3-5-ex★ やらかしましたか?


 魔力の配給日には、先に明細が届く。

 前例はないが、一度配給してしまえば魔力は回収が困難なだけに、確認用に送られてくる。ちなみにいろんな事情で電子データでなく紙の書面だ。ヨサクはだいたいわかると言ってまったく気にしないが、ユウキは毎度律儀に目を通す。


 その月も、届いたのは夕方の便。いつもように事務所兼ヨサクの私室兼みんなが集まる用となっている部屋に座って、ユウキは自分のぶんの封筒をあけていた。入っているのは白い紙一枚――のはずが、今日は青い紙も同封されていた。先にその青いほうをひらいた直後、ユウキの顔もみるみる真っ青になっていった。


「い……違反行為に基づく、懲戒処分ペナルティ……通知書?」


 書面のタイトルまで、震える声で読みあげる。

 すぐ下には『対象者』として自分の名前と所属コミューン名があった。そのさらに下には、端的な懲戒ちょうかい内容が記されている。




『減給。二回(二か月間)とする』




「まあ、なんつーか……ドンマイ」


 いつの間にか、ヨサクが背後に立っていた。あまりに気が動転しすぎていて、ユウキは彼が外から帰ってきたのにも気がつかなかった。


「先輩……これ……」

「なに、みんな通る道だ。キッカがどうだったかは、知らんけど……」

「あ、ああああああのときですよ、先輩ッ!」


 ユウキはいったん浮く勢いで立ちあがった。

 青い書面を握りしめ、百八十センチの長身で百七十五センチのヨサクに迫る。


「学校の前で張ってたとき! 先生に話通そうって、ボク言ったじゃないですかッ!」

「あーまー、そんなこともあったな」

「あったなじゃないでしょう!? 案の定通報されてるじゃないですかッ! だいたいッ、先輩だって他人事じゃ――」


 加熱しすぎたユウキはヨサクの肩につかみかかった。

 そのとき、反動でヨサクの手から紙が落ちた。


 いつの間にかあけていたらしい、ヨサク自身のぶんの封筒。いっしょに落ちたその中身は、白い紙が一枚だけ。

 ユウキは目から火が出そうになった。


「なんッッッッでぇ!? なんで白だけなんですかッ!? なんで、なんでボクだけ!? どんな手まわしたんですか!?」

「いや、なんもしてねーってばよ……」


 血走った目のユウキにヨサクはユサユサ全身を揺さぶられる。


 ひとしきり暴れて急にガクッと電池が切れたようにうなだれたユウキを見て、ヨサクはめいっぱいおだやかに語りかけた。


「安心しろ、ユウキ。先月は華灯が絶不調だった。おかげで俺ちゃんもすかんぴんだ。ひとりじゃないぜっ」

「コミューン崩壊寸前じゃないですかッ! ウソでしょう!? どっちか死にそうになっても魔力シェアの余地すらナシだなんてええッ!」


 ふたたび火がついたようにユウキは頭を抱え、膝をついて涙目でわめき始めた。


 いつも遠慮がちな後輩が大きな体でジタジタともだえている。ヨサクはやれやれと苦笑しつつ、足もとに落とされた青い紙を見た。くしゃくしゃにされたそれの隙間から文字を追っていて、ふと眉をひそめる。


「おい、ちょっと待て。なんだこりゃ……?」


 しゃがみこみ、青紙を拾って顔の前に広げる。うわの空でいる後輩をしり目に、ヨサクは懲戒内容の下の『懲戒事由』を読んで、一段と顔をしかめることになった。





『違反行為に基づく懲戒処分通知書』



〝次の者、次の事由につき、懲戒処分とする。〟


〝登録個体番号○○○‐△▼△▼△/マスコットネーム:ユウキ

 所属:一般コミューン『MIO』・第1ネスト(コミューンリーダー:ヨサク)〟



〝懲戒内容:減給。二回(二か月間)とする。〟



〝懲戒事由:割り当てエリア外での、規定をいちじるしくいつだつしたひんでのマジカル★ライブのかんこう当該とうがいエリア内コミューン責任者への連絡・相談をおこたった件をふくむ。〟



 ……。

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