≪アンノウン≫冒険者達の選択 Season 2
ものえの
第1話 滅びと救い
こんにちは、初めまして。私が今回の物語を語る語り部、≪アンノウン≫よ。今度の舞台は、厄災龍との戦いより25年、広大なエルフの守護する森を抜けた先の西方域。物語の中心は、一人のハーフエルフの青年を軸に語られる。彼の名は・・・と、これは言うまでも無かったかしらね。では早速始めましょう、冒険者達の物語を。
ギルド直轄領内に拠点を置く冒険者ギルド。そのギルドホールに今、5人の冒険者がテーブルを囲み一人の大柄な男から説明を受けていた。男の名はケイン。この冒険者ギルドのギルドマスターである。
「以上が、俺からの説明だ。いいか、くれぐれも他国の事情に深入りはするな。」
ケインの言葉に、5人は頷く。
事の発端は、南ドワーフ族の呪術師メルルンの占術が示した、“西の禍(わざわい)”が、この統一王国にも禍を呼び込むであろう、いう予言であった。早速、王国の女王ヴァネッサは西方への調査団派遣を命じるも、西の森を守護するエルフ族がそれを許さなかった。西方からの大量の瘴気の流入を嫌った為である。王国側は検討の末、女王の親書を西方側の強国に渡すことで接触を試みる方法を選択、その特使として選ばれたのが彼等5名であった。
まず、パーティーのリーダーであるクロード。当年20才。通称“大剣のクロード”。父親から譲り受けたミスラル銀の大剣と母親譲りの強力な魔術を使いこなす技量は、早くから冒険者ギルド内でも頭角を現していた。しかし何よりも彼が今回特使として選ばれたのは、彼がハーフエルフだったからである。エルフ族で人間に好意を持つ者は決して多いとは言えない。だからこそ、種族間の懸け橋としての任を託されたのだった。
「はい、決して誰かのようなヘマはしません!」
「言うじゃねぇか、このクソガキ・・・」
「大丈夫っすよ、マスター。その時はこのイズファニール様がしっかりシメておきますって。」
ギルドマスターであっても軽口を叩くこの赤髪の青年、本名イズファニール=スカーレット。同じく当年20才。イズの愛称で呼ばれる彼はヴァネッサ女王の第一子であり、王位継承権一位の王子だった。過去形なのは、彼が継承権を放棄したからである。クロードとは幼少の頃からの親友であり、お互いに歯に衣を着せない間柄であった。その彼が選ばれたのは、血統故もあるが何よりクロードが彼を同行する仲間として最初に強く希望した事が大きく影響した。魔術、体術を得意とし、戦闘力に掛けては冒険者ギルドの強者と謙遜の無い実力の彼だが、若干オツムの足りない一面があるのが、彼の長所であり短所でもあった。
「それで、私は後何人の子供の面倒を見させられるんですか。」
あきれ顔で嘆息をする褐色の女性。彼女の名はミレイ=スウィン。当年22才。隠密行動を得意としており、これまでの多くの要人暗殺事件を未遂に終わらせた実績を持つ。彼ら二人とは、ある事件で共闘した事が縁でパーティーに加わる事になる。その為か、二人は彼女に対し妙に懐いている事もあり、今回、ギルドマスター自ら彼女へ本件の依頼を行ったのであった。
「大丈夫です。婦女子に危害を加える輩は私(わたくし)が責任を持って焼却処分にしておきます故。」
本に目を落としつつ、平然と物騒な物事を言い放つ女性。厚手のローブを身にまとい、そのローブからは何らかの魔力が込められたルーンが時々明滅し浮かび上がって見える。
「またそのような物騒な事を口走って。由緒あるローヴェ家の娘としてお姉ちゃんは悲しい限りですわ。」
「そう思うのなら、教会に逃げ込まないで早く結婚して下さい。私はこの先、冒険者として安住の地を得ますので。」
「うう・・・お姉ちゃんは辛いですぅ。」
この姉妹、口調は悪いが決して仲が悪い訳では無い。姉ソニア=ローヴェ、当年24才、妹セナ=ローヴェ、当年19才。姉は神官、妹は魔術師、どちらも冒険者としての適性審査をパスしており実力的には問題は無いのだが・・・。
「とにかく、全員目的は忘れるな。森のエルフは機嫌を損ねやすい。年寄りは尚更だ。」
ギルドマスターは、全員に対し檄を飛ばす。
「分かっていますよ。その為のボクなんでしょ?」
「まあな。爺様によろしく伝えてくれ。」
ギルドマスターは、クロードにそれだけ言い残し、ホールへと去って行った。
それを見届けた後、クロードはテーブルに向き直り、仲間の顔を見渡す。
「皆、色々言いたい事はあると思うけど、今日からボクたちは女王陛下の親書を預かった冒険者パーティーだ。協力して乗り切っていこう!」
「モチロンだとも、兄弟!」
「ヘマすんじゃないよ、特にそこの二人。」
「改宗か、死か・・・。相手が言葉の通じる生き物である事を祈る。」
「また、物騒な事を。み、皆さん、よろしくお願いいたします。」
かくして5人は、エルフの守護する西の森へと向かう。
西の森、エルフの里。
鳥の声も疎らな薄暗い森の中を迷うことなく進むクロードに対し、メンバーは彼に遅れまいと足を速める。
「皆、大丈夫かい?」
クロードは足を止め、メンバーに問いかける。
「大丈夫。いざとなれば、オレが背負っていくさ。」
「・・・断固、拒否する。」
「そうです、殿方の手を借りるほどではありませんわ。セラちゃんは頑張り屋さんですもの。」
「・・・裏切り者め。」
セラは恨めし気な目で、朗らかに笑う姉を睨む。
「それで、結局どの程度歩く事になるんだ?クロード。」
ミレイの問いにクロードは笑う。
「姐さんなら直に分かるよ。」
「どういう事さ。」
「この先からは、エルフの歩哨が潜んでいる。」
「ほう。」
「だから無暗に木を傷つけないで欲しいんだ。森で迷子になるのは怖い事なのは分かるけど、エルフ達から見れば野蛮な行為と受け取られかねない。」
「面倒な種族だな。」
「ボクもそう思う(笑)」
クロードは周囲を見回して皆を元気づける。
「皆、あともうひと踏ん張りだ。今日中にエルフの里に到達してしまおう!」
再び、森の中を進む一行。
しばらく進むと、クロードはメンバーを制止する。
クロードの制止と同時に、彼の足元に三本の矢が突き刺さる。
『森の守護者よ。私はヘイニーグの孫クロード。火急の件に付き、森の賢者に取り次ぎを願いたい。』
クロードがエルフ語で森に語りかける。すると三人のエルフ族の歩哨がクロード達の前に姿を現す。
『またお前か。しかも今度は人間も同伴とは。』
『賢者の方々にはすでに話を通しております。どうかお取次ぎを。』
『仕方あるまい。着いて来い。』
歩哨達の案内の元、一行は再び足を進める。
「なぁ、今更だけどエルフ族ってハーフエルフを嫌うっていうけど、実際どうなん?」
イズが肩越しにクロードに問いかける。
「ああ。ボクの場合は特殊だからね。確かにエルフ族が純血を貴ぶのは事実だよ。でもボクは両親から望まれて生まれた。エルフの里にも何度か里帰りもしている。おかげで今では全く迷う事なく一人で里帰り出来るまでになったんだけどさ。だから今はイズ達が同行している建前ああして警戒を崩さないけど、馴染んでしまえば意外に気さくなものだよ。」
「確かに、お前のその図太さは王宮でも際立っていたものな。」
「その王宮でボクを挑発した挙句、K.O.食らった王子がいたね、そういえば。」
「サーダレノコトデスカネー。」
「後ろの二人、騒々しいぞ、静かに進め。」
『はい、大変申し訳ございませんでしたっ。』
合わせ鏡の様に、一句違わず答える二人に、ソニアは思わず微笑む。
「本当に仲が良いですね、あのお二方。」
「単にまだ子供なだけだ。じゃれ合う子猫と同じ。」
「だからこそ放っておけないのさ、あの二人は。」
ミレイの言葉に、セラが反応する。
「ミレイさんは、あの二人のどの辺りが好きなのですか。」
「二人とも私を慕ってくれるし、腕も立つ。しかも双方、タイプは違えど顔も良い。嫌いになる要素を探すほうが難しいと思わないかい、お嬢ちゃん。」
「私は、自分が子供だと思っていません。」
「その考え方が子供って事。少なくとも、彼ら二人はお嬢ちゃんよりは大人だよ。」
セラは、ミレイの言葉に納得の行かない表情を浮かべつつ、二人の後を進み呟く。
「やっぱり、バカはキライだ。」
やがて、エルフの里へと入る一行。クロード以外の四名は、様々な形の木々が作り出す家屋の美しさに思わず息を呑む。
「すげぇな、クロード。あの家屋、一体どうやって作ったんだ。」
「違うよ。あれは木自らがエルフの願いに応じて家となったんだ。つまりあの家は複数の木の集合体であって切って組んだものじゃないんだよ。」
「え、そんな魔法あるの?」
「魔法じゃないよ。エルフは森を守る、木々はエルフに住む場所、食料を与える。このお互いの約束をただ守り続けて生きているんだ。だからエルフは森を傷つける他種族を拒む。」
「確かに、こんなスゴい代物見せられちゃ、うかつに木に傷を付けられなくなるね。」
二人の会話にミレイが割って入る。
「あ、姐さん。二人はどうしたんです?」
イズがソニア、セラの様子をミレイに尋ねる。
「あの状態、さ。」
ミレイが親指を立てて指した方向には、膝を抱えて怯えた表情でうずくまるセラを必死に励ますソニアの姿があった。
「何です、あれ。」
「どうもこういった巨大なウネウネしたモノが苦手だったみたい、あの子。」
「そういうのは、モンスターの種別にゴロゴロいますけど、大丈夫なんです?、それで。」
首を傾げるイズに対し、ミレイは苦笑交じりに答える。
「モンスターは魔法でカタがつくけど、ここで魔法をぶっ放す訳にはいかないから、だってさ。」
「なら、早めに移動しましょうか。部屋を用意してもらいます。」
クロードは、近くのエルフ兵に事情を説明し、一行は客室への移動を開始した。
「では、ボクは賢人の方々に事情を説明してきます。皆はここでくつろいでてください。」
というとクロードは足早に部屋を出ていく。
「と、クロードはああ言ったけどさぁ。」
イズの目線には、テーブルをはさんだ先にある、顔を青くしたセラの顔。
「大丈夫かい、セラちゃん。」
「直に収まります。それと馴れ馴れしく“ちゃん”呼びは止めて下さい。」
イズは困り顔でソニアに話しかける。
「ねえ、ソニアさん、オレってこの子の機嫌損ねる事したかなぁ?」
「すみません、すみません。姉の私が不甲斐無いばかりに・・・」
ソニアはひたすら平伏し、イズに詫びを入れる。
「ねぇ、姐さん。これどうしたらいい?」
イズは泣き顔でミレイに助けを乞う。
「お前も昔は同じだったろ。私はお前の面倒を見た。今度はお前の番だ。」
「マジっすか・・・」
セラの汚物を見るような目の前でがっくりとうな垂れるイズ。
「クロードぅ。早く帰ってきてくれぇ。」
一方、賢人の間では。
「来たか、クロードよ。」
賢人達を代表してクロードの祖父ヘイニーグが席に着く。
「冒険者よ、要件を聞こう。」
「冒険者ギルドより指名を受けこの度、森の賢人たる皆さまの元に参上しました、クロードと申します。」
クロードは懐から書簡を取り出し、ヴァネッサ女王の記した文をエルフ語に翻訳し読み上げる。その大きな内容は三つ。
・統一王国とエルフの里との良好な関係の継続維持。
・遥か西方からの瘴気に対し賢人達が守護する“障壁”への限定解除依頼。
・統一王国による、西方の国々との建設的な貿易活動展開への参加要請。
クロードが読み上げると、賢人達は一斉にざわめき出す。
「何と不遜な。我らが何のために“障壁”を守っているのか、知っての暴言か。」
「一度“障壁”を開けば何が起こるか、この人間は何も分かっておらん!」
「更には西方と貿易じゃと?我らの森を切り開き、道を作るなどと、全くもってあのドワーフ共と変わらぬ、なんと強欲な女。」
賢人達が騒ぎ立てる中、クロードは頬杖を付きつつヘイニーグに話す。
「ねぇ、爺様。賢人って言っても実際に西へ行った事、無いよね。」
「無い。」
「つまり今、賢人が騒いでいるのは、すべて憶測。」
「そうじゃ。時にクロードよ、妹はどうした。」
「家にいますけど。そもそも、一緒に連れてくる訳無いでしょう?」
「そうか・・・。」
「あ、そうだ。ボク達が無事西方に旅立ったら、ギルドマスターが家族で挨拶に行く、って言っていましたよ?」
「何じゃと、それを早く言わぬか!」
ヘイニーグは立ち上がると、早々に賢人達を諫める。
「冒険者クロードよ、賢人達の総意じゃ。“大剣のクロード”、イズファニール=スカーレット、ミレイ=スウィン、ソニア=ローヴェ、セラ=ローヴェ。以上5名、障壁の通過を許可する。」
「仕事早過ぎない?爺様。」
クロードは呆れ顔でヘイニーグを見るも、すぐさま跪き拝礼する。
「賢人方のご厚意、無下にする事なき様、必ずや使命を果たす所存であります。」
クロードの去り際、ヘイニーグが声をかける。
「クロード、土産を忘れるなよ。」
「分かっていますよ爺様。飛び切りの“すいーつ”、待っていてください。」
「うむ。」
その後、10日ほどの携帯食料を確保した一行は“障壁”を越え、未知の世界“西方領域”に足を踏み入れるのであった。
「あづい・・・」
「確かに暑いけど言うほどか?」
「暑さはともかく、この湿度は北方育ちには厳しいかもね。」
「きゃー、セラちゃん大丈夫?お水、お水!」
「あづい・・しにそう・・・でもローブ脱いだら、違う意味でしんでしまう・・・。」
障壁を抜けた先は、亜熱帯特有の巨大なシダ植物が生い茂る密林だった。クロード達は草木をかき分け先に進む。
「クロード、どこに向かってるんだ?」
「んー。適当。」
「えーっ!お前、森の中なら無敵じゃ無いのかよ。」
「無茶言うなよ(笑)」
ワイワイと駄弁りながら先を進む二人にミレイが警告する。
「遠足ごっこはそこまで。罠があるよ。」
「!?」
クロードは大剣を抜き、イズは拳を構える。
「どこ?罠はどこですか?」
「ソニアはココでセラの介護。私はちょいと上から様子を見る。」
ミレイはそう言い残すと、周辺の木に足を掛け、瞬く間に駆け上がっていった。
「うわぁ、ミレイさんカッコいい!」
「あづい・・・姉よ、抱きしめるな。」
クロードは呪文を唱えると周辺を見渡す。そして20歩ほど先の地点を右手の人差し指で指し再び呪文を唱える。
「雷撃よ!(ライトニング)」
クロードの魔法が直撃した場所が激しく焼け焦げる。焦げた草は次第にすり鉢状になって滑り落ちていき、落とし穴が姿を現す。
「結構、デカいな。」
「そのまま進んでたら二人とも落ちてたね。」
「クロード、イズ、敵が来るよ。恐らく3人。」
二人の頭上からミレイが声をかける。
「了解です。ミレイさんは、後ろの二人をお願いします。」
「承知。」
後方へ戻るミレイを横目にイズが切り出す。
「残りの一人、どっちが取るか勝負だ!」
「ミレイさんの前だし、恰好付けておきたいものな、お前。いいよ、付き合ってやる。」
クロードは嘆息しつつ、大剣を構えなおす。
「来たぞ!」
密林の先から飛来する粗雑な作りの矢。
「イズ、毒矢だ。当たったら終わるぞ!」
「なら、逆に飛び込むまでよ、『氷の鎧(アイスアーマー)!』」
イズが呪文を唱えると、彼の身体全体を青白い氷の膜が覆いつくす。
「いつ見ても、“氷の皮”だよね、それ。」
「うるせー、先に行かせてもらうぜ!」
イズは矢が放たれた方角へ向かって突進する。
「おい、クロード!」
「ああ、ボクも見た。彼らはエルフだ。恐らく未開の。」
立て続けに放たれる矢弾。
「全身肌を迷彩色に塗ってたから、その可能性が高いか。言葉通じるのかね?」
クロードは大きく息を吸い、周囲に呼びかける。
『ボク達は東の国から来た者です。戦う意思はありません。誰か言葉が分かる人はいませんか?』
クロードの声が届いたか、密林の中から現れるエルフの男性。
『お前の言葉、少し分かる。』
そして今度はクロード達のよく知る、共通語で話しかける。
「この言葉分かるか?これなら全員に伝わる。」
「ボクもその方が助かる。先も述べたように、ボク達は東の森を越えてきた。君達に害を加えるつもりは無い。どうか君達の指導者に合わせて欲しい。」
「・・・ついて来い。東の者。」
その後、一度ミレイ達と合流したクロード一行は、未開のエルフの里へと赴く事となる。
エルフの里。亜熱帯で育った奇抜な色彩の果物は、彼らを目で驚かせ、その味で驚かせた。
肉料理の味は彼らをげんなりとさせたものの、イズとミレイが用意していた香辛料が功を奏し宴を盛り上げる文字通りのスパイスとなった。
一通りの歓迎を受けた後、クロードのみ、長の座へ案内を受ける。
天幕に入り彼の前に座るのは、両脇に老婆を従えた、浅黒い肌を持つ若いエルフの女性だった。
「年老いたエルフが珍しいか?」
「色々と初めての事が多く、頭の整理がつかず・・・気分を害されたのであればお詫びします。」
クロードが丁寧に詫びを入れると、女は納得したように自らの椅子に深く座る。
「我はジャーダ。この集落一帯の長。」
「集落?」
「そう。その戸数(世帯数)は1000を超える。」
「一つの町じゃないですか。」
「我らの仲間になる条件は一つ。我と同じ肌を持ち、同じ志を持つ事。」
「志?」
「我らは逃亡奴隷。帝国と王国、二つの国からの。」
ズシャ、という音と共にジャーダの背後の天幕が下ろされる。そこには、ドワーフ、人間、エルフといったクロード達が知りうる種族の人々がじっと事の成り行きを見つめていた。
「全員、同じ肌・・・。」
「そう、ただその一つの違いで我らは全てを奪われた。東の者よ、我と手を組め。我が西の女王となれば、お前の望みは全て叶う。」
「協力は、出来ません。西の政争にボク達は関与しません。」
「ならば、この地で何を求める。」
「知ります。自分の目で。貴女の言った帝国、王国、全てを知った上で、冒険者としての選択をします。」
「その時には手遅れかも知れぬぞ?」
「それでも、です。」
ジャーダは、さも面白げに笑う。そして笑い終えると、クロードを睨みつけて呟く。
「そうかい、お前さんハーフエルフか。道理で人間臭いはずだ。」
「それが何でしょうか。」
「取引をしようじゃないか。我らは武器を求めておる。お前の手にするような、戦争をするための武器を、な。」
「要件は何です?」
「この森の先に大瀑布がある。その一角にかつてこの大地を支配した一族が封じた宝物庫があってな。その宝物庫を開放してほしいのじゃ。」
「一族?古代エルフですか?」
「分からぬ。還った者がおらぬからの。」
「報酬は?」
「今後お前たちには一切手を出させぬ。お前たちの神にも誓ってやろうぞ。」
「戦争をしない、という選択は無いのですか。」
「無い。」
クロードは大きく天を仰ぐ。
「分かりました。その取り引き受けましょう。ただし、宝物庫にはボク達だけで挑みます。」
「ならぬ。同行を就ける。用心の為じゃ。」
「命の保障は出来ませんよ。」
「いや、お前は守る。そういう男じゃろう?」
~~~
「んで、その取り引きで依頼受けたのかよ、お前。」
「リーダーが決めた事だ、今更文句言っても仕方ないだろう?イズ。」
「でも、古代の宝物庫でしょう?きっとスゴイモノが眠ってますよ、魔法の絨毯とか。」
「いい加減ストレスを発散したい。とにかく早くぶっ放させろ。」
「ハハ・・・。」
クロードは4人に好き放題言われるも、その場を笑って凌ぐ。
「で、その案内人ってのは、やっぱお約束の黒エルフの巫女ちゃんなんだろ、クロード。」
「いや、最初にあった、迷彩エルフの兄ちゃんだ。スマンな、兄弟。」
「てめぇなんざ、今すぐ義兄弟の縁切ってやるわぁ!」
「何でさっきよりも切れてるんだよ、お前!」
翌日、大瀑布に佇む宝物庫前。
「よろしく。同行するジャムカです。」
「クロードです、こちらこそ。ところで、この宝物庫っていつ発見されたんです?」
「伝承にはありましたが、扉は固く閉ざされていたそうです。しかし、20数年前、扉が開き、長が村の戦士を動員して挑んだそうですが、還る者は無く・・・。」
「長?」
「はい、今の長は、先代の娘であります。」
「ありがとう、ジャムカさん。」
クロードは仲間に振り向き、改めて声を掛ける。
「これがボク達の初実戦だ。誰も死なない、死なせない。いくぞ、皆!」
『おー!』
一方、ジャーダの天幕。
右の老婆が語る。
「東の者が行きましたぞ。」
左の老婆が語る。
「あの忌まわしき扉の先に。」
ジャーダは水煙草を薫らせつつ、虚空に問う。
「ようやく始まるんだねぇ。」
「始まりまする。滅びが。」
「始まりまする。救いが。」
「厄災の龍が眠りに落ちた時に我らに滅びの時が。」
「東からの使者が現れし時、我らに救いの時が。」
『共に刻み始まるのです。』
今日はここまで。また次回お会いしましょう。
私の名は《アンノウン》。誰も知らない物語を語る、語り部よ。
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