第16話 裁判後①「フィリスとの…」
《16話》
「ごめん…なさい………私は……私はッ…!」
(…ん……誰かが泣いている…?この声は…俺の知ってるいつものフィリスの声とは違うが、間違いなくフィリスのものだ…。だが…何故か喉を酷使したかのように…掠れがかっている…?)
「あなたの命を奪っておきながら……私は、あなたの居ない世界に…希望を見いだせない……」
──身体を動かそうにも、手足はおろかまばたき一つすらかなわない…
(そっか…俺は、情けないことに死んでしまったんだな……実際身体に一切力は入らない訳だし、そのうち意識すら……)
いやいや…ちょっと待て、あの裁判の流れで俺が死んだのはおかしいだろう…そしてフィリスに殺されたというならなおさら…
「私は…こうするしか…無かったはずなのに……ディガル…君…私は…」
(…状況が一切よめないのだが……これは…記憶?フィリスの…?いや、これは俺の…か?)
しかも、フィリスのこの発言についても飛び飛びであり…あまり理解が追いついていない…。
(歪かつこの曖昧さは記憶か…もしくは夢のどちらかだな……)
周りもまるで荒廃した世界のように一面闇が蠢いている感じだ……
「特異点を捨てるよ…今度は、失敗しないように……。君と生きる為に…」
❖
────ル………ガル………ディガ…ル………ディガル君
「……え!……ンン……ッ!!?」
俺は自身の名前を呼ぶ声でハッと目を覚まし、反射的に身体を起こせば…俺の視界には一瞬フィリスの可憐な顔が映った気がしたが突如視界は閉ざされる──
顔には柔らかく、そして程よく弾力のある感触が…
(ん?これってまさか……汗)
俺はその感触に心当たりがあり過ぎた…。
──なぜなら、法廷に入る時…。ミスタ家の魅了攻撃の片鱗を受けてよろめいた"あの"タイミングで身体の後ろに感じた"あの"感触と全く同じだからだ…。
今、俺が胸に顔を埋める形になった瞬間に頭の上で
「ひゃッ……///」
とフィリスが小さく声を上げた気がしたが、そこから数秒間お互いに何も言わずに時間が過ぎる。少しだけフィリスの身体がプルプルと震えているような気もするが…
───俺は(流石にこのままフィリスの胸に顔をうずめたままではまずい)と…
名残惜しくはあるが…顔を離して再び後頭部をフィリスの太ももへと預け…何も無かったかのように目を閉じ
(えっと……コレ事故ではあるのだが…謝るべきか…いや、どうしよコレ)と思考を巡らせる。
フィリスが抵抗するような素振りを全く見せなかったのも悪いかもだが…今更言い訳しても…柔らかさを少し堪能するように顔をうずめてしまっていた時点でもう俺の負けだ。
どうやっても誤魔化しは効かない。
しかし俺の不安をよそにフィリスは俺の肩を後ろから軽く抱き抱えるようにしながら頭を撫でてくる。
(…許されたってこと…なのか?)
────ヤバ…なんだこれ、実は俺はまだ夢の中にいるんじゃないか?天界に来てからホントに良い思いばかりしてる気がするんだが……
(いや、確かにそれに釣り合う位困ったことも起きてるんだけどね…)
そもそも俺は法廷内で疲労でぶっ倒れてからの記憶がない。さっきの夢か記憶かは少なくとも今の俺の状況ではないのは確かだ…
パット見知らない天井に知らない部屋?空間?俺はどれくらい寝ていたんだろうか…
「あのー…フィリス……様」
「どうしたのかな?ディガル君。後…私のこと様付けするなんて初対面以来だね、何かあったのかな?」
フィリスは分かっててわざとこのような言い方をしている気がする。明らかにからかってる時の喋り方だ。
「えっと……この状況は一体…」
「んー…状況はっていうと……それはディガル君が『眠ってる間にうなされてたから呼びかけてみたら、起きた瞬間に私の胸に顔をうずめて堪能してた』さっきまでの状況のこと?」
フィリスは多少早口でまくし立てるように状況を言葉にしていく…
あ、駄目なやつだコレ!やっぱ夢じゃ無かったじゃねーか!詰んだ詰んだ、今フィーゴとか入ってきたらブチギレられるぞ…!
「えっと……いや…その…。俺が法廷内でぶっ倒れてからなぜ今フィリスに膝枕されてるのか、あの後どうなったのか、ここはどこなのか……後フィリスは怒ってないのか…とかが気になる。」
「そうだね〜…一つずつディガル君の要望にお答えして答えてあげよう。」
フフンッ♪とわざとらしく笑うこの美少女天使はまるで小動物のような可愛さを秘めている。しかし…
「あ、でもその前に…私の胸に顔うずめてた感想を聞いておかないと…。」
「……。」
「いや…黙ってないでさ?ほらほら」
誰だよ!許されたのか…?とか勘違いした奴!全然許されてねーわ、いやそりゃ当たり前だよな…!
「……誠に申し訳ございません…でした。」
「うーん…。私は謝罪を求めてる訳じゃなくてさー"感想"だよ?ほらほら、早く早く♪」
「うっ………"最高"……でした。」
「アハハ…よろしい♪…ディガル君ってさー、何と言うか揶揄い甲斐あるんだよねー。悪魔なのに純粋というかさー?……ま、とにかく今の状況を説明するね?」
いや…俺が純粋というよりフィリスのやり方が、天使なのにズルいだけな気も……俺がフィリスにどうしようもなくゾッコンというか逆らえ無いというか…そんな状況をフィリスは気づいているのだろうか──
フィリスは俺に膝枕をした状態で話し始める──
「まずは…ディガル君に謝らなくちゃいけないことがあるんだよね…。」
「謝らなくちゃいけないこと…?」
「うん…まさかディガル君があそこまで私が付与してた力を引き出すとは思わなくて…。あくまでディガル君には私の力の受け皿になってくれるだけで良かったんだけど…」
「確かに裁判の時…身体全体から力が湧き上がって来るような感覚がしたし…フィリスの力がきっと勇気をくれてたんじゃないかって」
「うーん…勿論それはそうなんだけど…。問題はディガル君の悪魔の力と私の熾天使の力が相性が良すぎてってことで…」
「相性が良すぎ…それは駄目なのか?むしろ興ふ……いい事な気が…」
え…一目惚れした相手と力の相性が良すぎるって最高な気がするんだけど。
「今興奮って言おうとした?」
「気のせいです…」
「駄目とは言わないけど…まだディガル君は魔力量があまり多くなくて……言わば"小さい暖炉に大量の薪と最大出力の劫火"を入れてる感じなの…」
「つまり俺の身体に起こった事は、爆発に近いって事…?」
「そういうこと…私もこんな事例は初めてだから…無理させたね、ごめんね…?」
と申し訳無さそうな顔で謝るフィリス…女の子をこんな顔にさせるなんて男として失格だよな。
俺はフィリスを励まそうと
「フィリス…俺は今もこうしてピンピンしてるしそんな申し訳無さそうな顔しなくて良いよ。フィリスこそ極刑なんて言われて大変だった訳だしさ…」
こう言ったら、フィリスは再び先程の揶揄うような顔をして
「ホントに許してくれるの?もしディガル君があの状態で戦おうとかしてたら最悪私の熾天使の力が暴走して"爆発死"してたかもだけど…それに、あの後結構回復かけて今やっと目が覚めたってだけだからね…?」
「……。」
──マジかよ。割と俺がこうしてピンピンしてるの奇跡かも(汗)
「ま、私の熾天使の力はディガル君が出力上げすぎると勝手にセーブかかるんだけどね。だから眠くなったでしょ?」
「あぁ…猛烈に眠かったよ、まるで全身から一気に力が抜けたように…」
「あんまりそれを繰り返すと、起きなくなるかも…なんて……言い忘れてたけどディガル君、裁判終わってからもう10時間近くは経ってるからね。」
「……そんなに寝てたのか…ってことはもう夜だよな…」
相当俺は疲れてたんだな…フィリスの力はやっぱ凄まじいなと…苦笑いして…
「ホント…自分の力が空っぽになるくらいまで私の為に無理して…。」
あれ?フィリスの声が少し掠れて…る?
あぁ──さっきの夢のフィリスの声は、泣いてた時の……
フィリスは少し潤んだような瞳で
「ホントに…ありがとう、ディガル君。」
──俺はこの為に頑張ったんだなと実感した。どこかまだホントにフィリスの力になれたのか疑問だったけど…良かった。
そのまましばし沈黙の時間が流れる。俺も今のこのフィリスの顔を直視するのは心臓がもたない為、軽く目線をそらしながら。
「あ…そういえば裁判、どうなったんだ?」
「既に裁判は終わったよ。全ての元凶だったあのお爺ちゃんは極刑に…他のルクス家の人達は命までは取られなかった。
関わっていた人らはアデルの魔眼で見極められて牢獄送り、そうじゃない人達はまぁ謹慎処分みたいな感じ」
「そっか……」
まぁ…裁判の結果は大方予想通りではあるな……とにかくフィリスを救えさえすれば俺はOKだ。
しかしフィリスは少しモジモジしたような雰囲気であり…膝枕をしてもらっている俺の後頭部にも軽く振動が伝わってくる。
「ん……?フィリス?」
「あ…あのね、ディガル君。この裁判が終わったら何でも一つ言うこと聞くって話だけど…もう決まった?」
(あー……言ってたな確かに…何にするか…正直悪魔の奥底に眠る欲としては…(俺と付き合ってくれとか、俺の女になれとか…最悪なものをいえばヤらせろ)とかもあるが…)
俺の心はもう決まっている。
「決まったよ。フィリス…」
「ん…。」
フィリスが緊張している様子が俺にも伝わってくる。下手すりゃ俺に尊厳を傷つけるようなお願いをされるかもしれないし当然っちゃ当然だよな…。
「俺の中にあるフィリスの熾天使の加護の力…このままにしておいてくれないか?」
「へ?」
「駄目か?」
「いや…駄目じゃないし、ディガル君に与えた力分は私はもう回復してるから全然構わないんだけど…そんなことでいいの?
私としてはディガル君がこれから先も何かあった時用にお願いされなくても残しておけば私がすぐに助けに行けるから残してあげるつもりではあったんだけど……。」
「……マジ?」
「うん…。」
あれ…ならお願い1個分無駄にした説無い?
「あ、ならさ…俺が少なくともフィリスの能力を自由に使いこなせるくらいになるまで…俺の魔物討伐を手伝って欲しいというか…色々稽古つけて欲しいというか…」
うーん…上手く言葉にできない。
「それってさ、ディガル君の…私に対する告白?」
「え?いやそういう訳じゃ…」
「だって私の力を完璧に使いこなせるってことはさ、今の私くらいディガル君が強くなるって事だよね?多分今の魔界に私と張り合うくらいの魔力量を持った悪魔って多分1人か2人いるかいないか位だよ。」
「マジか…」
「つまりはディガル君が超級の魔物討伐士になるまで面倒を見るってことは…"私とずっと一緒にいたい"ってことなのかな?って」
「いやいやいやいや!?そんなつもりじゃ…」
いや、確かにフィリスと付き合えたら絶対最高だけど、今のは不意打ち過ぎるマジで!
「でもごめんね、私としては毎日魔界でディガル君の面倒見れるって訳じゃ無いんだよね…。結構こう見えて熾天使は忙しいし…。そうだねー…空き時間とかでなら見れるかも」
「それで全然構わない!うん!マジで」
「後、今のディガル君には私の熾天使の加護の力が纏ってる訳だから天界には自由に来れるよ。私がいない時にはソニアにでも私の予定確認してくれたら良いよ。」
「え…えっと…とにかく、フィリスはそのお願いはOKってことか?」
「私と一生ずっと一緒にいたいってこと?ディガル君も欲張りだなー?」
「いや、あれはフィリスの勘違いだから!」
いや確かに一緒にいたいって気持ちは間違いないけど…多分フィリスに今言っても茶化されて終わりそうだしな…マジでフィリスにはなんか勝てない気がする。
「ふふーん?まぁ、いいよ?ディガル君が強くなれるよう"教育"してあげる…♪」
うわ…なんかフィリスから教育って言われるとエロく聞こえる…
「ま…まぁ…そんな感じ。よろしくお願い…いたします…。」
「じゃあ、それで決まりね。明日は疲れてるだろうからゆっくり天界散策でもして来るといいよ。明後日から本格的に教えるから。」
「分かった…。」
そういうとフィリスは、頷いて。
「じゃあこの話は一旦おわり。とにかく、ディガル君お腹空いてない?朝食べてから何も食べてないでしょ?何か軽く夜食作ってくるね?」
「ありがとう…助かる。」
とゆっくりと俺の頭を膝からおろして立ち上がると部屋から出ていこうとするフィリス。
俺は起き上がると改めて部屋をグルっと眺め……そしてそこが女の子の部屋であることを悟った。
「これ…もしかしてフィリスの…」
好きな女の子の部屋で俺は…寝てたのか……。
マジで……?
《16話完》
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