第27話 物語
寝物語に童話は、何よりもふさわしい。
「夫婦から奪われた赤子は、高い高い塔の中で元気に育ち、艶やかな黒い髪は一度たりとも切られなかった。やがて思春期の娘へと成長し、伸びすぎた髪はロープの代わりとなって、魔女が登るのに役に立つ」
「魔女のくせに何で魔法で飛ばないのかな? 飛べばいいのに。毛根痛いじゃん、抜けるだろうし」
「フィクションなんだから気にするな。魔女が来ない間、暇で暇で仕方なかった娘は、戯れに歌を歌う。観客は最初こそ鳥だけだったが、徐々に鹿や熊が来て」
「逃げて鹿、歌を聞いてる場合じゃないよ」
「そうだな。その内、人間の男が」
「逃げて熊、猟師だよ」
「……あー、猟師だったか」
「そんな都合良く現れるの、絶対猟師だよ。白雪姫や赤ずきんにも猟師出るから絶対そう」
「じゃあ、猟師で」
どうやら、生首と少女には合わなかったようだ。
生首が語り出してから、少女は何度も茶々を入れ、物語はまるで進まず、どちらも眠りにつく気配はない。
いっそ、映画を流していれば大人しくなるのだから、そちらの方がふさわしかったのかもしれない。
生首と少女も既にそのことに気付いてはいたが、今さらベッドから出るのも嫌だった。もう何日も経てば、十一月も終わる。寒いのだ。胴体があろうとなかろうと、寒さがきつい。
耳を澄ませば雨音が聞こえる。
これは余計に寒くて堪らない。そろそろ毛布を出してもいいかもしれないと考えて──どこに仕舞ってあるのかと、少女は記憶を探った。
「猟師は娘の歌声に惚れ込み、毎日毎日仕事をサボっては、歌を聞きにやって来る。ある時、いつも通りに塔へ向かったら、同じく塔に来ていた魔女の姿を目にし、見つかる前に物陰へと隠れ──偶然にも、塔の登り方を知ってしまう」
「納屋かな」
「縄だろ。いや、髪だろうが。何を言っているんだお前は」
「続けて」
「……次の日、猟師はその方法で塔を登り、初めて娘と対面することに」
生首の言葉は右から左に。
納屋の間取りを思い出し、毛布がどこら辺に仕舞ってあるのか考える。こんなことなら手伝いをしておけば良かったと後悔するが、もはや遅い。
「そして……そして……」
「シャムロック?」
「……いや、チョイス間違えた。子供に聞かせる話じゃなかったな」
「何が?」
「……その、オチを忘れたんだよ」
「何それ」
「……そういうことに、してくれないか?」
「変なシャムロック」
余計に目が覚めた少女は、渋々ベッドから抜け出し、生首と共にダイニングに行って、適当に選んだ映画を流しながらソファーで眠りについた。
注意をしてくれる者は、まだ帰らない。
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