愚痴をこぼす…
「ハァ…ハァ…マジで死ぬかと思った…なんだよアレ、超級の俺らと比べ物にすらならない化物じゃねーか…正直、技の発動の予備動作すらねーから躱しようがねぇ…あんなに攻撃に気配を感じさせねぇのは悪魔の超級でも見たことがねぇ…」
「お前…マジで命知らずだよな。真面目に俺はお前が殺されたと思ったぜ…」
「いや…俺は熾天使相手に怖じ気付いて何も言わないお前らの代わりにガツン!と言ってやっただけの話だ。」
「いや…お前の場合は言い方が悪い、あの言い方じゃ怒らせるだけだって…」
「ハハ…でも凄くねぇか?熾天使の猛攻になんだかんだ耐えたぜ。熾天使つったら天使の奴らの最強格だろ?」
「ハァ…お前なぁ、全く耐えれてなかっただろ…明らかに一方的な蹂躙だったってアレ…最終的に殺す気が無かったから見逃してもらえたってだけで。」
「はぁ?でも、もっかい戦ったらワンチャン勝てる可能性も…」
「絶対無い。最初に腕を光の刃で斬り落とされてたみたいに首斬り落とされて終わりだって…」
「いやいや、来るって分かってたらアレも防げ…ッァ…アア''''…アア"!?」
「おい、どうした!?って…やっぱりな…。お前、反省してなさ過ぎ。それに全然防げてないし…」
減らず口を叩いていた悪魔に対して、すでに邪竜ファヴニアルにとどめを刺す為に降りていったはずの熾天使の鎖攻撃が再びその悪魔を襲う…
油断していたこともありあっさりとその悪魔は再び鎖に締め上げられ、その激痛で悶え、発狂しだす。
「ゥ……ガ…ァ……ま…マジで…すみませ…んでした…ッ!グゥ……!もう…言いません!言いません…から…ぁ!!」
そう必死に懇願すると光の鎖は少しだけ締め上げる力が緩み
「ハァ…ハァ…クソッ…マジで冗談じゃねーよ…。俺は別に縛り上げられて興奮する趣味は無いっつうんだ…」
「おい。」
「なんだよ…──ってガイルさん…!いや、今のは勘違いでして……ところでなんでしょう?」
「そろそろいい加減口を慎め。命を護られた我らがあの熾天使に文句を言える立場じゃない事をまだ理解していないのか…」
「いや理解してますけど…何と言うか、あんな初級のヤツにやたらと肩入れする熾天使の気がしれなくて…」
「お前が次に討伐隊で顔を合わせる頃にはどうなっているか分からない。"才能"に恵まれた奴が初級から超級にまで一気に駆け上がった例もあるだろ。」
「…あの伝説になってる天使の加護を宿した茶髪の剣豪…今どこに居るかは不明ですけど」
「うむ…それも一例だな。特に天使の加護を受けているものの成長が凄まじい事はお前も理解しているだろう…」
「分かってます…けど。いつまでこの天使優勢の時代続くんですかね…」
「さぁな……とにかく分かってるなら構わない、どちらにせよ我々は悪魔優勢になる"来たる日"の為に努力するしかない。今回については、邪竜の討伐は彼女らに任せて帰還の準備をする。」
「………はい。」
フィリスに縛りあげられた超級の悪魔はガイルに諭されながらもイマイチ納得がいっていないと言いたげな不服そうな反応を示していた。
そのボロボロになった身体を回復させつつ、帰還の準備をしながらも邪竜にとどめを刺しにいった熾天使と見学者の様子を観察するのだった…。
★
──俺はフィリスに言われるがまま、片翼を撃ち抜かれて墜落していった邪竜ファヴニアルの元へと降り立った。
"グゥ………ギィ………アァ""
俺やフィリスが一定距離以内に近づいた事に気づいたファヴニアルは…片翼を失った事でバランス感覚が狂ったのだろう…しかしながらヨロヨロと立ち上がりながらもこちらに再び殺気を放ってくる。
(これが邪竜……やはりボロボロになっても全然闘気が衰えない…。油断すればこのボロボロの状態でも殺られるのは間違いなく俺だ……)
俺は先程邪竜の瘴気にあてられた事もあり、その殺気を向けられればやはり緊張はするし…身体は強ばりそうになってしまう。
その様子を察してか、フィリスは俺に話しかけてくる。
「ディガル君さ…」
「……ん?」
「どうやって飛んでる?」
(へ?飛ぶ?いきなり過ぎて話の脈絡が……)
「飛ぶって…飛ぶ?」
「フフッ…他になんの意味があるの?翼で飛ぶアレ」
フィリスはクスクス笑いながら、肯定してくる。可愛い……でもこれはフィリスの高度なボケ…だったりするのだろうか?いや…違う…よな?
「うん、やっぱりその飛ぶだよな。うん!」
「で、どうやって飛んでるの?」
「どうやって…うーん、実際意識してないうちに勝手に翼で飛んでたというか…」
(こういう当たり前になっていたことをいきなり聞かれると言語化するのって意外と難しいものだ)
「じゃあ、少し質問を変えるね?兄と天界に来た時はどうやって来たの?今のディガル君の飛び方だと多分兄の速度についていけないと思うんだよね…」
(ギクッ…フィーゴの足にしがみついて天界に来たことバレてるかも…)
「もしかしてバレてる…?」
「んー…♪その様子だと兄にしがみついて来たパターンかな。多分そうじゃないと天魔結界通れないでしょ。」
「フィリスってさ…俺が思うよりかなり賢いよね…」
「そ…そうかな?そんな事も…あるかもだし、ないかもー?」
フィリスはわざとらしく誤魔化すようにそっぽを向きながら口笛を吹きつつ、身体を揺らし──
(フィリスが身体を揺らすと何処とは言わないけどそれなりにサイズあるから多少揺れるんだよな……フィリスがそっぽ向いてるのに俺も目線をそらさないとついガン見しそうになるし…目のやり場に困る。)
「ハハハ…隠さなくていいって、学園で1位って事は学力も含まれるんだろ?」
「あれ?私学園の話ディガル君にしたっけ?」
「直接はされてない。……でも、アデルに万年2番手って言ってたし…なんとなくフィリスがずっと一番だったんだろなぁって…」
「あー、あの時の会話かー…さっきディガル君から言われた言葉をそのまま返すなら、ディガル君こそ察しが良いね?私の想定以上かも」
「ハハ…フィリスの想定ってのがどれくらいかは分からないけど、良い意味で受け取っておく…」
「んー、つれないなー?私が誰かを褒めるのって少ないんだから、そこんとこもうちょい喜んでもいいと思うんだけどなー?」
「こう見えて内心めちゃくちゃ喜んでるよ…ただ何と言うか…照れが先に来て素直に喜べない…」
(好きな子にいざ褒められると思考がこう…追いつかないんだよな……供給過多ってやつかな)
「ふーん…♪」
「え、何その含みを持たせたような"ふーん"は…」
「いやぁ?ディガル君は相変わらず揶揄い甲斐があって面白いねーって」
「ぐぬぬ…」
(フィリスに勝負で勝てる気がしない。口喧嘩、体術、魔法ら、どれを取っても勝てるビジョンが見えない)
「私に勝とうなんて、100年くらい早いかも♪とにかくさっきの話だけど、ディガル君にはもっと小回りが効いて、スピードの出る飛び方について教えてあげr……」
"グギャァアアアアアア"""!!!!!!!"
──そんな話をしていると、やはり蚊帳の外状態にされ、舐められてると思ったのだろう…邪竜ファヴニアルはけたたましい咆哮をあげる。
(あ…そういやコイツ居たわ。ホントなんでだろうな、不思議とフィリスと話をしてるとどうも警戒心が緩むんだよな…)
(絶対安全だ!という訳じゃないのに話の方に集中してしまう…。フィリスの魅力なのか…それとも能力なのかは分からないけども)
「……うるさいなぁ…せっかくディガル君と今話してるんだから邪魔しないで欲しいんだけど…」
フィリスは不機嫌そうな顔をすれば、邪竜の足を再び出現させた光の鎖によってそれぞれ縛り上げる
"ギュァ!?ギィ……!ギュァアア!!"
先程の悪魔を縛りあげた時よりも明らかに頑丈そうで、これはそう簡単に振りほどくことは出来なそうである───
しかし
「私がさっきと同じ攻撃で済ますと思う?」
"『
───フィリスがそう呟いた瞬間、邪竜の四肢を縛り上げていた不可視の光の鎖が、ガラスの様に自壊を始め……
しかし、その自壊した破片が細かい光の粒となり、フィリスが右手の掌をキュッと握る同作に連動し邪竜の肉体を光が縦横無尽に貫通する──
(え…、今邪竜だけじゃなく完全に俺も騙された…てっきり光の鎖で縛り上げるのかと思っていたのに…フィリスにはこんな技もあったのか…)
邪竜はその痛みによって、けたたましい絶叫をあげる。
邪竜は自分が一方的に何も出来ないという状況に耐えられないのだろう……しかしながら、邪竜もそう脆くは無い
光の粒が貫通し、穴だらけになった肉体を素早く修復し始めている。
しかし、修復を始めた部位に光の粒が再び貫通し回復に手一杯な邪竜は身動きすらロクに取らせてもらえていない。
──だが、しかしながら俺はとある事に気付く
「あれ?フィリス、今気づいたんだけどさ…邪竜の翼、復活してなくない?邪竜の本体ともなれば時間が経てば回復しそうだし、現に光が貫通した部位は回復出来てるのに片翼だけは回復出来て無い…」
「おや?ディガル君は目の付け所がいいね?」
(フィリスは再び、ニヤッとしたイタズラっぽい表情を浮かべると)
「私がアイツ(邪竜)の翼に回復がかけられないよう妨害してるんだよねー。」
「へ…?そんな事が…出来るのか…?」
「まぁ、簡単に説明すると……」
[フィリスの解説によれば、どうやら回復能力というのは主に自分の持つ回復力か、回復スキルの2つがあり…フィリスが他者に使うのは回復スキル、所謂リザレクションだ。その他にも色々回復スキルはあるらしいが今は省略しよう…
そして、もう一方の自分が持つ固有の回復能力というのはそれぞれの種族によって回復要素が違うらしい。
悪魔ならば"魔力"……熾天使であれば熾天使の"加護"の力……邪竜であれば"瘴気"や"闇の力"などが例として挙げられるらしい。
勿論自分が邪竜の場合、熾天使の加護の力や悪魔の魔力などでは自分の傷を癒やすことが出来ない。
フィリスはどうやらそれを利用?し、邪竜の翼を熾天使の加護の力で包み込んでしまい、瘴気をひたすら払い続けることで回復を妨害しているということらしい……。
だから邪竜は熾天使の加護を活用出来ない
(フィリスの加護をフィリス以外で有効的に活用できるのは天使と悪魔の両方の力を宿す"特異点"であるディガル君だけだよ♪とフィリスは言っていた。)
ため、回復が出来ないのだ…。]
「なるほど…フィリスってホント先手先手をよんで立ち回るの上手いよな…」
「そうかな?単純に相手が戦いの時されたら嫌だろうなー…って事を私はひたすらやり続けてるだけだよ?」
(それって遠回しに性格悪いって言ってるようなものだよな……(苦笑)悪魔の俺よりも"悪魔的"な気がする。ただ戦いとならば頭の回転の速さは相当なアドバンテージになる…。)
「でもそれって相手の弱点とか見極めたりとか戦況をよんだりとか…かなり状況把握ができていないと難しいよな…やっぱりそれがフィリスの強さだと思う。」
フィリスはその発言にそうかなぁ?という表情をするが…多分フィリスの場合は無意識半分、考え半分みたいなとこありそうだ…。
俺がフィリスを褒めていると、フィリスは小さく
「でも…結局最終的には小賢しい小手先の技術だけじゃどうにもならないってのは覚えておくべきだよ…ディガル君。」
「え?」
俺には今のフィリスの発言には何か暗い感情が紛れていた気がする…。なんとなくだが今その発言をした時のフィリスのオーラが揺らいでいた。
「ハハハ…気にしないで。とにかく勝つ為に基礎スペックを上げるって事は重要ってだけ…」
「う…うん。」
「今からディガル君に教えるのは、シンプルかつ誰でも慣れれば扱える技術だよ。」
「俺にも、扱える技…」
(…ゴクリ…)
俺はつい、やっとこの世界に来て初めての技を教えてもらえるとテンションが上がってしまう。
「そう。でもこの技は使い手の力量次第で…最終奥義にもなり得る技だから…♪」
(そういった最初から最後まで使える技ってのはテンション上がるよな!基本中の基本でもそれを極めれば最強ってのはロマンがあるし、男子には非常に魅力的な響きだ。)
「ッ………是非ともよろしくお願いします!フィリス"師匠"!」
と気合いを入れた返事を返すとフィリスはノってくれたようで
「良い返事だね、師匠かー、そう言われると教える私にも気合いが入るってものだよ~…♪私についてきたまえ、"愛弟子"ディガル君」
そう言って、縛られたままの邪竜の元へと歩き始める。
──さぁ、最初泣かされた邪竜ファヴニアルにもギャフンと言わせてやろうか…!!
《24話完》
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