第15話 盗聴と裁判の行方

《15話》


※今回多少胸糞描写があります。苦手な方は┈┈┈の部分は飛ばしていただいても構いません…。


ナハス裁判所─法廷内─


俺は実は怒っていた─────この裁判が始まる前、目の前で未だに自分達の正当さを訴えるこの"老害"天使に録音機もとい盗聴器を仕掛けた訳なのだが……


案の定このルクス家というのは、ルクス家の恥さらしこと"バルディオル"が霞む程にロクでも無く腐っているな…と俺は認識した…


(いや、というよりはシエル家が俺に好意的に接してくれることや、アデルやシルヴィアがあからさまに敵対的でないことで俺の感覚が麻痺していたのだろう……)


───本来天使と悪魔は敵対関係、それに加えて天使同士の勢力争い?も勃発している状況で、熾天使は自分達の地位はある程度保証されているがそれ以下の天使達はそうならない訳が無いのかもしれない…


それに自分達が熾天使一族に選ばれなかったという妬みも心の奥底にはあるのかもしれない……


今だから言える。もし仮に極刑になってしまっていたら…俺が一目惚れをした美しい熾天使「フィリス」は本当に穢されてしまっていてもおかしくはなかったのだ───


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 

(以下、ディガルの仕込んだ盗聴器によって録音された"老害"天使の会話)


─ナハス裁判所・2階─ルクス家控室─ 


???:戻られましたか。老師。


老天使:状況はどうじゃ?


???:手筈通りです。バルデの小倅は"儀式の間"に強制的に眠らせて幽閉しておきました。


老天使:ふむ…後は裁判でシエル家の娘を極刑にすれば完了じゃのぅ…。


???:えっと…その後の手順は、熾天使の力が完全に無くなる前に肉体を回収。そして儀式の間に運ぶ…で問題無いでしょうか?


老天使:結構、それで構わん。そうすれば儀式の間では肉体が滅びる事は無い


???:ホント…老師様も悪ですよね……


老天使:フォッフォッ…一族の繁栄の為には誰かが手を汚さないと駄目じゃからのぅ。それがわしじゃった、というだけのこと…


???:それにしても、こんなことしていてバレないんですかね?


老天使:お主はこれが初めてかの?前行なった時は30年も前じゃったしのぅ…バレることはまず無い。


天使族の中で魔界と天界をここまで知り尽くしてる者はおらん。


 それに儂らの一族は長年『亡くなった天使の肉体と魂(ソウル)を分けて神に還す』という神聖な"魂送り"役目を背負っておる。


極刑を受けた天使の肉体の引き渡しは当然の仕事で怪しまれすらせん。


???:何と言うか…惨いやり口ではありますね……


老天使:確かにのぅ…じゃが儂らは手を汚すとは言ったが…実質的に手を下すのはバルデの小倅こせがれじゃ。相伝の能力を持ってないアイツはまぁいわば種馬みたいなモンじゃの、熾天使の肉体に●●出来るなんてむしろ羨ましい程じゃ…フォッフォッ…。


???:それホントに言ってるんです?俺だったら絶対嫌ですね。ご愁傷さま…


老天使:お主は相伝の能力を持っていて良かったのぅ?幽閉されてる間ひたすらさせられるのは苦しいだろうしの。


???:うわ~…もはや拷問。でも極刑を受けた天使って亡くなってるんですよね?儀式の間にって言ってもその…産めなく無いですか?


老天使:儀式の間には特殊な加護が働いていての…。詳しくは分からぬが…儂の5代前の天使が儀式の間を作った時に熾天使の力と融合して肉体だけを蘇らせれるような加護を儀式の間に細工して作ったらしい。


それが今まで活きてるって訳じゃな。まぁたまに魂がまだ残っていて絶望を植え付けられるという話じゃが…どちらにせよ極刑になった天使の肉体など多少好きに扱っても罰は当たらん。


それに、熾天使の肉体から産まれたガキは強力な力を得る。勿論これはルクス家だけでなく天使の全体的な反映につながるじゃろう。


御三家共に一矢報いるのであればこれが最適解という訳じゃな……フォフォフォ!


ま…とにかくその後の話は、裁判が確定してからで良いの。


???:でも裁判で絶対勝てる方法なんてあります?


老天使:簡単な話じゃ。まずはあのシエルの娘がバルデの小倅に暴行をはたらいてボロボロにしたという証拠と、そこにいた悪魔とシエルの娘の兄が話をしている証拠を撮影すれば…協働して小倅を殺害したという証拠はいくらでも捏造できる。


それに悪魔の証言なぞ仮にアデルのガキが裁判長なら信用しないしない。フォッフォッフォッ…


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


俺は目の前の老害天使が好き勝手喚き散らした瞬間に立ち上がる。


───正直この証拠を突き出せば俺も証拠をでっち上げたなどと言われてしまうかもしれない、覆せなければフィリスを助けることは出来ても俺は二度と天界には来られないかもしれないし最悪俺が極刑になるかもしれない…


そんな考えがよぎった時、身体の中が熱く燃えるような…腹の底から力が湧き上がるような感覚がし始めた───


これは──フィリスの力が俺に勇気を与えてくれているのだろうか。俺の左側の白い翼が今にも燃え上がりそうなレベルで光を纏っている。


今の自分を他者から見たら熾天使の加護マシマシ状態なんだろな…そして"怒り"俺の…フィリスの今の怒りをまるで体現しているかのように……


(法廷内は能力が使えないはず…なんだよな…これは時間差で発動させたのか、それともフィリスがそれを解除したのか……いや、出来るのか…?)


フィリスの方に視線を向けると…


「……ディガル君。君なら大丈夫だよ。私を…助けて…」


と口パクで言ったあと優しく微笑みかけてくる。


フィリスがまるで耳元で囁いてきたレベルで今の口パクは何を言ったか理解できたのは今の俺にフィリスの力が最大限身体に馴染んでいる証拠なのだろうか……


さぁ!準備は整った──!!


俺の雰囲気が変わった事で法廷内に独特の緊張感が漂う。シルヴィアは感心するような目で、アデルは「ほぉ……?」と、驚きと好奇の目で見つめてくる……。


逆に対面した老天使は言葉では何やらこちらを威圧しているようだが、全く耳に入らない。額に冷や汗を浮かべて明らかに動揺していて…。


「そろそろ言葉を慎めよ。"老害"」


今の発言は俺の口から出ているのだが、考えるより先に声が出てくる。フィリスの力が完全にサポートしてくれている気配がする。


勿論老害と呼ばれた老天使は怒り狂ったような顔に変貌するとこちらに詰め寄ろうとしたが…謎の見えない壁で老天使は弾かれる。


アデルが

「当然…裁判では危害を与える能力の行使、及び証言の阻害をすることは許されない。」


と毅然とした態度でここぞとばかりに裁判長じみた発言をする。勿論法廷内では能力は元から使えないのだが、裁判長には我を失ったものを止めるという義務があるからな。この透明の壁は元から法廷内に備わった機能だろうか…。


(なんとも情けない醜態だな…)


ならば俺は遠慮なくと続ける。


「俺はあんたの企みに気づいている。」


「なんの話じゃ。何を根拠にそんな事を言っておる!」


「しらばっくれても無駄だ、ここに証拠はある。」


俺は録音機…もとい盗聴器をポケットから取り出す。


「ここにはあんたが部下とこの裁判が終わった後に、フィリスをどうするか、他にもあんたらがバルディオルをどこに隠したか──という会話全てが入っている。」


「巫山戯た事を……悪魔の分際で調子に乗るといくら熾天使の加護があるとはいえ痛い目に………!?」



俺は録音機の音量を最大にし、先程の部分の再生を始める。


ッ…ツツ……というノイズが入った後に、老天使の会話が流れ始める──


「あ……あぁ……何故じゃ…、法廷内の控室には盗聴器等は無いと完全に確認したはず…そんな訳は…!」


と老天使は青ざめたような顔で自分が発言した内容を思い出すかのように聞いていて…


再生が続けられていくと順に関係がある天使達が明らかに怒りを露わにし始めて…


先ずは、アデルだ。

アデルは先程言っていたようになんだかんだバルディオルのことを学園の同級生としては気にいっていた様子であり…。


よくわからないルクス家の策略にバルディオルを巻き込んだ事に相当不満な様子だ。


次に露骨に殺意を込めた目で老天使を睨みつけているのはフィーゴだ。フィーゴにシスコンと言ったら叱られそうだが、フィリスの事を本当に大事に大事に育ててきているのだろう…


今回の件でも元々納得していなかったはずだ。更に極刑になっていれば妹には災厄が差し迫っていた事…裁判所前で老天使に挑発されていた事等…その怒りは相当だ…


───この録音機の再生が終わると、法廷内は一瞬の静寂の後、傍聴席に居たうちの一人が…


「ふざけやがってこのクソ爺がぁー!!」


と声を荒らげた瞬間、法廷内は罵詈雑言の嵐となる。老天使の行いに"天使の恥"だの、"アンタらルクス家は死を冒涜した"だの批判が収まらない。


しかし、アデルがカベルを打ち付け「静粛に」と言うと再び傍聴席は静まり返る。


(…おぉ…やっぱりそれカッコイイ。それやるの憧れるよな……というのは置いといて…)


「この録音が捏造じゃないという証拠はお前だよ、老師様とやら。あんたのフードの中に俺はこの片方を忍ばせたんだ。あんたはフィーゴを挑発して機嫌が良くて気づいていなかったがな?」


「そ……そんな事が………何かの間違いじゃ……儂がそんな失態をする訳が…」

 

もはや信じられぬとへたり込む老天使に向けてフィーゴがほれ見たことかと先程のこともあったのだろう、明らかに挑発と見られる発言をする。


「貴様は、初歩の初歩に引っ掛かったという訳だ。散々愚弄したその悪魔の証人にしてやられたな。妹を辱めようとした罰が当たった訳だ。」


おぉ…ちょっと威厳あるけどまるで俺が罰みたいじゃんその言い方、変に凄い悪魔じゃないか…みたいな視線が痛い


「これで確定だな。んで?どう落とし前付けるんだァ?しかもこれがまさか初犯じゃねェとはなァ?」


とアデルがルクス家側に射抜くような鋭い眼光を向け


しかしルクス家はそもそも老天使の策略を知っているものと知らないものとで反応はまちまちであり……特にルクス家の最前席に座っている女天使は全く知らされていなかったのだろう。


口元を手で押さえて嗚咽をしながら未だに衝撃が隠せていない様子だ…。


しかし首謀者の老天使を始め、関わっていたであろう天使は明らかに不愉快そうな納得いかないような表情をしている。


アデルの瞳はその反応を見逃さない


「なるほど…明らかに反応が違えな。よーく分かった。まずは見せしめだ、当然"老害"お前からだ。」


そう言うとアデルはフィリスの方を向いて


「おいおいフィリスさんよォ?コイツらは極刑を受けた天使だとはいえ、過去に似たような事例の時に熾天使の尊厳を傷つけ…複数回繰り返していたらしいぜ?


学園で常に1位を取り続け、将来を期待されたシエル家のお前がそれをされれば熾天使には大きな痛手となる。勿論許せねぇよなァ?コレは天界における立派な反逆罪だ。」


あ、これ多分言い方は非常に雑だけど罪状を読み上げてる感じだな。めちゃくちゃヤンキーというか不良感満載ではあるが…


アデルは更に続ける


「んで?学園時代の友人が勝手に殺されたことになり、罪の片棒を握らせられそうになったっていうのにも俺は納得いってねぇ、しかも同族殺しの極刑のでっち上げは重罪だァ…。」


裁判長らしからぬというか、多分天界では熾天使が圧倒的に権力が強い為…私情を挟みまくりでも許されるんだろな。実際間違ったことは言ってない訳だしな…


「今ここで即刻俺はこの件の判決を言い渡す。」


法廷内に一気に緊張感が走り、もう言われる前から刑は確定だろうと察しているこの件に関与した天使は下を向き……知らされてすらいなかったルクス家の天使達も罪は避けられないと涙を流すものもいるが…。


「まずは───────」


あぁ……やっと裁判が終わる……。俺のやるべき事は終わったな…と思った瞬間さっきから眠気が凄い……アデルの判決を聞いているのにもはやそれが呪文のように聞こえて……。


というよりフィリスの力は俺にとっては大きすぎて疲労が凄まじいんだろうな……ハハ、とにかく今はもう立っていられない……。


遠くでフィリスが「ありがとう…ディガル君……」と言ったような気がしたまま俺の意識は闇へと落ちていった─────


《15話完》

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