第28話 ラノベオタク_スライムを放つ

 地上に戻って来た。

 疑問に思うのは、この迷宮ダンジョンって何層あるんだろうか?

 まあいいや、もう来ることもないだろうし。

 僕たちの目的は、戦争の終結であり、元の世界に帰ることだ。


 『異世界に来たから冒険者』の思考は、今回の異世界では無意味だった。

 冒険者ギルドに連れて行ったのは、僕だ。レベルアップの一助と考えていたけど、失敗だったな。

 終わったことだし、手続きを済ませてしまおう。考えるのはそれからだ。


「まず、分配ですかね。冒険者ギルドに行きましょう」


 途中で拾ったサポーターに話しかける。

 返事を聞く前に、冒険者ギルドに〈転移・転送〉した。


「「「えええ? 一瞬で移動?」」」


 驚いているサポーターを置いておいて、受付嬢に報告だ。


「え~と、フロアボスを倒したと?」


 笑顔が引きつっている、受付嬢。こんなんで動揺しないで欲しいな。

 受付は、顔じゃないよ。佇まいも評価されるんだ。


「証明に何が必要ですか? 持っているモノならなんでも出せます」


「……少々お待ちください」


 その後、別室に通された。今、結構な荷物を持っているんだよな……。

 先に戦利品として捕獲した魔物をどうにかするべきだったかな?


 考えていると、誰かが入って来た。


「良く来てくれた。冒険者ギルドマスターです」


 うん、テンプレだね。

 その後、一方的に話す。

 まず、魔石を出した。203個だったな。

 その後に、この国で使われていない硬貨を。これは、宝箱からのドロップ品だ。金を使っているので高価だろう。

 最後に、回収した冒険者カードだ。


 冒険者ギルドの受付嬢が、総出で計算を始めた。

 サポーターたちは、直立不動だ。補足説明して欲しいな……。僕だけ話しているじゃん。


「ふ~……。分かった。ボス討伐を承認しよう。7人での討伐だね」


「「「いえ! 彼一人で攻略しました!」」」


 正直な人たちだな。

 その後、受付嬢が、金貨を持って来た。……1000枚かな?

 重そうだな……。つうか、僕が貨幣を貰っても使い道がないんだよな。物品が欲しい。


「とりあえず、急ぎこれだけ用意させた。正式な集計は、数日待って欲しいのだか……」


「では、残りはサポーターの彼等が受け取ってください。僕は、その金貨1000枚を貰って行きます」


「いや、冒険者というは、金の流れに敏感でね。透明性が求められる」


 面倒だな~。


「きっちり、8:2で分けろと? 大きな宝石と武器防具は出していませんけど?」


「今後を考えるのであれば、きっちりと、話し合った方がいいね」


 冒険者……。面倒だな。大雑把な性格の僕では、成れそうにない。

 それに冒険者は、今日までになりそうなんだけど。





 その後、貧民街――スラムの川に向かう。上流の方に、丁度堤防があった。


「この辺でいいでしょう。スライムを放ってください」


 サポーターの人たちが、大量の魔物を放った。

 そう……。僕たちは、迷宮ダンジョンのもう一つの戦利品である、スライムを大量に捕まえて来たんだ。

 そいつらを川に放つ……。

 この世界のスライムは、物質を分解することを確認していた。まあ異世界定番だよね。お掃除スライム。

 それが、迷宮ダンジョンに実在していたので、捕獲して川で放つことにしたんだ。


「言われるがまま、スライムを持って来ましたけど、いいのですか? スライムが住民に危害を加えたら、損害賠償が来ますよ?」


「損害を受けるのは、貧民街ですからね。金貨800枚で保証は出来るでしょう?」


 毎日見に来るか。食料を買って行かないとな。

 いや……、奪って来るか。次は、北がいいかもしれない。



 その後、夕食時に冒険者になった3人が死亡したことを伝える。

 異世界召喚者たちは、絶句していた。

 危険のある世界だと、再認識したみたいだ。


「戦闘は、2人に任せましょう。僕たち、17人は後方支援で」


「戦場には、向かわなくていいんだよね?」


 錬金術の人が聞いて来た。『ポーション』を作った2人組だ。


「物資の輸送は、僕が引き受けます。そうですね。王都が攻められたら逃げてください。防衛は、鈴木がいるので大丈夫でしょう」


「おう! 火薬の量産に入っているからな。任せてくれ!」


 一応説得はできたみたいだ。

 後は、彼等に生命の危機を感じさせなければ、内政を活性化させてくれるだろう。



 食事兼ミーティングが終わった。

 一人部屋に移動する。これからのことを考えないとな。


「今残っているのは、貧民街――スラムの川と食料改善。それと、仕事の斡旋かな。王族貴族は、食料が増産されれば、黙るだろうし。マフィアがいそうだけど、武力勝負ならどうとでもなる」


 畑が、人手不足のはずだ。そこを手伝って貰おう。

 今一番力を入れたいのは、薬品――錬金術だけど……人を選ぶだろうしな。

 〈職業:医者〉がいなかったのが、とても痛い。


「そう言えば、稲葉も戦場に向かったんだよな……」


 次に食料を奪うのには、最適なタイミングだよな。明日は、北に向かおう。

 だけど、何時までも敵国の食料に頼るわけにもいかない。

 どうすべきか……。同盟国の食料を奪うのは、先を考えると止めた方がいい。

 連合軍を組まれたら、この国は終わる。


「なんか、僕は軍師タイプになってないか?」


 自分自身に突っ込む。

 まあ、最前線に送り込んでいる大将と、訓練している稲葉に比べれば、随分と気が楽だ。

 人殺し――僕に出来るとは思えないし。


「王都を改善する……。それだけに集中しよう」


 僕は、瞼を閉じた。

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