サンタクロースに憧れて
朝香るか
憧れと夢
6歳の望み
いい子にしているとサンタクロースがプレゼントをくれる日。
今年は雪が降る予報なので、
ホワイトクリスマスになる予定だ。
「本当にいいの? あのキャラ好きでしょ?
ぬいぐるみとかほしくないのかなぁ?」
幼女の母が欲しいものを聞き出そうと
たとえを持ち出すが、きっぱりと言い切る。
「モノ要らない。サンタさんに会いたいな」
ものいらないからサンタに会いたいという女児。
11月の初め頃から何度も欲しいものを聞いているのだが、
頑として譲らない。
彼女の両親は悩ましいと嘆いていた。
愛しい娘に頼みごとをされたら、
かなえてやりたいと思う。それが親だ。
メルヘンチックを信じる愛らしい娘に
現実を話しても今は意味がないと思った。
仕方がないので、2週間前から大人たちは準備を開始した。
☆☆☆
クリスマスイブ当日の夜。
幼女の部屋で親子が話し合っていた。
「いい、きちんとお部屋で待てるかしら?」
元気にうなずく子供がいた。
「うん!!」
「なら、お母さんが呼ぶまで大人しく自分のお部屋にいるのよ」
「はーい」
「サンタさんは恥ずかしがりだからね、
絶対に駈け寄らないこと。約束よ。いいわね?」
「はーい」
母親に連れられて、自分の部屋からリビングに通される。
暗いリビングに照らされた三か所の間接照明。
姿はうっすらと見えるが、顔は見えない。
「サンタさん?」
「ああ。そうじゃよ。いい子にしているから会いに来たんだ」
「本当に?」
「ほれ、プレゼントじゃ。賢く美しくなるんじゃぞい」
「はい」
「じゃぁの。
君のように世界中ででプレゼントを待っている子供たちがいるんじゃ」
「――はい」
「じゃから、またのぅ」
「また来てね。きっとだよ」
「きっとまた」
母親は時間だと促す。
「さぁ、お部屋に戻りましょう」
「はぁーい」
なんと小声で不満げな返事なのだろうか。
少女は母親に連れられて、自分の部屋に戻っていった。
☆☆☆
幼子の父親が頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ああ。しかしお前にもお嫁さんにも似ていないな。
あんな可愛らしい夢を持っているなんて」
「妻が昔はああだったといっていましたよ。伯父さん」
「私ももうサンタ役をやれるようなねんれいになっていたのだのぉ」
「まだまだお若いですから、シルエットにしたんじゃないですか」
「サンタ役。来年も頼まれるかのぅ」
「それよりもいつまで信じているか……学校で真実に気づくかもしれませんよ」
「小学2年までにか」
「最近の子供はませていますし。ユーツーブというネット社会でもありますから」
「確かに。ネットはすごいの」
寝かしつけてきた母親が戻ってくる。
「すぐに寝てくれたわ」
「そうか。手間をかけさせたな」
「こちらこそこんな子供の遊びに付き合ってくださってありがとうございます」
「かわいいお嬢さんだ」
「ねぇ、将来が楽しみだわ」
「確かに」
大人たちは同意しあったのだった。
☆☆☆
大人たちの思惑に対して、幼子は純情なものだ。
学校で、サンタクロースの存在は嘘だという話が出ても違うと否定したのだとか。
そうして正月、ひな祭り、進級して小学2年生になっても
「早くサンタさんに会いたい」という。
遠足があったり、運動会があったり、プールに行ったり、紅葉狩りに行ったり、ハロウィンがあったりとたくさんの行事を経てきた。
それでも一番好きな行事はクリスマスなのだ。
11月にもサンタクロースに会いたいと思う気持ちは変わらないようだった。
「今年も来てくれるかんぁ」
「どうだろうね」
「今年は何が欲しいの?」
「今年はサンタさんのたーくさんお話がしたいの」
「……それは難しいかもね」
「そうなの? 来てくれるって信じているもん」
あいにくと今年は協力できないと大人同士で連絡してある。
(なんていえば角が立たないかしら)
母親は頭を抱える。
12月になったころ、一通の手紙が届いた。
宛名は、お嬢ちゃんへとなっている。
「サンタさんからお手紙よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます