第3話 だんまり

 少女のいないダイニング、生首と吸血鬼は向かい合う。


「シャムロック様、お話があります」

「……」


 テーブルに置かれた生首は瞼を閉じ、口も固く閉ざしている。生首の正面に座る吸血鬼は、その赤い瞳を細めて、生首に語り掛けた。


「シャムロック様の胴体のことです。この近辺を隈なく探しましたが、その、未だ見つからず……不甲斐ない限りです」

「……」

「捜索範囲をもう少し、広げてみようと思うのです。シャムロック様、色々とご不便お掛けしますが、もうしばし、そのお姿でお待ちいただけますか?」

「……」

「……シャムロック様」


 寝息の一つも立てずに、生首は瞼を閉じ続ける。

 吸血鬼は自身の指を、生首の左目を隠す長い前髪に差し込んで耳へと掛けてやり、閉じた両目を改めて見つめた。


「この国には、たぬき寝入りという言葉があるそうです。意味までお教えした方がよろしいですか?」

「……」

「私が、言えた立場ではありませんけど」

「……」

「今日は、いえ、今日もですかね、何もおっしゃってくれませんね。……シャムロック様」

「……」


 いつの間にやら寄せていたらしい吸血鬼の眉根のシワが深くなり、顔を俯かせると共に指で引っ掛けた髪を元に戻し、生首の露わになった左目が再び隠された。

 生首は何も語らない。

 消えた胴体のことについてどれだけ話をしようと、生首からの返事がないことはとっくに理解しているが、吸血鬼は語り掛けることをやめない。

 それが気持ちの整理になり──懺悔にもなるからか。


「私は……私はどうしたら、良いのでしょう」


 縋るようなその声に、生首は何も応えない。

 吸血鬼の握り締めた拳から、鮮血が静かに流れ出した。


◆◆◆


 その吸血鬼は元々、吸血鬼ではなかった。

 元は人間の両親から生まれた人間であり、主と出会ったことで、吸血鬼として生まれ直した。

 それまで荒んだ日々を送っていた吸血鬼は、そこから救いだされたと主に恩義を感じ、忠誠を誓うと、主の手足として永い間尽くしてきた。

 ある時、主単独で行動しなければいけなくなり、吸血鬼は別行動を取っていたが、いつまで待とうと主が帰ってこないことを不審に思い、足取りを調べてようやく合流できた時には、主は胴体を失い、生首だけになっていた。

 自分が不在だったせいでと、深く後悔した吸血鬼は、感情のままに、主をそんな状態にした下手人を──。

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