第18話 裁判後③「ソニアとの対話」
《18話》
【裁判後──ルクス家領地】
───天界の"地方都市セスター"の一角にルクス・バルディオルの故郷はある。
シエル家の領地であり、ナハス裁判所の"中央都市エディン"からはそれなりに離れており、普通の天使では飛行し続けても2時間ほどはかかる。
──しかし、フィリスは例外である。彼女は並の天使より遥かに速度を上げて飛翔する事が出来るだけでなく、それを維持できる。その為、彼女の速度を
彼女のソレはほぼ瞬間移動と変わらない、至近距離であれば視認すら出来ないだろう…
そんな彼女がルクス家の領地のど真ん中に降り立つ──
そして彼女の視線は、一人の男の天使へと向けられる。どうやら、裁判後に老師と落ち合う予定で外出していたようである…
「フゥ~…到着っと。丁度良かった~…早くしないとディガル君起きちゃうかもだし、君を尋問して吐かせて…後はアデルにとっとと引き継いで終わり…♪」
「お前は…シエル家の最高傑作…そして…"化け物"……到着するまで…いや、今話し始めるまで一切の気配を感じなかった…。老師様は…そうか、裁判で…」
その反応からして…ディガルの盗聴器に録音されていた老師直属の部下といったところだろうか…
──もはや聞き飽きているその"通称"を聞けば、彼女の顔が曇る。
「あー…その呼び方さ、私嫌いなんだよね…まるで私が才能あるみたいな言い方でさ、むしろ私は……」
「はぁ…?熾天使に生まれた時点で…」
とそう言いかけたその言葉を遮るように、フィリスは…
「いつもなら少しは遊ぶんだけど…今日はサッと済ますよ…悪く思わないでね。」
───その台詞を言い終わった頃には、不可視の光の鎖によって縛り上げられ…その天使は一切の行動はおろか…身体を引きちぎられるような痛みと精神的な苦痛によってアッサリと情報を暴露するのであった…。
「やっぱ…こんなのは単なる作業でしかない…ディガル君…後にも先にも私に戦いの楽しさを教えてくれたのは君だけ…」
そう呟くと、フィリスは光に紛れてその地を後にした──
❖
【天界─中央都市エディン─(ソニアの部屋)】
「……で?私の部屋で何をしていたのかしら?」
修羅場?というよりもはやコレは悪いことをしていたらそこに偶然警察が居合わせた…くらいにまずい状況だ。
(いや、でも俺悪くないよな…だって目が覚めたら既にこの部屋に連れてこられてた訳だし…)
というよりフィリスめ…やりおったな……。(多分フィリスはいち早くソニアの気配を察知していたのだろう。)
フィリスに欠点が無いってさっきは言ったものの、一つだけ見つけたかもしれない…俺に対して本心を晒してくれないことだ。
(俺は勿論フィリスの事が好き…というより、このまま一緒に居ることが出来たらな…とか思うものの、フィリスは…どうなんだろうか…実際のとこ、距離感はかなり近付いた気はするものの…うーん…)
いや、欠点とまではいかないし誰しも他者には自分を完全には曝け出さない…ましてや俺はフィリスとは種族の違う悪魔だ。
(悪魔に弱みを曝け出すと、付け込まれるみたいな話とかあるし…そりゃそうなんだけど…)
フィリスの場合は俺がフィリス大好きになるくらいまで好感度をブチ上げさせてから突き落としてくるから……いや、それよりまずは身の潔白を証明しないと俺の印象が…
【好きになった女天使だけでなく、その兄専属のメイド天使にまでワンチャンを狙って手を出そうとする"変態悪魔"】
にされちまう。この先、ソニアとは絶対に仲良くしておかないといけない理由がある!
フィリスが用があるときにソニアにフィリスの予定を聞かなくてはならぬのだ…、仮に今悪印象を抱かれると会うたびにゴミを見るような目で見られる可能性がある!
それだけは絶対に避けなければ……!
「あのですね……ry」
俺は必死に今日起きてからの事を語る。ソニアはひとしきりその話を聴くと…
「あら…なるほど。ディガルはフィリス様の可愛さに骨抜きにされてもて遊ばれたのに、最終的には捨てられたって訳ね。」
「言い方!言い方!」
ん"〜、間違って無い!間違ってないんだけど心が痛い!勘弁してください(汗)
「とにかくもう俺は行きますね?もし今フィーゴが入ってきたら流石に笑えないんで…」
「そうかしら?フィーゴ様は、あなたに相当恩を感じてるから、正直問題無いと思うけれど?」
「ハァ……そうやってまた俺を揶揄おうとか考えてるんですよね、ソニアさん」
「そう……せっかく貴方の"自分の存在についての疑問"に私は答えられる気がするんだけど…そのチャンスを無駄にするのかしら?」
「え……?」
「そもそもフィリス様に私の部屋で貴方を介抱するように言ったのは私だから…♪」
「…じゃあなんで…さも俺がソニアさんの部屋に忍び込んで悪事を働いたみたいな言い方をしたんですか…」
ソニアは、あら?拗ねちゃった?みたいな顔で此方を見ている。
「フフッ…だって、その方が修羅場感を出せて面白いじゃない?」
こやつめ……
マジで天界に来てから色々な天使達から揶揄われまくってる気がするんだが……天使って実は俺がイメージしているより内面の性格腹黒かったりするのか…?
「もしかして…フィリスも共謀犯ですか?」
「あら、フィリス様はああ見えてイタズラ好きよ?ディガルの言いたいことは分かるけど……熾天使ってホントに普段執務とか政務とかで忙しいのよ。許してあげてというよりあなたは許さざるを得ないだろうけど…」
「ぐぬぬ……あー、でも確かに裁判長役とかさせられてたしな…」
「えぇ、それも熾天使の雑務の一つね。だから貴方と会話してるときのフィリス様の顔は多少活き活きしてるように感じるわよ?」
「確かに…前こんなに砕けた会話をするのは久々だって…」
「そういうのも含めて"特異点"なのかもしれないわね。」
「それです、俺が気になってるその"特異点"ってのは結局何なんですか?」
「そのままの意味よ?貴方は天使でも悪魔でもあり…今は悪魔要素多めだから間違いなく悪魔だけど…。悪魔で熾天使の力を持ち合わせる事自体稀なのよ…そうね、1000年に1度くらいかしら。」
「マジ?……確かにフィリスにも"イレギュラーだから私の力の受け皿になれる"と聴いたし、裁判前にソニアさんからもオーラを見れるその目は熾天使の力だって…」
「確かに言ったわ。オーラを見極められる"熾天使の目"は言わば一番最初の段階ね。
そこから熟練度を上げていけば…裁判長だったあのアデルの真実を見極められる力を得たり、フィーゴ様やフィリス様で言えば戦闘時に微細な力の流れや空気の動きを読み取れたりとか…」
「俺も鍛えれば何か上の段階に到達出来るのかも…?」
「さぁ…でも試してみる価値はあると思うわよ?残念ながら私はその目を持ち合わせてないからアドバイスはあまり詳細なものは出来ないわ。」
「……ソニアさんはオーラ的には熾天使のレベルと変わらないのに…」
「イヤミかしら?」
「い、いやいや!事実を言っただけで…」
「ディガル…貴方はもしかしてオーラを見たまま判断してないかしら?一見すると確かに私はフィーゴ様やフィリス様とさほどオーラの強さは変わらないでしょ?」
「はい…」
「でも、そんな訳無いでしょ?天使と熾天使にはそもそも比べ物にならないくらい、加護の力の差があるのよ。つまり…」
「つまり?」
「フィリス様やフィーゴ様は戦闘時にもう一段階……いや、下手したらもう2段階程まだ上がある。詳しい話は直接本人達から聴くといいわ?」
「……熾天使の目についてもフィリスに今度聞いてみるよ…。」
「ええ、それが良いと思うわよ?今聞きたいことは他にあるかしら?」
「俺が1000年に1度の存在なら…前回の特異点は今何してるんだ?」
「……少なくとも今はその役目はディガル、アナタに託された。先代の特異点はもうこの世界には居ないわ」
「亡くなったのか…?」
「………死んではいない…とだけ。」
その言い方的に話しにくい内容なのだろうか。
「話しにくいなら、無理にとは言わないよ…。」
「でもこれだけは言える…ディガルの未来はきっと報われる…とだけ。少なくともフィリス様やフィーゴ様はあなたを気に入った様子だし…」
確かにフィーゴやフィリスから守られていれば俺は死ぬ事はほぼ無いと断言できるだろうけど…
「熾天使から気に入られるってのはその特異点には重要なキーポイントなのか?」
「あくまでかなり前の歴史の話にはなるのだけど、力は確かに強大だったのだけど特異点という立場や力に溺れ…天使、悪魔ともに敵対されて討伐されたっていう話も。」
「うへ……俺も気をつけないと」
「せいぜい頑張ることね。あなたが努力すればきっと悪いようにはならないから…」
「分かった。ありがとう…」
……ソニアとここで話をしたことで俺がこれからどうするかっていう道が薄っすらと見えてきた気がする。
実際俺は今かなり良い状態だ。熾天使達には嫌われている様子はないし…フィーゴやフィリスにも仲良く…やれているはずだ。
それに今俺の身体にはフィリスの加護の力がはたらいているし…ひとまずは俺自身が強くなることに専念しよう。
このフィリスの力が上手く使いこなせる位になれば……
今は揶揄われているがいつかフィリスを守れるようになりたいし…自分の想いも伝えたい。
あ、でも今ソニアに聞きたいことがもう一つ。
「ソニアさん、最後にもう一つ聴いていいですか?」
「ええ、構わないわ?」
「フィリスが本気で戦ってる姿を見たいんだけど…どうしたらいいと思う?」
「ディガル…貴方は面倒な質問をするのね?」
「え?」
「少し考えれば分かる話だけど…フィリス様と今互角に戦える相手は天界に数人いるかいないかよ?」
「それは理解してる…」
「フィリス様が本気で戦うということは、フィリス様自身やディガル、身内達が本当にピンチの時よ。つまり、貴方も生き残るだけで精一杯でそんなこと言ってられないかもね。」
「確かに……(汗)」
「フィリス様と同じ位の力を持った熾天使で言えば…裁判長役だったアデル……勿論フィリス様に教育を施したフィーゴ様、後はディガル君がまだ知らないヴァイス家の先代の熾天使……シエル家先代の熾天使くらいかしら。魔界には…ちょっと分からないわね」
「なるほど…」
「当然だけど、熾天使同士が殺し合いなんてすることは許されてないから熾天使同士で戦うなんてことは本当に稀ね。」
「そうか……」
まぁ…そりゃそうだよな…熾天使同士で戦うことになったら天界はただでは済まなそうだし……それに、御三家のパワーバランスには割とうるさそうなのはあの裁判でもなんとなく理解できる…
諦めるしかないか…
「フフッ…本気で戦うのは無理でも…真面目に戦ってるフィリス様の姿を見て惚れ惚れしたいというのなら…」
「はい…」
惚れ惚れて……確かに目を奪われるだろうけど…
「魔界にいる魔物討伐に行ったらどうかしら?魔界の魔物って上位になってくるとかなり強いのよ」
(……な、何たる偶然…明後日から魔物討伐をフィリスに手伝ってもらう約束したばかりだぞ…)
「はい、ちなみにギルド登録はもう済ましてます。」
「話が早いわね──────」
その後ソニアに、上手くフィリスを討伐に連れて行って、真面目に戦うフィリスの姿を見れるよう作戦を与えてもらった。
俺は、ソニアに感謝すると部屋を後にした。ソニアは作戦が上手くいくと良いわねーなんて笑いながら少しいたずらっぽい笑みを浮かべていて……
やっぱりこの方もめっちゃ可愛いなぁとは思ったが言わないでおいた。
そして結局法廷内でぶっ倒れてから昼間に寝すぎたため、全然眠るに眠れず夜は過ぎていった…。
(明日は何しようか…とにかく散歩でもしながら考えにいくか…)
俺はソニアの部屋を出て廊下をブラブラと歩き始めた────
《18話完》
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