4-1-b なにがいけませんか?
「サクヤちゃんは?」
「え?」
「サクヤちゃんは、どんなライブしてるの?」
虚を突いて水を向けられ、ユウキは少し我をなくした。反射的に「あれ? 見たことなかった、まだ?」と聞き返してしまい、「うん。サクヤちゃんとユウキちゃん、遅い時間に出かけるから」と、知っていることを答えさせてしまう。華灯の口ぶりが寂しがるようだったことにも気づいて、ユウキは慌てて言葉を探した。
「えと……雀夜ちゃんは、歌が得意なんだ。物静かだけど、その気になれば人より大きな声が出せるし、元々女の子にしては低めの声でもあるから、歌に迫力があってね」
「身長は高いですが、とか言いそう」
「あ、言いそう……」
「じゃあ、サクヤちゃんも歌うのが好きなんだね。ハナビとおそろい~」
「好き? そう、だね。いつも楽しいって言って……あれ?」
ユウキははたと
パートナーのマスコットとして、雀夜のライブの分析は欠かさずおこなっている。ライブが一時禁止になってからも、記録したものを毎日見返して研究していた。ノートも作っている。
雀夜の魔力は《低音特性》。
声質ともマッチし、相性の悪い魔楽器操作をユウキが肩代わりするのも理に適っている。雀夜も納得ずくで、ユウキの指示するスタイルを実行している。
しかし、それは雀夜の意志か。
マジカル★ライブは義務ではない、はヨサクの口グセのようなものだ。休みたいときは休んでいいと、ユウキも雀夜に声かけをしてきた。
(じゃあ、雀夜ちゃんの〝楽しい〟って、なんだ……?)
ライブで歌に集中させるのは、人並みを大きく下まわる基礎キラメキ量に配慮してのこと。炊事を任せているのは、得意なことをさせてあげたいから。キッカのコミューンの魔法レッスンに通わせるのは、ライブで成長の喜びを少しでも多く感じられるように。と同時に、琉鹿子やほかの魔法少女たちとの交流の機会を与えるため。
必ず事前に当人の意思はたずねていた。
雀夜はすべてに「はい」と答えてきた。ただ、それがなんだというのか。
(好きにしていいって、言ってきた。やりたいように、自由にやっていいって。でも、それって、彼女のなにを知った上で言っていたんだ? 楽しめるなら好きなことのはずだとか、あたかも彼女自身がすべて選んだみたいに、見せかけてきただけなんじゃないか、ボクは……?)
すべては自由だ。誰もきみを縛らない。きみがなにを選ぼうとも受け入れる。
本当にそうなら、興味がなくてどうでもいいのと、なにが違うのだろう。
なんでもいいなら、誰でもいい。
「よぉし、ユウキちゃん!」
ためていたものを吐き出して満足したらしい華灯が、晴れ晴れとした様子で伸びをした。
「今日はもう一回いふえへあえへ……」
「あ。もう眠たい?」
「うむむむん、っぽいぃ……」
「晩ごはんも作らなくちゃだし、今日はもう帰ろっか?」
あくびに
フィールド展開前にいた住宅街の路地に戻る。辺りはすっかり
ユウキの目線も高くなり、足の裏に自分の体重と地面を感じた。と同時に、現実的な色と長さに戻ったツインテールが倒れこんできた。「おっと」と受け止めれば、チェックのシャツワンピース姿でうなだれた華灯が「うにゃぁ……」と力なくうめき声をあげる。
「お疲れ様。おんぶしようか?」
「うにに……ヨサクちゃんは腰痛めるからやだって……」
「ま、マスコットなのに……?」
魔法生物は病気にならない。
ユウキはまた苦笑しつつ、うしろを向いてしゃがみこんだ。小さな体が背中にのぼってくるのを待ちながら、なにげなく路地の先を見る。
そこで凍りついた。
十字路を横切っていく、オレンジ色のボブカット。最初の強烈な違和感は、ギターケースがないだけだとすぐに思い至る。男物の黒いジャンパー。小麦色の膝が
どこか小動物めいたそのうしろを、背の高い捕食者のような影がしずしずと追う。
部屋着のままのピンクのパーカーに、あたたかくてよく使うらしいカーキ色のキルトスカート。いつもより少し雑にまとめた黒髪のポニーテール。鈍く光る眼鏡のフレーム。
「さく、ゃ、ちゃ――」
血の気といっしょに全身の力が抜けたところへ、小さな体がおぶさってくる。身長140にも満たないその他愛ない重みに、ユウキはあっけなく押しつぶされた。
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