第18.5話 番外編─ルクス・バルディオルの独白─
《18.5話》
【番外編】
※この話は2章前の幕間のストーリーになります。
【儀式の間】
『ルクス家の恥さらしとして』
「ハァ……マジ、目が覚めたら真っ暗かよ。どうなってんだ?しかも四方は壁、上もかよ……」
見たとこ、完全に真っ暗な部屋に閉じ込められたという訳だ。一度領地には帰った記憶はあるが…そこから記憶が全く無い。
ま、俺は出来損ないだ。幽閉されたかもしれねーなとすぐに理解した。
実際…ルクス家は使えないヤツに大しての扱いはロクでもねーし…"儀式の間"ってのに過去閉じ込められた奴が居たって聞いたが…俺もかもしれねーな…
「俺はどこで間違えたのか……いや、能無しとしてルクス家に生まれちまったのがそもそもの間違いか……」
どうせ暇なんだ…昔のことでも思い出してみるか───
──────────────
───幼い頃から俺(ルクス・バルディオル)の目に映る世界には光などなかった…。
自分には生まれつきの才能が無い。そんなことはこのルクス家に生まれて嫌というほどその事実を思い知らされてきた…
「努力すればきっと報われる」などという周りの声など俺からすれば何の価値も無い。
努力したところで、生まれつきの能力が変わる事は無い、ルクス家相伝の能力は後天的に身についた事例が過去に無いからだ。
ルクス家の天使は昔からその生涯を終えた天使達の魂を"神"に返すという"魂送り"の能力を持っている事が多い。
それはルクス家相伝の能力として昔から引き継がれてきたものであり、ルクス家に新たな子供が出来た時
『神童』か『無能』か
その相伝の能力の有無だけで判断される。
神童の場合は英才教育を施され、一族の宝として大切に大切に育てられる。しかし"無能"は…言わなくとも分かるだろう…
ロクに教育などはされず、ルクス家の魂送りの儀式の際の雑用係としてその一生を終える──
勿論それだけであればまだ幾分かマシだ。だがそんなはずはない…
無能は、有能な奴から見下され…何なら見下されるだけならまだマシだ…子供というのは非常に残酷である。
生きる価値すら無い、相手が自分より下だ…と感じればイジメや暴行を受けることなど無いほうが珍しい。
俺はそれが耐えられなかったのだ。なぜ相伝の能力をもたないというだけでこんな理不尽極まりない仕打ちを受けるのだろうかということばかり毎日考えていた…
勿論俺は大して賢くはない…だが自分の状況を変えたいという一心で天使達の多くが通う学園へと逃げるように転がりこんだ。
学園では天使の最上位である熾天使から俺と似たような境遇のヤツまで様々な天使が在籍していた。
その学園は多くのコネクションを保証されているし、そこに在籍する熾天使共に気に入られれば卒業後良い職にも付ける可能性も高い……
そこで成績が良ければ俺も……みたいな時期が俺にもあった。この学園は座学、身体能力や戦闘力、魔法、天使の加護の力…etc などなど多岐にわたる要素でそれぞれ評価される。
どれかしらが一つでも上位が取れれば──
しかしそれは甘かった。そもそもこの学園にいる熾天使は数人ではあるが、幼少期から熾天使としての厳しい訓練や教育を得ている。
つまりはエリートだ。熾天使家の出身の天使達は卒業後熾天使としての役割を担う。
正直熾天使の連中が学園で学ぶことなどほぼ無いだろうが、熾天使になる前に社会性を身につけ、この学園で熾天使になる為最終チェックを行う為に来る。
まぁ、他にも庶民の天使と沢山の時間を触れ合い、庶民的な感覚を忘れないようにする…みたいなこともあるのかもしれない。
まぁ…そんなエリート天使達に俺達平凡が勝てる訳が無い。成績については早々に諦めざるを得なかった。そもそも熾天使以外の天使達の中ですらだいたいの項目で平凡だったのだ…もう話にすらならない。
なら作戦を変えて次は熾天使の連中に気に入られようと俺は考えた。
やはり類は友を呼ぶとはよく言うものだ、熾天使の家の出身の天使は熾天使同士でよくつるんでいるようだった。だが流石にこいつらに舎弟みたく扱われると面倒だ…学園に来てまでパシリやいじめなどを受けるのは御免だ。
他を当たってみれば、勿論例外もあり、熾天使の家の出身でも更に上である御三家と呼ばれている熾天使の家があるという話を聞いた。
その家の出身の熾天使二人はほとんど他者とつるんでいる様子は無い…
いつも一人で講義を受け、そして講義が終わればさっさと教室を後にしていた。忙しいのだろう…社会性どうのこうのを学園で学ばせる的な事を最初は言ったが…全然それは役割を果たしていないようだ。
御三家…他の熾天使の連中が羨むように話をしていたのを耳にした。シエル、ヴァイス、ミスタ…学園にはシエル家とヴァイス家の出身の熾天使が在籍していた。
やはりこの二人は別格だったようで、ほとんどの項目がその二人の一騎打ち状況で全く他を寄せ付けていない。
それでもシエル家の令嬢と呼ばれている"フィリス"はほとんどヴァイス家の"アデル"を色々な分野で負かしていて…そのたびにアデルが悔しそうな顔をするのを何度も見た。
かと言って二人が仲良く話しているようなシーンはほとんど見なかった。本当に稀にフィリスの方が
「また私の勝ちだね…♪」
と勝ち誇ったような顔をして彼の横を通り過ぎるのを1度見たことがあった気がするが…
アデルの方は完全に意気消沈して聴いていなかったようだ。
俺は最初、シエル家の令嬢の方に"学園での身の回りの雑用係"をしても良いかと申し出てみた。
フィリスは意外そうな顔を少ししたものの…
「今の所、特に身の回りに不便を感じていないので…有り難い申し出ですが、丁重にお断りさせていただきますね?また、何かしらそういった事が出来た時にはよろしくお願い致します。」
とアッサリ断られてしまった。前にアデルに対して私の勝ちだねっと言っていた時の発言から冷酷で真面目というよりは結構軽い感じかなと思っていたのだが…
彼女の底は全く見えなかった。それどころか、笑顔の一つすら見ることは叶わなかった。
それは3年間の学園生活の中で結局最後まで……だ。
俺はその後アデルの方にも声をかけてみた。すると意外にもアデルは俺を駒として使ってくれると言ってくれた。
学園で同級としてしっかり話した相手は俺が初めてらしく、拍子抜けするほど簡単に気に入られた。
アデルからは色々話を聞くことができた。フィリスにも同じように頼み込んだ事を話すとアデルは笑いながら…
「アイツに平気で話しかけれるとかお前すげェな?俺ですらアイツには対等に見られてねェ、ほんまモンのバケモンだよありゃ……アイツの兄もバケモンみてェな強さらしいが、幼少期からそいつに英才教育されてるらしいぜェ?
だいたいフィリスが笑顔で話をしてやがったら次の日天変地異でも起きるんじゃねェか?ま、アイツが笑顔を見せる時つったら………まぁ良い"ペット"か"玩具"を見つけた時だろな。ハッハッハ!」
俺にはその発言がよく分からなかったが…勝手に「自分と対等に戦える相手」もしくは「本当にペットか」そう結論付けた。
なんだかんだ学園はアデルと共に生活していれば充実していた、身体の中に熾天使の加護を宿して肉体強化をする方法(これはヴァイス家相伝の能力を普通の天使でも使えるようにしたもの)や、座学についてもアデルに学べば多少はランキングも上がった。
アデルからの
「バル、お前は飲み込みが早い。少なくとも周りが言うような能なしではねェよ…。だから、上手く生きやがれよ?マジで」
言葉は今でも覚えている……だが…今結局は幽閉されちまってる状況だが…。
けどよ…俺はどうしても"あの悪魔"が許せなかったんだ。
学園での唯一の心残りはフィリスの笑顔だ。…熾天使の連中は美男美女の天使が本当に多かったが…フィリスはその中でも美少女という言葉がピッタリと当てはまるレベルで格が違った。
クラスは勿論、学園の中でも高嶺の花状態で…笑顔を見た奴は居ないというミステリアスな状況で……
俺も彼女には最終的に3度アタック…いや、舎弟にしてくれと言ったが彼女は一切靡かなかった。
というより俺以外からも多数告白されていたが、全くそういった相手に良い返事をした事はない感じだった…
もはや彼女は神格化されていると言っても過言ではなかった。いや、勿論俺からすりゃ舎弟にしてくれたアデルにも神だと思っていたが…
その神格化された笑顔というのは唐突に崩れさった。
──その"悪魔"を見た時、俺は何故か殺意が芽生えた…言い様のない心の底にあった黒い感情を呼び起こされてしまった。
分かっていたんだ。言葉にしてしまえば簡単だ…
"特異点"
アデルからも聞いていた。約1000年に1度、悪魔と熾天使の力両方を完璧に持ち合わせた存在が生まれる。そして現にそいつが生まれたそうだ…少し前に話題になっていたからな。
そいつの行く末は変な失敗さえしなければ……
目の前のこの悪魔は何も知らない様子を取り繕っていた。なぜ俺から喧嘩を売られるのか理解をしていないという様子で……そして俺をまるで見下すような目で、しかしながら抵抗すらしない。
その良い子ちゃんぶったその態度が更に俺の劣情…いや、嫉妬心を煽る。それはアデルとの出会いで完全に忘れていた、忘れたかった感情だ。
(お前のような存在は……何も努力をせずとも生まれつきの才能だけでこれから先のし上がれるんだ…ここいらで苦しい目に遭わせても、問題無い…)
こいつを殴っても俺がこれから先ルクス家の恥さらしを脱することなど無い。
わかっていた…だが、俺の心の底の黒い感情は治まらない「コイツを再起不能になるまで痛めつければ…1000年に1度の存在がパァになる、素晴らしいじゃないか…」というような考えが湧き上がっていた…
もう一発!腹に受けてみろよ、これは熾天使の加護を込めて殴るから相当キツイぞ?と殴りかかろうとした瞬間──俺の身体は光の鎖で絡めとられ、全く身動きが取れなくなっていた。
油断をしていた訳じゃなかった。しかし、一切気配を感じなかった。だいたいどの天使も技や能力を使うときに気配を感じるものだ…そういえばアデルは"俺はステルスを目的としてないが、意識すれば気配は絶てる"と言っていた。
完全に気配を感じなかったとなれば…相手はアデル以上の可能性がある。俺が知っている相手でそれは一人しかいない…
しかし、学園で相対した時とは雰囲気がそもそも違った。冷徹な眼差しで…同じ学園で過ごした相手だろうと一切の手加減なく不用意に抵抗しようものならばこの鎖で身体を締め上げられる…
(殺される………)
そう悟った。
いくら普通の天使でも、死を悟った者は口が回る。
「シエル家の御令嬢!これは誤解です。わたくしめは天使を侮辱したこの醜い悪魔に教育的指導をしていただけ…!自分は悪くありません!」
今思い出しても情けないがよくもまあ適当な発言をしたものだ。
そんな言い訳が通用する訳もなく更に身体は鎖で締め上げられて悲鳴をあげる。
もう駄目かと感じた時、俺はこの悪魔に命を救われた……あのままならフィリスは同族殺しは重罪だろうが関係なく俺を殺していたかもしれない…
結局俺はあの気に食わない悪魔に感謝するしかなかった───
───────────────
「今思い出しても、本当に情けねぇな…その後結局俺はここに閉じ込められたままで……アデルにはマジで悪いことしちまったな。アイツは唯一俺のこと…褒めてくれたんだがな」
仮に億が一ここから出れたなら多少改心でもして、アデルには感謝を……
あの悪魔には…謝る必要もないだろ。結局俺の介入によって、フィリスと出会ったんだ…
まさかあんなアッサリとフィリスが笑うなんてな…マジで羨ましいぜ。特異点………まぁ、アデルの言うとおり"ペット"がお似合いだ。
だが…舎弟にすらなれなかった俺よりは数万倍マシだな。
「はぁ……マジで真っ暗過ぎて精神狂うぜ…」
───結局ルクス・バルディオルが儀式の間から出れたのはフィリスの裁判が終わった次の日の夜だった。
彼は約3日間真っ暗の、音一つ無い空間に閉じ込められていたのだ…
バルディオルはあの気に食わない悪魔に再び救われただけでなく、まさかアデルが儀式の間にわざわざ自分を迎えにくるとは思っていなかった為…再び自分の情けなさで涙を流すのであった──
しかしその涙は、彼を改心させるには十分過ぎた。
彼がその後どうなったか…魂送りの役職を剥奪されたルクス家は恥さらしとして爪弾きにしていたバルディオルを"熾天使御三家(ヴァイス家)次期頭領"に気に入られた天使として改めて迎え入れ…
というのはまた後日談で語ろう…
《18.5話完》
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