第11話 漫画オタク_練習試合を行う

「ほら、走れ! 走れ!」


 俺は騎士たちを、しごいて行く。まあ、魔導士だが。

 俺も鎧を着て走るが、騎士たちはついて来れない。


「アスリートでもない俺に、ついて来れない兵士ってなんだよ」


 魔力で身体強化を行っただけで、アスリート顔負けの体力がついた。

 最終的には、魔力なしでこの体力を発揮する予定だ。


 兵士がこれでは、国が亡びるな。

 国の根本から直さないといけない。


 考えていると、遅れていた兵士が追いついて来た。


「そのままだ! 座るな! 疲れ切っている時に、魔力操作だ!」


 俺は、念の四大行……(げふん、げふん)、を取り入れたトレーニングを課した。

 初日は、散々だったが、俺が実践しているんだ。出来ることを証明する。

 目の前に実演している人物がいるんだ。兵士たちの中にも出来る者が増えて行った。そして、士気が上がって行った。

 目に見える成果があるんだ。従わない理由はないよな。

 ついて来れない奴は、振るい落として行くしかない。



 2日、3日と続けるにつれて、騎士たちに変化が現れた。

 数人だが、俺のトレーニングメニューを熟せる人材が出始めたのだ。


「単純に鍛錬不足だったみたいだな。これでは、戦場で無駄死にするだけだったぞ?」


 兵士の表情にも変化が現れた。限界まで追い込んでみるもんだ。いや、限界なんてものはない。

 明日には、限界値が跳ね上がっているだろう。


 魔法の威力も格段に上がっている。数日前の2倍と言ったところだろう。短期間で、こんなにレベルアップするのか。どんだけ怠けていたのかって話になる。

 大将次第だが、実戦投入の日時が分からない。


「間に合うかどうか……。だが、僅かでも生存率を上げておきたい」


 戦争は、兵士の数であり質だ。武器防具にもランチェスターの法則が当てはまるが、他の奴に任せよう。

 俺は、兵士の意識階改革をメインにした方がいいな。

 死の直前まで、追い込んでみよう。きっと本番までには、強兵が生れているはずだ。


 脱落者は仕方がない。門番くらいなら熟せるだろうし。


 足元には、疲労困憊の兵士たちが、転がっている。

 俺は、空中に飛び上がり、魔力を全開にした。

 それを、右手に集めて行き、剣状に成型する……。


 大気がプラズマ化して、危ないな。高温すぎるようだ。

 俺は、炎の剣を、振り下した。

 目の前の海が割れた。炎の剣は、射程がないようだ。温度を飛ぶ斬撃として撃ち出せるみたいだ。威力も申し分ない。奥の手としてなら身を護れるだろう。

 割れた海が戻るのが分かった。まるで、モーゼだな。もしくは、邪王炎○剣か……。(げふん、げふん)


「俺の全力……。まだ、こんなものか……」


 他の3人に申しわけが立たない。

 だが、焦る必要はない。戦争に出向く前にレベルカンストを目指せばいいだけだ。

 逸る気持ち抑えつつ、イメージトレーニングを行って行く。


 そんな俺を見て、兵士たちの表情が引き締まる。

 俺が、この国を見捨てて他国に回ったら、一日で崩壊するだろうな。まあ、五ヵ国で最弱の国なんだ。

 他国の強さも調べなければならない。

 今のままでは、初陣で戦死もあるかもしれないので、慎重にならざるを得ないが。



 ここで、聞こえる様に悪口が聞こえた。


「はんっ。足手まといの、魔導士部隊かよ。無駄飯ぐらいが、トレーニングして余計に食費を増やすんじゃねぇよ」


 俺は、声の方向を見た。

 馬に跨った……騎兵だな。槍を持っている。


「あいつらはなんだ?」


「この国のエリート集団です。騎兵隊は、選ばれた人しかなれません。貴族でも平民でも、実績があれば選ばれます」


 ほう?

 実力主義の精鋭部隊か。面白そうだな。





 次の日に、騎兵の練習場に案内して貰った。

 実戦さながらに、突撃から武器で撃ち合っている。


「だが……、この程度か」


 もういい、興味が失せた。

 見るモノもないだろう。


 立ち去ろうとした時だった。騎兵に囲まれてしまった。


「噂の異世界召喚者さま~。相手してくれませんかね?」


 何処の世界にもいる、こういった手合い。実に面倒だ。


「10人選んでくれ。それと、あの広場で魔法を撃ってもいいんだな?」


 こんな奴には、従ってはいけない。

 暴力沙汰になっても、抵抗した方がいいだろう。


「馬鹿、冗談だよ。マジになるなよ~。雑魚魔導士のくせにさ」


 この言葉を言わせたら、勝ちだな。

 だが俺は、練習場へ足を運んだ。



 1対10での、練習試合が始まった。

 騎兵は、俺を取り囲むように動いて来た……。

 鉄砲が発明されていない時代の戦術だ。やはり、得るモノがない。

 そして、槍の穂先を突き付けて来た。


「「「なっ?」」」


 驚くのが遅い。槍の穂先が、熔けているからね。

 もう、俺の炎魔法に物理攻撃は効かない。今度は、鉄砲を試してみよう。

 勘だが、何処かにあると思う。もしくは、鉛玉を作って貰おう。


「その前に、目の前の騎兵たちを終わらせるか……」


 俺は、魔力を解放した。


「ふうぅおおおお~~~~!」


「「「うああ!?」」」


 俺が纏っただけの炎で、燃える騎兵たち。広場が、一瞬だが炎に包まれる。

 距離を詰めすぎだよ。

 それに、騎兵が止まるなと言いたい。止まった馬は、歩兵の餌食だぞ?


「基本がなってないな」


 俺はそれだけ呟いて、練習場を後にした。

 ちなみに、騎兵たちは……、まあ生きているだろう。馬には、可哀相なことをしたかもしれないが。


「回復魔法の使い手も……、調べないとな。魔導士の質を見る限りだけど、大将ほどの使い手はいないだろうし」


 やることが、山積みだ。

 俺は、天を仰いだ。

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