第35話 科学オタク_考える
稲葉の陣取る北の王都への輸送を考えている時だった。
連絡が来た。
「左右の国の動きが、怪しいだと?」
「はっ。東国のエアタリアは、港に船を集めています。海を渡って来られると、海岸線での防衛となります。西国のウミタリアは、先日、先遣隊が壊滅したらしいですが、本軍が国境に集結しているとの連絡を受けました」
西国の先遣隊? もしかして、ワイか?
大将の砦の近くにいたが、西国の兵士だったのか……。
そうなると、戦端を開いたのは、ワイになるのか?
「自分のケツは、自分で拭かねぇとな……」
東国のエアタリアは、分からない。稲葉が北東方で蹴散らしたらしいけど、北方は地続きだ。わずかだが、陸地が続いている地形だ。それを無視して、中央国のセントラルガルドに攻め込む意味……。何故……、船なのか。
「いかがいたしましょうか? 鈴木教授の兵器を投入するか否か……」
「王族や将軍は、なんて言ってんだ?」
「……全て鈴木教授に任せるとのことです。全権委任だそうです」
ため息しか出ないよ。
あれだな……。先日の模擬演習が良くなかった。
戦闘ヘリコプターで模擬弾を撃ちまくって、地上部隊を降参させてしまった。
その後、
代わりに、責任を押し付けてた感じだな。
それと若槻は、笑っていた。
一応、ワイは将軍職を貰ったことになっている。兵権はあるらしい。名誉将軍かな? 部下がいないし。
だが、考えてしまう……。
『ワイが、近代武器で無双していいんだろうか?』
例えば、西国のウミタリアの国境を灰にして、制圧兵を送り込めば、短期間に制圧できんだろう。
東国のエアタリアは、もっと簡単だ。港に集まってんだし。船を兵士ごと燃やして、海の藻屑に帰せばいい。渡河中に攻撃するのは、戦争の基本だ。今回は、海だけどね。
民衆が反乱を起こして来たら、プロペラ機で投下型爆弾だ。
山も谷も平地に出来るだけの、火力を作った自負はある。いや、東国の全てを更地にする火力だ。
――行っていいんだろうか?
一方的なワンサイドゲームになりかねない。虐殺になってしまう可能性……。
戦争とはいえ、他人の誇りを傷つけるのを、ワイは良しとしない。
制圧後も考えないとな。
考えたあげく、西国のウミタリアは、制圧兵に任せることにした。
「会いに行くか……」
ワイは、ラボを出た。
◇
「鈴木殿? どうなされた?」
目の前には、若い将軍がいる。こいつの部下1000人にライフル銃を持たせている。射撃訓練だな。
「ガイウス将軍。君が先陣を切って西国のウミタリアに当たって貰いたい」
「「「えええ!?」」」
将軍だけでなく、彼の部下まで驚いているよ。
「ワイは、東に当たる。西は任せたぞ」
『勇者』が必要だ。それも、異世界召喚者以外でだ。
彼になって貰おうと思う。
「鈴木殿、お待ちを! 我々は、制圧兵ですぞ? 侵攻は、他の兵科の仕事です!」
分かってないな~。君ら1000人は、この世界で最強の歩兵部隊なんだけど?
模擬戦でも行わせて、自信をつけて貰うか?
その後、俺の将軍の権限を発動させて、ガイウス部隊が最先鋒に決まった。
これには、王族も軍部も文句を言って来なかった。
失敗したら、ワイの責任だしね。
ガイウス将軍だけが、文句を言っている。
「そんなに、恐れることもないと思うんだけどな~。稲葉が相手って訳じゃないんだし」
稲葉や大将が相手だったら、ワイも出兵は渋る。
だけど、若槻の情報では、雑魚だった。
多分だが、ライフル銃に敵わないはずだ。……多分。
「持たせている槍は、岩をバターみたいに切り裂くし、大木だって切断したんだ。防具も鉄の塊で殴られたくらいでは、ダメージを受けないモノを支給した……。輜重はトラックだし。他になにかあるかな?」
ガイウス将軍が、なにを心配しているのかが分からない。
要求もないしな。
◇
ガイウス部隊を見送る。
この世界では、市民が軍隊を送り出す見送りみたいなのはなかった。
まあ、あの部隊は、1000人だし期待されていないのかもしれない。
「帰って来た時に、勇者になっているんだろうな。英雄?」
勇者と英雄の違いが分からないが、まあ未来の人が決めるんだろう。
俺は、俺の仕事をしよう。
「東国のエアタリアは、まだ動かない。大義名分も必要だよな」
戦国時代であり、稲葉も攻められている。
こちらから、奇襲をかけて先制攻撃もいいけど、未来でなにを言われるか……。
「まあ、船が出航したら、沈没を狙おう。航海途中で、消息不明ってストーリーがいいよな」
ワイは、ラボに向かった。
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