第9話 反撃開始

勇気を出すだけか。


目覚めた俺はもう二度と着るつもりの

なかった制服に手を伸ばした。


────────────────────


教室に入るとクラスの連中が

ざわめきだした。


「あいつ学校辞めたんじゃねえのかよ」


「うわーもう退学しとけばいいのに」


そんなクラスメイトを余所に

落書きをされた自分の机に向かう。


あと三年。

耐えれば……あの家を出られる。

そしたら、遠くに行こう。


……いや……耐えるのはだめだ。

この現状を変える。

そのために、ここに戻ってきたんだろ。


「おい、お前ら静かにしろ。

今日は一学期の期末テストの日だ。

最底辺の君たちが挽回できるチャンスだぞ」


教師がそう言うと、

クラス中が盛り上がった。


この帝王高校は普通科や

情報科、体育科、総合科など

様々な学部があるおかげで、

偏差値45から75までの

幅広い学生が在籍している。


俺の在籍している普通科は総数700人。

17のクラスに分けられる。


上から特待生クラス、Aクラス、

Bクラスとなっており、

俺は最底辺のPクラス。


ちなみに、今のクラスは

入学試験をもとに分けられている。


学期末試験で毎回変更される

仕様となっているので、

俺たち底辺からしたら下剋上の

チャンスなのだ。


「絶対上のクラスになってやる」


「Fクラス以上は

あの綺麗な特別校舎に

教室があるんだよな」


「うわ行きてえ」


「俺らには無理だろ」


この帝王高校は完全なる

縦社会になっており、

上のクラスにいる生徒は使える

施設や待遇が良くなる。


底辺の彼らが今回の試験に

本気で取り組むのは当然だろう。


そんなクラスメイトたちを

眺めていたときだった。


廊下が騒がしい。


何かあったのかと視線を

向けたときだった。


「あのすみません、Pクラス担任の

高田先生はいますか?」


その聞き覚えのある声と

見覚えのある容姿。


「……あれ……漆原さんじゃない?」


「え!? あの特待生の?」


「可愛いって噂だったけど

マジで可愛いじゃん」


昨日会ったばかりの奏がそこにいた。


やっば……


俺はすかさず机に

顔を伏せて寝たふりをした。


最悪だ。

もしかしたら学校内でばったり

鉢合わせしてしまうかもと

危惧はしていたが、

何で特待生クラスの彼女が

この底辺しかいない

校舎にいるんだ……


「た、高田先生ならついさっき

いなくなりましたよ。

どこに行ったかは分からないです」


「あ~そうなんですね」


頼むそのまま帰ってくれ。

気づかないでくれ。


「ちょっと文化祭のことで

聞きたいことがあったんですけど」


そういえば、高田先生って

文化祭実行委員の面倒も見てたな。

それでか。


まあでもこれで職員室に行くだろ。


「あ、それと一年生の文化委員に

伝言もあるんですけど、Pクラスの

文化委員は今いますか?」


「あーいますよ。おい、成瀬」


人は驚きすぎると

体がびくっとなるって本当なんだと

今実感した。


寝たふりをしていたが、予想外の

出来事に飛び起きてしまった。。


「漆原さんが来てんのに寝てんなや」


クラスの誰かが嫉妬交じりの言葉を

吐いたが、そんなのはどうでもよかった。


しっかりと目が合ってしまった。


直後、ずかずかと奏が

教室に入ってくる。


「成瀬……君?」


目の前に迫った彼女は

まるで幽霊でも見たかのように

動揺していた。


「昨日……助けてくれた

成瀬敬君だよね?」


「……ち、違うよ……」


「ど、どうして……

同じ高校だったの?」


完全に無視された。


「だから……

俺成瀬敬じゃないって」


「そのノートに

成瀬敬って書いてあるけど」


「……」


「よかった……」


「よかった?」


「もう会えないかと思った。

昨日、警察が来てから

何も話せずにさよならしちゃったし」


「……幻滅しないのか?」


「幻滅?」


「俺がこんな底辺にいることに」


「全然!」


驚いた。

この学校は学力による差別が

根ずいているからてっきり

見下されると思っていた。

だから、この学校にいることが

バレたくなかったのだ。


そんな俺の考えを余所に、

奏はスマホを取り出す。


「連絡先交換しよ」


その奏の言葉にクラスのざわめきが

ピークに達した。


「何で成瀬が漆原さんと

連絡先交換してんだよ」


男たちの嫉妬の視線が集中する。


「けど、どうして成瀬君が

このPクラスにいるの?」


「漆原さん知らないんですか?

こいつこの高校で一番頭悪いんですよ」


その男子の言葉で

クラスに嘲笑が広まる。


見られたくなかった。

何でこうなるんだ……

俺がいじめられっ子だと

奏にバレてしまった。


やっぱこんなとこ来るんじゃ……


その瞬間だった。


奏が俺の耳元で囁いた。


「何でかは分からないけど、

私は成瀬君が凄いの知ってるから。

だから、今日の期末頑張って」


その言葉に胸が高鳴る。


そうだ。俺はこの現状を

変えに来たんだ。


「えーテスト用紙は全て回ったな?

では、よーい始め」


変えてやる。

見返してやる。

馬鹿にするやつら全員。


俺はペンを握り、がむしゃらに

ペンを走らせた。


────────────────────


入学試験以来のクラスを決める大事な期末。


その結果を見ようと全生徒が

外庭の掲示板に集まっていた。


この学校に首席で入学した

漆原奏も同様に。

彼女にとってこれは

授業料の免除がかかった大事な試験。


なのに、自分の結果よりも

別の名前を探していた。


「おい……やばくね?」


「誰だよこの人」


本当は上位50以内から

探していくつもりだったが、

周りの動揺の声ですぐさま頂点を見る。


「すご……」


思わず、奏はそう呟いた。


3位 大山 望

802/900


2位 漆原 奏

821/900


1位 成瀬 敬

900/900












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