第10話 ミスタ家の狙い
《10話》
【ナハス裁判所─法廷前─】
フィリスとの《契約》を交わし終わった俺は、フィリスに続き1階へと降りる。
そこではすでにソニアとフィーゴが法廷の扉の前で待っていた。
「フィリスその用ってのは済んだか?」
「勿論"完璧"だよ?まさかここまですんなり上手くいくとは思わななかったけどねぇー…ね、ディガル君♪」
とフィリスは俺に目配せをしてくる。ん"ー…やっぱりこの可愛さは卑怯だ…
「フィリス様も面白い事を考えますね。ですが、少し詰めが甘いですよ?私達にバレないよう熾天使の加護の力が馴染むまで後3分位は待った方が良かったのでは…?フフッ…♪」
え?もしかして、いまさっきの"契約"の話二人にバレてる…?
「どちらにしろ二人とも私の熾天使の力の変化で分かったでしょ、だから隠す必要無し。」
フィリスはさも当然のように答える。
(ちょい…フィリス。さっき明らかに二人の内緒♪みたいな雰囲気だったじゃん!?)
ソニアとフィーゴは妙にニヤニヤしてるしマジでこの3人になんか勝てる気が全くしない…フィリスには掌の上で踊らされてるような感覚にさせられるし。
俺は軽くため息をついて照れているのをバレないようにと、3人より先に法廷に入ろうと扉に手をかける──
─────ッ…!またこの感覚だ…心の中まで見透かして力をこそぎ落とされたような感覚、今回はまだ誰とも目が合っていない状態で…だ。
俺は再び力が抜けたように動けなくなり、視界がぐらついて足元がおぼつかない。しかし後ろから…
「ねぇ、ディガル君大丈夫?もしかしてまだ力が馴染みきってない……?」
というフィリスの声で我にかえる。気づけば俺はフィリスの胸前に抱かれていた。
俺がフラついたのをフィリス軽く抱きとめてくれていたらしい…
背中に心地良い感触が……おっと、あまりにご褒美過ぎて逆にまずい、鼻血が出そう。
それを見て後ろからソニアが
「上手くフィリス様の方に倒れかかるなんて実は狙ってたりして……。ただ今のは明らかに不自然な力の抜け方というか揺らぎを感じましたね。大丈夫?ディガル」
と揶揄い半分ながら声を掛けてくる…
やっぱりこの感覚普通…じゃないよな。話すべきなのだろうか。
確信は持てないけど、何かヒントになることはあるかもしれない、俺よりは絶対詳しいだろうから聞いてみるか……。
「なぁ、3人とも…少し聞いてもいいか…?さっきフィーゴとここに来る移動中にも同じ感覚がして力がごっそり削られて抵抗できない感覚?みたいなのがしたんだけど……遠距離から精神攻撃というか相手の力をこそぎ落とすような事が出来るような天使は居たりするか?」
俺の質問に対して、3人…いや特にフィリスとフィーゴの顔が多少真剣なものになる。それは俺がフラついてフィリスの胸元に倒れかかったのを見てうっすらと笑っていた顔から一変して熾天使の威厳を感じさせるような程であり…
「ねぇ兄さん。私の記憶が間違ってなければ…さっき私が解除したのも今回のも」
「あぁ、その可能性は高い。やはりミスタ家の狙いはフィリスだけじゃなく、ディガル君も…と考えるのが正しいかもな」
おいおい…さっきのアレ、やっぱり何かしらの干渉で合ってたのか。法廷内では相手を攻撃する能力は使えないって話だし、証言の最中に攻撃されるって事は流石に無いと思いたいけど…
「私達はディガル君が証言してる時にミスタ家が何かしないかは最大限警戒する必要がありそうね。まだホントに関与しているかは決まってはいないけど…」
とソニアが言うのを聞いたあと俺はミスタ家についての情報を聞き出すのも含め聞いてみる。
「俺を守ってくれるっていうのは凄くありがたい話なんだけど、3人ともそのミスタ家の攻撃?みたいなのから自分の身を守りながら俺を庇う余裕なんてあるのか……?あと、法廷内は能力使えないんだし…」
するとすかさずフィリスが
「あー!やっぱりディガル君、私らの力信用してないなー?仮に精神攻撃みたいな事をされても私はそういうの効かないから、証言前後も含めてディガル君を守ること優先でいくから安心していいよ。」
と大船に乗ったつもりでいいよー♪なんて言ってくる。それにつけ加えてフィーゴが
「ディガル君が心配しているミスタ家の能力についてだが、"魅了"に近い能力と言える。」
「魅了……相手を虜にして、都合よく操ろうみたいなそれですか?」
それって所謂色仕掛けとか誘惑を意図的に発生させる感じか…かなり強くない?
「そうだな…ミスタ家の熾天使自体の戦闘力はシエル家の天使には及ばない。魅了の能力の効果は自分達より強い天使には効果が激減されるからな…つまり俺やフィリスにはあまり効果は薄いけど、ミスタ家より力の弱い天使達や悪魔には絶大な効果がある。下を支配するには凄まじく向いた能力と言えるだろうな…」
それってつまり俺はその魅了にあてられるとまずいんじゃないかって話だよな……!
すると更にソニアが話し出す。
「フィーゴ様が言われたように、下を支配するのは勿論のこと…ミスタ家の魅了の厄介な点は、一度完全に"魅了"されると逆らう事が非常に困難な事と、遠距離からのステルス性よ。遠距離から攻撃で食らった本人にも自覚症状がないまま魅了され、いつの間にかミスタ家の手駒って訳」
なんか無茶苦茶卑怯戦術だなそれ…。
「なるほど…つまり、もしさっき扉に触ったことで魅了が完全に発動したなら…」
「今頃ディガル君はミスタ家の実質的な操り人形。私達に歯向かったかもしれないわね…」
「でも、法廷内では相手に危害を与える能力は使えないんだよな…?」
そう俺が聴いてみると、フィーゴが
「ミスタ家の能力の厄介さはソニアが言った2つ以外にも、例えば法廷の外の時点でバレないように"魅了"を植え付けておけば時間差でそれを法廷内で発動させる事が出来る点だ。発動前では魅了されている事に気付かない場合もある。」
「嘘…だろ?なら俺が今魅了されてるかフィーゴ達にも分からないってことか?」
俺が困ったように聞くと、フィリスが待ってましたとばかりに口を開く
「私達を信用してって言ったでしょ?その為の"契約"♪今のディガル君の"半分"には私の力が覆ってる。ミスタ家の魅了を仮に植え付けられても私の熾天使の力で無効化できるし魅了されてるかどうかはすぐ分かるよ」
さっき一瞬で解除したの見たでしょ?と笑いながらフィリスは更に
「それに仮に私の力が覆ってない半分を魅了されても、ディガル君が私の姿をイメージすれば魅了を防ぎきれる。つまり、ディガル君には今2重の防御策が準備されてるって訳…♪」
「お……おぉ…。」
俺はもはやそう反応するしかなかった。まさか、フィリスがそこまで考慮して俺にあの契約を持ちかけたとするならフィリスは何手先までこの状況を読んでるんだろうか…。
もはやミスタ家やら自分の存在の謎よりも今隣で誇らしげな顔をする美しく可愛らしい天使について俺はもっと知っておく必要があるのではと感じるしかなかった──
俺はフィリスの話を聞き多少安心することができた。
(契約もしたし、もし何か不慮の事態が起きてもきっとなんとかなる…)
そういう希望を持って裁判に挑めるというのはやはり大きい。
──俺達はお互いの顔を見合わせ、同じ〈勝つ〉という意志を持ちながら頷く。今4人は法廷内へと足を踏み入れた──
《10話完》
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