第13話 ヴァイス・アデルの推察

《13話》


ナハス裁判所 法廷内 時刻12:20


「だいたいこんな"くだらねぇ"裁判して何になんだ?結果決まってんだろうが…」


法廷内に入って早々、そんな事を口走るアデルに俺は驚きすぎて、言葉を失っていた…


遅刻してくるんだからまさかロクでも無い奴なんじゃ…とは一瞬思ったのだが……


まさか一応同族殺し関連の裁判をしょうもねーと一蹴すんのかよ…と驚きが隠せない。フィリスはそれに対し、露骨にやれやれ…という表情で


「はぁ…20分も遅刻して謝りでもするのかと思いきや。ホント、あの頃(学園の時)から変わんないね?"万年2番手"のアデル君…。嘘でもそこは役目くらいは果たそう!みたいなの無いのかなー?そんなだから私に勝てずずっと2番手だったんじゃない?」


と、軽く皮肉を込めた返しをする…


すると即刻アデルは


「おい、その呼び方は何度もやめろと言ったはずだ。次言ったらいくらお前でも痛い目にあうぞ…?」


と強烈な圧を込めた目線をフィリスに向ける。


「学園時代に私に一度も勝てなかったから2番手なのに痛い目も何もね〜。」


と圧を向けられても怯むどころか煽るのをやめないフィリスであり…


法廷にいる天使達のほとんどがこの二人の言い争いをなんとかしてくれという雰囲気であるものの、実際止めれるものはフィーゴとシルヴィアくらいのものだろう。


(俺自身もなんか蚊帳の外過ぎるし、ルクス家の天使ら顔引き攣ってんぞ…おまけにこんなのが裁判長とか大丈夫なのか……?)


「その辺にしておけ、フィリス。向こうが悪いのは事実だが…法廷内だ。」 


とフィーゴが制止する。


(やっぱアンタ出来た兄だよ…!グッジョブフィーゴ)


「はいはい、分かってるよ兄。んで、アデル。既に20分も遅刻してるんだからさっさと裁判始めて欲しいんだけど…」


とさっきまでの言い争いを感じさせない程の真面目な表情でアデルを見つめる。


しかしアデルからは俺達シエル家側からすれば最初から疑惑だった部分の核心をつくような発言がされる


「お前なぁ…コロコロ態度変わり過ぎだろうが……!ったく…聞いてなかったのかよ、俺は裁判する必要すらねぇつったろ」


(あ…確かに言ってたな…さらっと受け流してたわ…)


「そもそもルクス家さんよぉ?あんたら…俺の"駒"消しただろ。」


この発言に対して明らかな動揺した雰囲気がルクス家一行に流れる…


ルクス家の当主である厳つい顔の男天使が口を開き、ドスの利いた低い声で


「何が言いたいのだね。先程の発言も含めいくら"古豪"のヴァイス家でも若造が図に乗るのも大概にして貰いたいものだ…。」


とアデルの方に圧をかけるように睨みを効かせるが…


「分かってねぇなァ~?俺は裏を取った上で言ってんだぜ?」


とわざとらしくカマをかけるように、「あくまで優位は俺である」と譲る様子はアデルにもない。


引き続きアデルは自分の好き勝手に話を続行する…


一応はルクス家の方が被害者というか…原告というかなんだが…今の状況はさしずめルクス家側がアデルの尋問を受けている状況である──


(熾天使からの尋問とか天使からすりゃ生きた心地しないだろな…)


「ま、これから話す内容を聞いて違う事があれば言えばいい。まずは、一応アンタらの次期当主候補"バルディオル"だが…アイツはそもそもアンタら親より俺に従順だ」


「ルクス家相伝の力を持ち合わせてなく、親から大して愛を受けていなかったアイツに学園時代、熾天使の加護を宿し肉体強化出来るよう教えてやったのは誰だったかアンタらは理解してねーのか?」


その発言を受け、明らかにバルディオルの両親であろう最前列に座っている二人の顔が曇ったように見えた…


フィリスはその事を知っているのだろう、軽く頷いている。


俺がアイツ(ファヴニアル)に殴られた時にただ殴られただけなはずなのに腹に灼熱感を感じたのは少ないながらも熾天使の加護が作用していたからだろうか…


(いや…ちょい待ち、つまりアデルとフィリスとバルディオルは同じ学園で同級生なのか…。なんか羨ましいかも…だが初対面の時、バルディオルへの対応はそんな雰囲気無かったよな…つまりフィリスは公私混同しないタイプなのかもな…)


「んで、実際あん時も俺に泣きついて来やがったからな…」


「あん時というと、もしかしてフィリスにコテンパンにされてたあの後か…?………あ。」


つい要らないことを口に出してしまった。証言者が話すタイミングではなかった事もあり、一気に俺に視線が注がれる。ヤバ…やらかしたと思ったが、アデルは構わず続ける


「そのとおりだ、そこの悪魔もどき。"重要な証人"とか言われてフィリスから呼ばれたんだろ?なら好きに話せ、お前が見た時フィリスは光の鎖以外に何か能力を使っていたように感じるか?」


お…もしかしてフォローしてくれた…?なら遠慮をする必要は無いか…。


「俺はフィリスの能力を全て知ってる訳じゃないから絶対とは言わないけど光の鎖以外にはあの時使っていなかったはず…。しかも俺が許してあげるように言った時、フィリスはその鎖を解いていた。」


「本当だったら、ディガル君が止めなければ…私は彼の事を許さず息の根を止めていたと思うんだけどね?勿論、私は彼がアデルの舎弟なのは知ってた。仮にそれが原因でアデル、あなたと対立しようとも…ね」


──フィリスはうっすら笑みを浮かべているが、その美しい碧い瞳には光が無い。


まさに、嘘偽りなくバルディオルの命を刈り取っていたという発言にも確証が持てる…


「ほぉ…そこまで言うなら嘘じゃねぇだろうな、熾天使御三家が対立するというのが天界にどんな影響を与えるか…お互い分かっていない訳がねぇ…」


「ま…仮にフィリスが時間差で発動するミスタがよく使う趣味悪ィ能力を植え付けてやがったなら俺と会ったタイミングで気づかないはずがねぇ」


とアデルが趣味が悪いという発言をしたタイミングで傍聴席に居たシルヴィアが明らかに不満げな顔をした気がするが…アデルは構わず続ける。


(というよりアチコチにコイツは喧嘩売り過ぎだろ(苦笑)とは思うものの…持っていき方が非常に上手いんだよな、まるで将棋みたく的確に詰ませようとしてる感じだ。)


「つまりだ、アンタらは俺と出会った後のバルディオルを半殺しにしたか幽閉したかは知らねーが、死んではねぇものの気配すら感じられねぇ状況にした」


「そして、バルディオルの行動を監視させていた奴からフィリスとそこの悪魔もどきが居たことを聞き、フィリスが悪魔と協働して同族殺しをしたと罪をでっちあげたって訳だ。何故それをしたかの本来の目的は分からねぇがな…」


ルクス家の当主の厳つい顔をした天使は、その発言を聞いて明らかに動揺したようなオーラを放ちだしている。


(これは…かなり怪しいな。限りなく黒って感じだ…)


俺は、このアデルの推察について純粋に上手いと思いながらも一つ疑問に思うことがあった。


先程からミスタ家やヴァイス家もだが…到底敵対してる勢力であるとは思えない程友好的というか…


(いや、友好的と言えば語弊がある…)


お互いにそれなりに御三家として実力を認めてるからこその、リスペクトみたいなのが最低限あるのかもしれない…


何にしろフィリスの無罪はもう9割以上確定な気がする。


───後は最終的に自分が手に入れたあのをいつ出してやるか…だな。


(あの老害天使のフードに入れておいたアレは上手く機能したようだ。)


《13話完》

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