第3話 一人目の住民

戦乱天使。

それは最近放送された秋アニメであり、

天使が人とタッグを組んで争う

バトルものである。


その戦乱天使の中でも

主人公のパートナーであり、

主人公に対する忠誠心、

純粋な強な、真面目で優しい性格、

そして素晴らしいビジュアルから

最も人気の高いキャラだ。


天使の象徴である頭上の

輪っかと白い翼。

オレンジ色のショートボブに

ぱっちりとした金色の瞳。

神々しい白い衣装に身を包み、

槍を手に持った彼女がそこにいた。


「……失礼ですが……貴方は?」


「……え」


あまりの綺麗さに言葉を

失ってしまった。


あのガブリエルに

話しかけられたことが

未だ信じられない。


「俺は成瀬敬……」


「成瀬敬……? 

名前からすると日本人?

懐かしい……

かつて私も日本人の男性と

パートナーを組んでいたのです」


知っている。

ガブリエルは現世で力を解放するために、

南拓斗という男子高校生とタッグを組み、

他のタッグを倒していった。

そして、最後まで

生き残ったガブリエルと

拓斗はそれぞれの道を進むために

さよならを告げた。


確か、最終回でガブリエルは

天界に戻り、戦乱を勝ち残った

褒美として天使の長になったはず。


「ところで、成瀬さん。

ここはどこでしょう。

私は先ほどまで天界に

いたはずなのですが」


「ここは異世界だよ。

ガブリエルの存在する

世界じゃなくて」


「異世界?

私は成瀬さんに別世界に

召喚されたということですか?」


「まーそうだね」


「一体……何のために?」


ガブリエルが戦闘体勢に入った。

鋭い視線を向けて、

槍の先を向けてくる。


まさか、私を倒して天使の長を

奪うつもりかと警戒しながら。


彼女はつい最近まで

戦っていたのだ。

そう疑ってしまうのも無理はない。


「違うよ。

ここで幸せに暮らしてほしいんだ」


「……はい?」


ガブリエルはぽかんと口を開けた。


「どういうことですか?」


「んー正直俺も説明された

ばっかりだからな……そうだ。

おい、ルーナ。

お前から説明してくれよ」


『それはできません。

なぜなら、私の声は成瀬敬にしか

聞こえないからです。

成瀬敬の口から説明してください』


まじかよ……


俺はできるだけ分かりやすく

ガブリエルに説明した。


「なるほど。

詳細は分かりましたが、

一つだけ確認したいことが。

私はいつ元の世界に

戻れるのでしょうか?」


あーそれは確かに。


「ルーナどうなんだ?」


『簡単に説明しますので、

成瀬敬は私の台詞を

そのまま口にしてください』


「分かった。

えーと、この世界に

招待された無生物は

元の世界に戻ることはできません」


「……え?」


「そもそも、

招待したと説明しましたが、

別世界からこの世界に

移動させたのではなく、

この世界で創造したのです。

つまり、この世界に訪れた。

そして、元に戻るということでは

ありません」


「私が作られた……?」


「はい。

そして、貴方は無生物であり、

記憶がありません」


「無生物?

いえ……私にはちゃんと

記憶があります」


「それは成瀬敬がアニメで

貴方の歩んだ人生を知り、

想像したからです。

それを私が記憶として

貴方の中に創造しました。

そして、貴方はアニメの

キャラクターですので、

生きていません。

人に生み出された概念です。

簡単に言えば、物語の人物です。

それは無生物に当たります」


「え!? 

私は物語の人物なのですか!?」


「はい。

物語の人物ですので、

貴方がいた世界は

存在しません。

ただし、目の前にいる成瀬敬は

生物ですので、彼の元の世界は

本当に存在します。

そして、彼の体は元の世界にも

存在しています」


え? そうなの?

じゃあ今の俺の体は何してるの?


「成瀬敬の体は元の世界で

睡眠状態にあり、

目が覚めると

意識は元の世界に戻ります。

そして、元の世界で

睡眠につくと再びこちらの

世界で目覚めます。

そして、記憶と経験値も

元の世界とリンクします。

これが生物と無生物の大きな違いです」


「つまり……生物を

この世界に招待した場合、

元の世界にも同じ人物が

存在するので、

記憶とかが繋がっている

ということですか?」


「そうです」


「けれど、私のような無生物は

そもそも元の世界とか

自分が存在しないので

記憶などが繋がっていないと?」


「その通りです」


すげえ。

俺何言ってるのか

あんまりよく分かんなかったのに、

ガブリエルは理解できたみたいだ。


「そうなのですか……

私は物語の人物で……

本当は存在して

いなかったのですね……

私が今まで経験したことも、

これからなすべきはずだったことも

全て作られた偽りのもの……」


そりゃショック受けるよな。

俺だって今までの人生が

作り物だって言われたら

生きる希望を失ってしまう。


何て言葉をかけたらいいのか

迷っていた俺だったが、


「でも……この世界に来た瞬間から……

私がこれから歩む人生は

偽りのものではなく、

本物になるということですよね」


どうやらそれは杞憂だったようだ。


「私ここでの生活が楽しみです!

よろしくお願いしますね!

成瀬さん!」






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