3-7 見ていてもらえますか?
「コード:『スカーレット★コワレ』ッ、グローリー・アウト!」
「コード:『ジャギー★ロッダー』……グローリィ・アウト」
「「ウィアー・オン・ステージッ!」」
景色が沈む。深海へ――
ギター少女のジャンパーが吹き飛び、白く長い
雀夜の制服のニットがほどけ、刃をまとう藍色の
ハーフパンツは焦げ茶のパンストと
プリーツスカートは膝に巻きつくような
オレンジの短い髪は白く色が飛び、長く伸びたぶんだけ朱色に染まる。頭にはピンと立つケモノの耳が。
同じく伸びたポニーテールは先端に行くほど青く輝く。そして左耳の上に、ねじくれた黒いツノが。
片や、
片や、
二股の氷柱の
氷柱の周りには、すでに巨大なクリオネに似た天使たちがひしめいていた。ただよっていた彼らの群れの中に魔法少女たちは出たらしい。群れは驚き、一斉に止まる。
「ふざけやがって……」
「もうあの通りで弾けねえじゃねえかッ。いい
ギターの握り方を決めながら、コワレは口をゆがめてジャギー★ロッダー……間鋼雀夜をにらんだ。当の雀夜は雷雲のような重い気をまといながら、不気味に静か。
「もうそんな必要ありませんよ。身柄を魔法生物管理局に引き渡せば、あとはチューブにつながれ夢見心地のまま養分を吸われつづける人生です」
「そんなバケモンじゃねえだろあいつら……」
やや気遅れ気味に反論してしまってから、思わず
「どうあれ、つながれてやるつもりはねぇよ。チューチュー吸いたきゃ腕ずくで来やがれ」
「
「なんでだよ……」
ふたたび顔をゆがめたコワレの胸もとに雀夜は視線を注ぐ。
コワレの上衣はおおげさな
雀夜は目の下のしわを濃くした。
「卑猥ですね」
「なんで言い直した?」
「雀夜ちゃん!」
ステージ外。若い男の声。
雀夜は少し首を動かし、横目に見た。コワレを正面として自分のステージの真横、そこに、子竜を模したようなひよこ色が浮かんでいる。
「デュエル……する気?」
「……ユウキさん、これは――」
「ボクは、承認できない……ッ」
雀夜はもう少し首を動かす。
あの青年の髪と同じ色のマスコットにはめずらしく、黒豆のような目の端をつりあげ、奥歯を噛むように小さな口をゆがめていた。憤り。けれどどこか、心細さを訴える不安げな表情。
雀夜は口をひらきかけ、彼のその顔をしばらく
「ユウキさん」声は、いたわるようだったかもしれない。
「このライブは、承認しないでください」
「え……」
いつものように
ユウキには、問い返しさえできなかった。
「いーのかよ?」コワレが無表情で問う。「オマエ、知ってるぞ? 初ライブでマスコットにギター任せてた〝
「低いほうがモテるんですよ、男の子には」
「ンな理由で来るやつゴミだろ」
「そう思うなら差別抜きで」
雀夜は片手を差し出す。握り返す手を切るようなガントレットを。
「先攻をどうぞ」
「ざけんな」
「ふざけていませんよ。泥棒呼ばわりしたお
「……」
無言で雀夜を射るコワレの背後に、突如炎熱がうずまいた。炎の中から現れたのは、火山の岩場のように赤熱する土の柱。よく見れば、所々の
「後悔すんな?」
「しませんよ」
前振りなし。
振りあげたコワレの左手、赤いハーフグローブをはめた指のあいだに、
振りおろせば、始まる。
溶岩のアンプは揺れるような和音を九度放った。別のアンプがドラムとベースの
オープニングから重いビート。うなりのコーラスとひずみの強いチョークサウンド。
一見して不穏なハードロック調とわかる曲。コワレは白から朱へグラデーションする髪を振り乱し、しぼり出すような声をあげる。
その熱波の届く場所で、ユウキは一音目から
(すごい……ッ!?)
聞き覚えのある曲だ。洋楽調で歌詞も英語だが、海外にルーツを持つ
(ただのコピーじゃない……声はもちろん、演奏のクセや音選びはあの子のオリジナルだ。自分を残したままにできる最小限のアレンジで、曲を完全に自分のモノにしている! 一度すべてをバラバラにして、ひとつに組み直したみたいにッ)
天使たちの反応も早かった。激しく羽ばたいて自分が出した泡をかき混ぜるのは興奮している証拠。ジワジワと温度をあげていく曲調にもかかわらず、すでに天使たちを捕まえている。
(こんなステージ、音楽にとことん、本気で向き合ってこなくちゃ……)
ユウキはハッとして、まだ動かない雀夜を見た。
差し出したままでいる彼女の武骨な手のひらには、ようやく子供のこぶしほどまで育った
(ニセモノ……それはつまり――)
「ユウキさん」
雀夜は動かない。
演奏を始める気配もないまま、共にステージの外にいるときのように。
「すごい人なのでしょう、彼女?」
曲はサビに入ろうとしている。元々激しい曲だ。デュエルだと思うと好戦的ですらあり、対戦相手の雀夜を誘っているかのよう。
歌声でないものはかき消される。それでも、ユウキにだけは届く。
「わたしの勝率は、どのぐらいですか?」
問う。答えはない。
誰であれ戸惑うだろう。しかし、ユウキの
「そうですか」雀夜はひとりうなずく。どこか、なぜかうれしそうに。「いいんです。これでいい」
雀夜の手から、クリスタルが浮きあがる。しかし天上には行かず、少し見あげる高さで止まる。
紫紺色の四角い石は、ほのかに稲妻をまとっていた。不穏に輝きながら頭上にあれば、いまにも
雀夜の左耳の上で、黒いねじれヅノが光を帯びる。「ユウキさん」と、
「楽しかったです。ありがとうございました」
雷鳴。
いったんは、逆さまのギターのかたちを成したように見えた。しかし溶けたように
尾は途切れず、筆で引いたような一本の線に。やがて、コワレの朱いクリスタルのすぐ近くまで伸びきると、先端から五線
音符はない。濡れて
硬質化したその黒い柄を、雀夜は歌うことなく握りこむ。
神がかる
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