第6話 脳筋が動画作成に参加する話。




 ──2020年8月12日、東京都立本郷中学校敷地内。


 部室内は土足禁止の造りのため愛犬の足を洗ってから中に入ると、そこにはすでに到着済みのまどかちゃんが妹と戯れていた。


「梨花もおっす。これ初回の台本な」

「うん、おはよう。……へぇ? 意外と難しいことは書いてないんだね? わたし台本ってもっと台詞でビッシリ埋まってるんだと思った」

「素人のやる寸劇なんてだいたいこんな流れでヨロシクでいいんだよ。それに梨花の場合、こっちが台詞を書いたって憶えらんねぇだろ?」


 そりゃそうかと、特に後半部分に深く同意する。

 頭を使いすぎて睡魔に抗えなかった昨夜の失敗を繰り返すのもなんだし、途中のコンビニで甘い物を大量に買い込んできたけど……これなら脊髄反射アドリブで何とかなりそうだ。

 まぁいい。どっちにしろ脳の負担が減るのは有り難いし、買ってきたお菓子もみんなに食べてもらえば無駄にはならないだろう。


「お前らも久しぶしだな。何だよ、そんなに嬉しそうにしやがって……もしかしてアタシのことを憶えてんのか? だとしたら梨花よりよっぽど、わわっ、急に飛びかかって顔を舐めんな! まったく、仕方のねぇヤツらだな!?」


 そして我が家の愛犬──ラブラドール・レトリーバーのガイア。サモエドのマッシュ。シベリアン・ハスキーのオルテガがまどかちゃんに甘えるのを微笑ましく見ていたら、今度は浮かない顔付きの妹に「お姉ちゃん、お願いだから馬鹿なことはやめて?」とお願いされた。どうやら何か誤解があるらしい。


「あのね、お姉ちゃん……VTuberブイチューバーには柔道みたいに世界一を決める大会があるわけじゃないし、VTuberを物理的に倒せばVTuberになれるシステムじゃないんだよ? お願いだからVTuberになりたいんだったらもっと一般社会に適応して!?」


 いや、これは思った以上に誤解されてる気がしたけど、わたしは何も言えなかった。

 流石のわたしもそんなシステムじゃないことくらいは知ってるつもりなんだが、アポ無しでエルミタージュに突撃したり色々と前科があるからね。妹が誤解するのも無理はないのだ。

 なのでわたしは妹の誤解を解こうとそれなりに頑張ったのだが、どう見ても旗色は悪かった。


「大丈夫だよ。わたしも『ぶい⭐︎ちゅう部』の実績を手土産にエルミタージュがウンと言うまで粘る気はないから」

「ほらっ、その発想の時点でもうアウトだよ! お姉ちゃんってホンット脳筋ゴリ押し戦法が大好きだよね!」

「いやぁ、それほどでも……」

「褒めてないからね!? しかもこの時期に脳筋ゴリ押しでこんな部まで作っちゃってさぁ……百歩譲ってお姉ちゃんがVTuberになった気になれるんだったら作った意味もあるけど、そんな自己満足にまどか先輩を巻き込んで申し訳ないと思わないの? お姉ちゃんの貴重極まりない友人なんでしょ?」


 ここでまどかちゃんが「そんなことないよ」って言ってくれたら助かったんだけど、本人は三色の毛皮から健康的な手足を覗かせるのみ。

 これは万事休すか? と最後の切り札である土下座に縋ろうとしたタイミングで、玄関脇の階段からなつきさんが降りてきてくれた。


「それは私から説明しよう。たしか梨花の妹の沙耶だったな?」

「あ、はい……お久しぶりです、椎名先輩」

「なつきでいい。実は梨花が『ぶい⭐︎ちゅう部』を設立したのは──」


 突然の登場に驚いて慌てて挨拶する妹に、なつきさんは以前の話し合いで纏まった計画を要領よく説明し、ホッと一息ついたわたしは段ボールの中身を室内に飾りつけていった。途中で何度かこっちを見た沙耶の視線が痛々しかったのは、たぶん気の所為だろう。


「……というワケで、これは私たちにも十分な利のある話だ。よって沙耶が気苦労を溜め込むことはない」

「わかりました。そういうコトでしたらお姉ちゃんをよろしくお願いします。なんか押し付けちゃったみたいで申し訳ないですけど……」

「気にするな。梨花対策は人類共通の悲願。宇宙意識代行者である私にとっても他人事ではない。……ところで梨花はなぜ沙耶を巻き込んだ?」

「ん? もちろんマネージャーをやってもらうためだよ」


 なんか沙耶も納得してくれてわたしも関係ありそうな話になったので答えると、特製のポスターを貼り終えたの上から降り立った。


「梨花。分かっていると思うが人目のあるところで昆虫のように壁を移動するな」

「そっちのほうが楽なんだもん」

「ううん。それもあるけどマネージャーって何よ?」

「そりゃ部活動を始めるなら後輩の女子マネは必須でしょ? それにわたしはVTuberになるんだもん。沙耶にはお姉ちゃんの専属マネージャーをやってもらわないとね」

「えっ、お姉ちゃんマネージャーいないの? あんなに色々やってるのに?」


 沙耶という色々というのは本業の柔道のことではなく、副業のCMや広告などの収録を管理するマネちゃんのことだろう。たぶん。


「いないよー。先方には収録の当日一時間前に電話をくれるように言ってあるからね。都内のスタジオで収録するならそれで間に合うって寸法よ。無論ダッシュで」

「……分かった。あたしお姉ちゃんのマネージャーやるわ」

「それがいい。それに沙耶の入部はこちらとしても助かる」


 二人ともわたしの説明に納得してくれたが、なつきさんが口にした「助かる」とはどういう意味だろうか?

 パシリとか雑用をさせる気かなというわたしの邪推は、しかし外れた。


「私たちは漫然とした部活の様子を動画に纏めるつもりだったが、沙耶がいるなら司会を担当してもらえないだろうか? そのほうが話がとっ散らかずに引き締まると思うが、まどかはどう思う?」

「いいと思うぜ。そういうコトならパパッと台本を書き直すか」


 なるほど、インタビュー形式か。

 そのアイデアは以前にもあり、わたしがやると強く要望したんだけど「梨花には無理」の一言で却下されちゃったんだよね。全会一致で。

 沙耶はわたしに似て美人だし、頭もいいから素質は十分。わたしの無念を晴らしてくれるならこちらとしても有り難い。


「司会ですか……あたしあんまり自信ないですけど……」

「ま、その辺は気にするなよ。所詮は素人の動画だ。視聴者もプロの手際なんざ求めてねぇし、梨花のツッコミを押し付けられた程度の気でいりゃ十分だよ」

「……わかりました。あたしでよければ頑張ります」


 まどかちゃんも毛皮の間から顔を出して助言し、そうして今後の調整も纏まった頃に玄関先が騒がしくなった。


「おいっす。……なんだよ梨花、沙耶ちゃんまで巻き込んだのかよ」

「なんだぉ? めちゃんこ可愛い女の子がいるぉ」

「シッ! あの子は梨花さんの妹さんですから、手を出したらその時点で死亡が確定しますよ」


 なんか三馬鹿どもが登場するなり気になることを言ってきたが、わたしは上機嫌なので取り合わなかった。


「さっ! それじゃみんな準備準備!! わたしたちのぶい⭐︎ちゅう部を始めるよ!?」


 わたしの号令に健太郎が「へいへい」とやる気のない返事をしたけど、そんなことで熱く燃え盛る心は萎えない。

 一足先に二階の飾り付けも済ませる頃にはみんなも上がってきて、記念すべき初回配信の収録が始まるのだった。




「こんにちは、柔道の小嵐梨花です」

「初めまして、妹の沙耶です」

「さて、本日の動画ですが、残念ながら柔道の話ではありません。この部屋を見てもらえれば判ると思うんですけど、実はわたしVTuberが大好きで! なかでもエルミタージュの木漏れ日莉音こもれびりおんちゃんと星海玲央ほしうみれおちゃんの大ファンで!!」

「うん、知ってた」


 ザッとリオ&レオグッズを満遍なく配置した室内を紹介すると妹がかなり疲れた声を出したが、わたしときたら相変わらず元気いっぱいだった。


「なのでわたしもVTuberになりたいと思って、母校の中学校にVTuber専門養成部、通称『ぶい⭐︎ちゅう部』を設立しまして……あっ、今は発音しなかったけど、ぶいとちゅうの間に星が挟まってるから?」

「うん、どうでもいいアドリブをありがとう。……でもね、お姉ちゃん。脊髄反射でそんなことを言わなくても、この動画を見てくれてる人はサムネイルのタイトルから十分に察してるからね」


 むぅ……大事なコトだから咄嗟に説明したのに、妹のジト目はなかなか変わってくれない。


「とりあえずお姉ちゃんがVTuberになりたいのと、そのためにぶい⭐︎ちゅう部を設立したのは分かったよ。でも具体的にどうやってVTuberになるつもりなの?」

「そりゃ部員のみんなにパパッとわたしのガワを用意してもらって、YourTubeでササッと配信したらわたしもVTuberよ」

「うん、お姉ちゃんの頭の中身がその程度なのも知ってたよ。……それでは次にこんなお姉ちゃんの思いつきに巻き込まれた不幸な犠牲者から一言いただきましょうか」


 最後までジト目とため息の目立った妹は、もうわたしには用がないとばかりに昼寝をする愛犬の間を縫って健太郎のところに向かった。


「えー、それでは顔出しはともかく実名は勘弁してくれというコトなのであだ名で呼ばせてもらいますが……や◯ない夫さん、まずは自己紹介からどうぞ」

「ああ、あだ名って小学生時代のね……」


 そうして妹がマイクを向けると、自分のパソコンで作業中だった健太郎は軽く絶望した表情になった。

 その後ろで「プッ、や◯ない夫だってぉ」「シッ、聞こえますよ」なんて会話もあったが、君らも同じ扱いだからね?


「あー、とりあえず昔のあだ名はともかく、俺は全体の進捗を管理するプロデューサーみたいな立ち位置だな。何しろ素人が全部自作でVTuberを始めようっていうんだから、何が必要になるか想像も付かない。そういうときに必要なものを調べて用意するのが俺の役割かな?」

「すみません、お姉ちゃんには帰ったらきちんと言っときますから……」

「いや、構わないよ? 梨花アイツの思い付きにしちゃまともなほうだし、俺も乗っかる価値があると思ったからこうしてるんだ。……何しろ梨花ときたら同業他社を全部潰して、それをもって自分をエルミタージュで採用しろくらいは普通にやりがちだったからさ」

「……すみません。ここはカットしてもらっていいですか?」

「ああ、梨花のことで愚痴っちゃってごめんね。そういうワケで俺はいま、梨花のガワを動かすのに必要なLive2Aってソフトの仕様を理解するので忙しいんだ。あとで原画担当にも説明してやらんと……」

「すみません、よろしくお願いします。……以上、苦労人のや◯ない夫さんでした」


 一人目のインビューは終わったけど、健太郎が苦労人ねぇ……?


「なんか沙耶ってさ、お姉ちゃんには常時塩対応なのに、や◯ない夫には異常に甘くない? もしかしてだけど好きだったりとか?」

「馬鹿言わないで? お姉ちゃんが子供のときから迷惑を掛けてるんだから、身内として頭を下げるのは当然でしょ?」


 沙耶は当たり前のようにそう言うけど、わたしが健太郎に迷惑をかけた記憶なんてあまり無いんだけど……。


「さて、お次のインタビューは原画担当のや◯夫さんです」

「や◯夫かよ!? 自分はあんなにブサイクじゃねぇよ!!」

「小学校じゃそう呼ばれてたでしょ? 見た目も性格も最悪だからピッタリじゃない」


 ま、細かいことは気にせず淳司の背中越しに手元のAiPadを覗き込む。本人の苦情はこの際だ。無視の一択である。


「おっ、相変わらず絵だけは最高だね。この子がわたしの演じる女の子かな?」

「お前だきゃあ一度本気で分からせたいけど、まぁそうだぉ……」


 胸は小さく背も低かったが、見た目だけは大層可愛らしい魔法少女みたいな女の子が液晶の中で微笑んでいる。


「名前は 四十九院牧天上ヶ原つるしいんまきてんじょうがはらマギカちゃんだぉ。今年9歳の女の子で、7歳の頃から異世界の魔族と戦ってる魔法少女だったけど、魔王デスラーを倒して世界が平和になったからVTuberに転身したって設定でね。それからそれから……」

「……すみません。壮大な設定をこさえてくれたのに申し訳ないんですけど、お姉ちゃんじゃ自分の名前も憶えらないと思うんですけど?」

「…………」


 うん。沙耶の至極もっともなツッコミに淳司の長広舌がピタリと停止する。


「名前だけじゃないぞ? そもそもそんなキャラ作ったって演じるのは梨花なんだから、作るだけ無駄に決まってるだろ? 常識的に考えて……」

「なんだよや◯ない夫まで!? お前の出番は終わったんだからこっちに来んなぉ! 出たがり屋さんかテメーは!!」

「馬鹿、進捗の確認だよ。ただでさえお前の原画が完成しないと先に進まないんだから、そんな趣味丸出しの女の子を描いてないでもっとマシな仕事しろや」

「言ったな! 今日こそテメーをとっちめてやるぉ!!」


 そして始まるいつもの漫才を横目に、困ったような笑みを浮かべた沙耶が率直な感想を漏らした。


「なんて言うのかな? なんか最初はお姉ちゃんが迷惑を掛けてないか心配だったけど、だいぶ気が楽になったかな……?」

「そうだよ、もっとお姉ちゃんを信用なさい」

「そういう意味じゃないけど……お姉ちゃん的にはあのキャラどう思った? 採用に乗り気?」

「うーん、や◯夫の趣味丸出しの部分は置いとくとしても……難しいかな? わたしが演じたら肉弾戦オンリーになっちゃうから、あの子の見た目にそぐわないかなって」

「お姉ちゃんがそう思ってくれてよかった……どう考えてもぶち壊しだもんね」

「うん、わたしもそう思うよ」

「気持ちよく笑ったところで、次に紹介するのはSEシステム・エンジニア志望ので◯る夫さんです」


 そして動画の邪魔になりそうな二人を絞め落としてから三人目のところに向かうと、額に汗を浮かべた秀治くんは不満そうにこう漏らすのだった。


「相変わらず乱暴な……。ああいや、で◯る夫のあだ名はあの二人がああ呼ばれた時点で予想してましたから不満はありませんよ?」


 そう言いつつもこっそり「ハァ……あの二人とは中学からの付き合いですけど、もっと友達は選ぶべきでしたね」と嘆いたあたり、どうやら健太郎たちと一緒くたに三馬鹿のグループに入れられたことにショックを隠せない様子だ。


「……ねぇお姉ちゃん、今からでもこの人のあだ名を変えたほうがいいんじゃないかな?」

「いや、沙耶は知らないだろうけど、オタ研であの二人と一緒に大人のゲームで盛り上がってた時点で同罪だから酌量の余地はないよ」

「ちょっと!? 僕の黒歴史を初対面の沙耶さんや全世界に発信するのはやめて!!」

「じゃ、ギリギリ温情でこの部分は非公開にするけど……浮かない顔をしてるのはで◯る夫呼ばわりが気に障っただけじゃないよね?」

「ええ、まあ……あの二人と違ってイケメン秀才で通ってるキャラだから、わりとアリかなって感想ですけど」

「なら仕事がなくて暇だとか?」

「……それですね。3Dモデルも他の方が担当していますし、梨花さんが僕に何をさせたがってるのか見えて来ないんですよ」


 なるほど、これは確かにわたしの落ち度だ。

 一人だけやることがなくてポツンと座ってるのは居た堪れないからね。さっそくわたしのナイスアイデアを披露して安心してもらうとしますか。


「それなんだけど、で◯る夫くんって動画に英訳の字幕を付けたりできる?」

「出来ますよ。一昔前は手作業で付けてたそうですけど、今は音声認識式の自動翻訳がありますからね。一通り変換して誤訳をチェクするだけですから、さほど手間でもありませんし」

「それならライブ配信のリアルタイム翻訳もできる!?」

「いきなり無理難題きたぁー!! いやっ、流石にそれは危険ですからね!?」


 珍しく声を荒げる秀治くんだったが、沙耶は彼の言い分に心底同意するようにため息をこぼすのだった。


「そりゃ無理だよお姉ちゃん……試しに翻訳アプリをダウンロードして『わたしは妹とやりたい』って言ってみなよ。何が問題か判るからさ」

「どれどれ……」


 するとなんということだろうか?

 早速ダウンロードした翻訳アプリはわたしが性的な意味で妹とやりたいって翻訳したではないか!?


「まあ、こんなふうに現在の音声認識の精度は少なくともライブ配信では使い物になりませんからね。誤訳をチェックできる動画投稿形式ならまだ何とかなりますが……それにしたってヒューマンエラーの根絶は不可能ですから、大手も事故が怖くてライブ配信のアーカイブには手を付けませんよ」


 なんとなく予想通りだったので、やっぱりダメかぁーと肩を落とすも、そこで自信ありげに笑った秀治くんは「ですから、仮に」と前置きしてからこう続けるのだった。


「ですから、仮にどうしてもと言うのなら、梨花さん専用のシステムを組む必要があります。人工知能AIに梨花さんの発音を学習してもらって、それでも事故が起きた場合はその発言をあえて翻訳しないシステムがね」


 おおっ、と思わず声に出してしまった。


「できるの!?」

「言うほど簡単ではありませんがね……。まず梨花さんにはマイクを身につけて普段の発言をストックしてもらわなければなりませんし、それをAIに翻訳させて間違った部分を指摘して正解を学習させる手間がまた……しかも手動だけではく、オートで学習・チェックできるシステムを構築するとなると無理難題もいいところですが、出来るか出来ないかで言うなら出来ますよ」

「それお願いできる!? 報酬は言い値で払うからさっ!!」


 金ならあるんじゃ! 不足なら体で払ってもいいとばかりに熱意を込めて頼み込むと、秀治くんは意外にもあっさりと了承の返事をするのだった。


「ハイハイ、分かりましたよ。その代わり時間はかかりますからね? それこそどうあっても梨花さんの初配信に間に合わないぐらいには……それでもいいならやりますよ」

「やったぁー! 秀治くん大好き!!」

「ちょっとお姉ちゃん!?」


 喜びのあまり目の前の少年に抱きつくと、横から顔を真っ赤にした妹が飛び出してきてわたしたちを引き離した。


「非常に興味深い。私も協力する」


 と、ちょうどそのタイミングで今回はあまり前に出ない予定のなつきさんが声をかけてきた。


「あっ、何でも屋の長◯有希さんと、飲み食い担当の佐◯杏子さん……でいいんですよね」

「ん。私が長◯だ。主に梨花の安全装置を担当している」

「アタシのことは好きに呼んでくれよ。どうせ動画の枠内じゃ賑やかし要員だからさ」

「はい、自己紹介も終わったので長◯さんに質問! で◯る夫くんの仕事を手伝ってくれるって言ってたけど、わたしの3Dモデルは完成したの?」


 わたしが訊ねるとなつきさんは「いや、まだだ」と首を振ったが、その無表情はどことなく楽しげだった。


「だがこれまでの時間で3Dモデルの制作を容易にするシステムの構築は目処がついた。よってや◯夫から梨花の原画が上がってくるまでの間は、で◯る夫の言う人工知能の調律に力を貸そうと思っている」

「さすがなつきさん! それすごく助かりますよ!!」

「……あれ? 俺いつの間に寝てたんだ?」

「や◯夫もだぉ。なんか前後の記憶もあやふやなんだが……」


 どことなく顔の赤い秀治くんが感激の声を上げる頃には、絞め落とした健太郎たちもゾンビのように立ち上がってきた。


「それじゃあそろそろいい時間だし、今回はこの辺でお開きかな?」


 わたしが声に出して確認すると、小さくうなずいたなつきさんが言葉を引き継いだ。


「私たちぶい⭐︎ちゅう部は、今後も動画形式で進捗状況を発表する。私たちの活動風景を見てもらえると有り難い」

「当面の目標は、梨花のヤツがVTuberとして独り立ちするまでかな? もっとも梨花のことだから、VTuberになっても問題しか起こさねぇ気がするがよ」

「まあ、梨花さんがいる限り動画のネタは尽きそうにありませんよね……」

「なんかよく分かんねぇけど、さっさとこの女を取り締まる法律を作ってくれってのは同意するぉ」

「いや、そんなもの作ったってなぁ……実際に運用するのは梨花の身内の警察だぞ? 現場が苦労するだけの気がするんだよな、俺は」

「はいっ、というワケでぶい⭐︎ちゅう部マネージャー担当小嵐沙耶でした!!」

「次はわたしのガワを見せられたらいいね。ぶい⭐︎ちゅう部主催の小嵐梨花でした」


 最後に全員でカメラに映り込んで手を振る。

 これを編集するのもなつきさんの仕事になるけれども、彼女ならきっと最速で仕上げてくれるだろう。


「みんなお疲れさまっ。お昼はみんなの好きなものを頼むから、あんまり根を詰めすぎないで気楽に頑張ってね」


 今から反響が楽しみだと微笑わらったわたしは、まだ見ぬ未来に思いを馳せながら大事な仲間に呼びかけるのだった。



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