第33話 科学オタク_準備を完了する

 連絡が来た。


「トラックを使いたいと?」


 輸送は、若槻に任せきりだったのに、いきなりなんだ?


「はっ。池上殿と稲葉殿の地に、物資を送りたいとのことです」


 トラックの実用性を示したら、実戦投入か……。

 現地人の魔力量では、数人掛じゃないと動かないんだけどな……。それでも、馬車を数十台動かすよりは、効率的か。


 とりあえず、運転手は王様の直属の護衛兵にさせて貰った。

 途中で盗賊が、出るかもしれないという理由だ。


 10トントラック、10台の荷物を積んで出発を見送った。

 まず、大将の方だ。

 大将は、砦を防衛し続けているらしい。

 もう、『南国のサンドランド』の半分以上の兵士を撃退しているのだとか。

 そうなると、敵国は防衛に兵を割くしかなくなる。街に兵士がいなくなれば、治安が悪化するのは、歴史が証明している。


「戦争ってのは、3割の損害が出たら、敗戦なんだけど、大将は、殲滅してんだよな……」


 それも、味方の被害を極小にしてだ。死者の話が出て来ない時点で恐ろしい。

 戦の天才……。どうやら、砦の防衛の名手だったらしい。

 戦場の詳細は伝わって来ないけど、とりあえず、味方すら恐れる戦果を挙げているらしい。


「日本刀を模した、武器を10本送ったのも大きいよな」


 試作の日本刀もどきを送ったら、大将からの依頼で、『壊れないサーベル』の要求が来た。

 鍛冶師と相談して、魔力の宿った日本刀を送ったんだけど……、一騎当千の猛将になっているらしい。

 少し戻って来た兵士の噂話を聞いたのだけど、『剣鬼』とか呼ばれているらしい。『刀』だろうに。

 この世界の住人は、剣と刀の違いが分からないらしい。


 まあ、安心して任せられる。

 時間を稼いでくれたので、ワイも戦闘ヘリコプターの準備ができた。

 不意を突いて、ワイたちの住む『セントラルガルド』に攻め込んで来る国がいたら、ワイが出向く予定だ。

 まあ、勝ちは決まっているけどね。

 ただし、ワイには追い返すしかできない。制圧とか面倒なことは、任せたいと思う。


「若槻は、暗躍してるみたいだな……」


 情報収集に関して、あいつ以上に怖い奴もいない。

 義賊として、貧困層に食料を配っているとも聞いている。


「ワイだけが、未だ何もしていない……」


 焦る気持ちもあるが、ワイが一番成果を出すのに時間がかかっただけだ。

 目の前を見る。


燃料気化サーモバリック爆弾……。稲葉には敵わないかもしれなけど、街一つ灰にする威力は持っている。こないだ、国境で使って、敵国の関所を吹き飛ばしたしな」


 10発作った。

 戦闘ヘリにも搭載可能だ。

 それと、威力低めの投下型爆弾……。100発ある。この世界の軍隊は、密集陣形を使うと連絡があった。特に夜中だ。陣を築いて夜襲に備えるのだとか。


「航空戦力からしたら、餌食だよな……。いい的だ」


 まあ、使わないことを祈ろう。


 ここで、ワイの補佐役が、ラボに入って来た。


「鈴木教授殿。弾丸の製造が滞っております」


 そうだった。タングステンを毎日一定量産出しないといけなかった。

 一般兵士の射撃練習の弾も、馬鹿にならない。回収して、再利用するようにしているけど、まだ数が揃わないな。


 特に『雷管』だった。ユニークスキルの『検索』がなければ、火縄銃だったな。

 インターネットみたいに使えるので、この異世界にワイ以上の知識人はいないだろう。


「分かった。すぐに向かう」


 ワイは、工場に向かった。





 兵士に支給したのは、単発式のライフル銃だった。

 『ベレッタ シルバーピジョンシューティング』の構造を真似て、作成した。まあ、2発撃てる。(げふん、げふん)

 アサルトライフルは、使い方が分からないらしく、弾の消費が多過ぎた。数秒で全弾撃ち尽くされたら、武器を失った兵士になってしまう。


「3発だけ撃つんだ。こう、狙いをつけてだな……」


 兵士に教えたのだけど、理解されなかった。

 現地人には、アサルトライフルはまだ早いとのワイの判断だ。


 ベレッタ シルバーピジョンシューティングの射程は、200メートルと言ったとこか。

 扱いやすい銃らしく、命中率も問題なかった。盾すらも撃ち抜いているし。

 弓矢に変わる武器になっただろう。


 制圧兵の標準装備として持たせている。

 それと、料理だ。

 プロテインの量産が、可能となったため、ゴリマッチョが増えた。

 大豆イソフラボンの発見は、大きかったな。


「残っているのは、孤立してる稲葉だな。途中に山があるので、物資の輸送が滞っている」


 今から、輸送機は作れない。時間の無駄だ。

 山の稜線に沿ってでは、トラックも走れない。

 今は、人力に頼っている。もっと言うと、若槻頼りと言ってもいい。


「稲葉が、谷を埋めてくれれば、道もできるけど、敵国に狙われそうだよな」


 隘路とか狭路は、避けたい。

 奇襲を受ける地形をわざわざ作る意味もないし。

 地形を変えるか? だけど、戦争中の国に道を作るってのもな~。


「アイディアが出ねぇな。3人に合わせる顔がない。頑張んねぇとな……」


 アイディアを捻り出して、貢献しないとな。

 ワイには、それしかないんだし。

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